81.王都へ

 ミラーディアが王都へ戻るにあたり、当然史郎達もいっしょに行くことになった。護衛も兼ねてだ。


 ソトハイムから王都ヘインズバーグまで、川に沿って南下、街道を行く。距離にして約280カルメテル、400キロメートルくらいだ。

 主要街道であり、それなりに整備されているので、馬車は時速15kmくらいの速度だ。一日7時間移動として、70カルメテル、約100キロメートル進める。なので、約四日の行程となる。途中ちょうど70カルメテル毎くらいに宿場町があるので、そこに泊まりながら進むことになった。



 出発までの準備は簡単だったのだが、史郎は馬車を改造すると言い出して、それに丸二日かけた。二日しかないので、あまり大掛かりなことはできない。改造のメインポイントは車輪だ。


 まず、史郎はスライムを狩りに行った。目的はイソブチレンとイソプロピルだ。ナフサのスライムから、その二つの物質を抽出・合成し、重合処理・共重合処理などは結界球の中で【化学合成】のスキルで行った。そうしてできたブチルゴムをチューブにする。さらに外側用のゴムタイヤ用にスチレンとブタジエンを重合処理、いわゆるスチレン・ブタジエンゴムだ。


 鋼のメッシュを作り、それにスチレン・ブタジエンゴムを融着させる。魔術的な融着なので、接着性の問題は皆無だ。そして、ブチルゴムのチューブに空気を充填し、外側にメッシュ入りのタイヤをかぶせ、さらに、それを馬車の車輪に取り付ける。とりあえずは車輪に直接、接着させる。


「すごいわね、これ。細かい振動と騒音が減ったわね」とアリア。


「うん、静かで快適」とシェスティア。


「まあ、とりあえずこんなとこかな? これ、ナガトさんと契約して販売すれば売れるかな?」と史郎がつぶやく。


「ああ、きっと大儲けできるぞ」と、手伝っていたアルバートが答えた。


 史郎は、こうして王都へ行く馬車すべてにゴムタイヤを付けるのであった。 ミラーディア達が大喜びしたのは言うまでもない。




 道中はわずか4日間。ソトハイムと王都の間は幹線街道であり、きちんと整備されているため、魔獣もまったく出現せず、問題になるようなことはまったく起きなかった。


 この世界は平和であり、治安も良いので、盗賊などというものは少ない。


 もっとも、いたとしても騎士で護衛された王族の馬車を襲う盗賊などはいないだろうが。



「おー、すごいぞ、あれか? あそこに見えるのが王都の城か! すごい! 美しいな!」と史郎が興奮をおさえきれないように叫んだ。


 王都まであと少しという場所で、少し高台になっている。なので、草原の向こうの王都が見渡せる。中心に見える城は、地球で有名なドイツのノイシュヴァンシュタイン城によく似ている。


 右手には、広大な湖が見え、街道に並走していたフレイザー川が注ぎ込む。王都ヘインズバーグと同じ名前を冠するヘインズバーグ湖だ。


「シロウ、あなたってお城見る度にはしゃぐのね」とアリアがあきれた。

「いや、あの城、すごくない? かっこいいよね!」と史郎は興奮を隠せない。

「シロウ、城好き? いつか自分の城を作れば?」とシェスティアがとんでもないことを言いだした。

「お! それはいいかもしれないな……。もし作るとすれば……」と史郎は考え始めた。

「私の部屋も欲しい。バルコニーから湖が見えるのがいい」とシェスティアが言い、

「おー、それはいいな。じゃあ、……」と史郎がさらにぶつぶつ言いだしたので、アリアは、史郎なら本当に作るかもしれないと少し怖くなったのであった。


 ちなみに、アルバートは、俺にも部屋を一つくれ、道場がいいな、と、ちゃっかり要求していたのであった。




 ミラーディアの隊列は貴族用の門から問題なく通過した。


 史郎達は王城にある迎賓館に宿泊することが決まっていたので、隊列は街の大通りを通過し王城へ向かった。



 城門を無事に抜け、迎賓館に到着すると、威厳のある老年になる手前の年齢のがっしりした人物が皆を迎えた。


「みなさま、長旅お疲れ様です」とその人物はあいさつした。

「パトリック、出迎えありがとう」と、馬車を降りたミラが言った。

「パトリック殿、久しぶりだな」とソフィアが言う。

「おお、ソフィア殿もお元気そうで。相変わらずお若いですな」とパトリックは返す。


「初めまして、シロウ・カミカワです。こっちは、仲間のミトカです」と史郎はあいさつしながら、握手しようと手を出した。


「これはご丁寧に。この国で宰相を務めておりますパトリックと申します。シロウ殿、ミトカ殿、遠路はるばる御足労おかけいたします」とパトリックもあいさつし、史郎の手を握った。


 全員あいさつし終わったところで、迎賓館に案内され、まずは、長い旅の疲れをいやすため、各自部屋で荷物などを整理し寛ぐのであった。


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