80.協力要請
ミラーディア一行は、無事にソトハイムの街に到着した。滞在は、アマンデール辺境伯領主館に隣接する迎賓館だ。
到着した翌日、関係者が招集された。
迎賓館の大広間に、皆が集まる。
ソフィア側は、ソフィア、シェスティア、アルバート、アリア、シェリナとアルティア、そして、史郎とミトカだ。
領主側は、ジェームズと長男スティーブン、それに執事のフレディック。
ミラーディア側は、本人と、近衛騎士のナディア、アレクセイ、アランの三人だ。
「ソフィア様、お久しぶりです」
ミラーディアはソフィアに会うと、満面の笑みであいさつした。
「ああ、ミラ、久しぶりだな。立派に、そして、美しくなったな。もう16歳か?」とソフィアは聞く。
「はい」と笑顔で答えるミラーディア。
「ミラちゃん、お久しぶり」とシェリナが言うと、
「シェリナさん!」とミラーディアは驚く。
「封印が解除できたんですね!」と叫んだ。
「ええ、シロウのおかげね。いきなり5年たったからびっくりだけど。ミラちゃんも大きくなって、見違えたわ」とシェリナ。
別の場所では、アルティアとナディア、アレクセイ、アランが再開を祝っている。彼らは昔の騎士仲間だ。
「では、始めようか」とジェームズが皆に声をかけた。
ミラーディアが書簡を取り出す。
「ソフィア様、陛下から書簡を預かってきました」と言ってソフィアに渡した。
ソフィアは書簡を読んだ。そして、皆に内容を伝える。
「国王陛下からの正式な要請だ。今王都で起こっている瘴気の異常発生と魔獣の狂暴化、そしてそれが引き金で発生する可能性があるスタンピードの恐れ。その事については女神様の神託があったそうだが、そのスタンピードに備え、私ソフィアと、使徒であるシロウに協力の要請だ。珍しく、王家、神殿、冒険者ギルド、そして、魔術師ギルドの連名だな」とソフィアは説明した。
「なるほど……。俺とミトカは特に問題はないな。王都には調査に行く必要もあったからもともと予定していたし。この国の首都だろ? 興味はある。それにシェスティアが言うには、王都には立派な城があるらしいからな」と史郎は軽く答えた。
「ははは。シロウは軽いな。城巡りが本音か? まあ、久しぶりの王都か、いいだろう」とソフィアも答えた。
「ソフィア様、シロウ様、ありがとうございます」
と、ミラーディアは史郎の物言いにくすくすと上品に笑いながら、満面の笑みで二人にお礼を言った。
その後、協議の結果、ソフィアの家族とアリアパーティー全員で行くことになった。
ソフィアは長らく王都に行っていなかったのであいさつ回りがしたい。そして、シェリナとアルティアは封印から解除されたことの連絡と、彼ら以外の者からみれば五年ぶりになるであろう旧友との再会だ。
アリアパーティーは、史郎とミトカが行くなら、当然パーティーとしていっしょにいくということになった。
出発は3日後だ。
◇
その夜、歓迎パーティーが城で開かれた。
当然史郎も参加することになったのだが、
「俺、そんなパーティーに参加するような服はないんだが?」と思っていたが、いつもの戦闘服でいいといわれたので、それを浄化で綺麗にして着ていくことにした。
そうして準備していると、ミトカとシェスティアが史郎の部屋にやってきた。
「ふふふ。史郎、私のドレスはいかがですか?」
ミトカはご機嫌でドレス姿になって、史郎を見つめてほほ笑む。
「え! それってもしかして……」と史郎は、思い出した。かつて自作ゲームのキャラ用にデザインした、唯一のドレスだ。某服装デザインソフトで試したもので、結構うまくできたと自画自賛したものだ。
濃い目の赤のゴシック調イブニングドレスで、ミトカに似合っている。
それが現物として、自分の理想の美少女が着て、自分の目を見てほほ笑んでくるのをみると、心臓が止まりそうなほどドキリとなった。
「……あ、あぁ、ミトカ、似合ってるぞ」と史郎はゴクリとのどを鳴らし、答えた。
「わたしのは?」とシェスティアも聞いてきた。
シェスティアは、少し幼い感じがなくもないが、少女が大人になる時特有の色気がある。エルフの血をひいているからか、美形だという事もあり、可愛いと綺麗が混じっている。ドレスは薄いブルーのおとなしめのイブニングドレスだ。
「ああ、シェスティアもかわいいぞ」と史郎は答えた。
二人は満面の笑みを浮かべ、史郎に近づいてくる。
「史郎、行きましょう」
と、シェスティアは史郎の腕をつかんで、引っ張っていく。
意外なことに、ミトカは後からついてきた。
史郎は、てっきりミトカがふざけてもう一方の腕をとるかと思っていたので、その予想外の行動に思わずミトカを見つめたが、それに気づいたミトカが、
『史郎、両方の腕をご所望ですか?』とひそかに念話で聞いてきた。
(いやいや、それはちょっとまずいだろ。いや、ミトカ、気を使わせてすまんな)と史郎はミトカに謝った。
『いえ、貸し一つということで』とちゃっかりしているミトカ。
(……)史郎は、そんなのどこで覚えたんだと思わずつっこみたくなったが、我慢した。
そうして、史郎達は部屋を出ていくのであった。
宴会場は、立食パーティー形式で、それぞれがワインなどを飲みながら食事を楽しんでいる。
出された料理は豪華で、料理のレベルの高さに、史郎は驚き、存分に堪能した。この世界に来て初めのころは、料理チートで! と、意気込んでいた史郎だが、いざ実際に生きるとなると、とてもそんな時間は無かった。なので、それなりの文明レベルで、それなりにおいしい料理があるのは非常にありがたかった。
「シロウ様」と声をかけられ、史郎は振り向いた。そして息をのむ。
ミラーディアがそこにたたずんでいた。
薄い黄色のベースのドレスを着こなしている。さすがに王族で、ドレスの質も着こなし具合もレベルが高いのだ。
「あぁ、これはこれは、ミラーディアさん、ご機嫌麗しゅう?」と史郎は緊張して変なあいさつをした。
「ふふふ、シロウ様、そんな堅苦しくならないでください。そして、ミラとお呼びください」とミラはくすくす笑いながら、人を魅了する笑顔で史郎を見て答えた。
「ああ、そうだな。すまん。こんなパーティーにはまったく慣れなくて」と史郎は言った。
「ええ、かまいません。ところで、この街、いえ、この国……、いえ、そもそもこの世界に来てまだ間もないと聞きました。この世界には少しは慣れましたか?」とミラが聞く。
「あぁ、まあ最初はいろいろ驚いたけど、面白い世界だと思うよ。このソトハイムもいい街だし、料理もおいしいし、皆もいい人ばかりだし」と史郎は笑顔で答えた。
「ふふふ。王都はもっとすごいですよ。楽しみにしていてくださいね。おいしいレストランも案内します。まあ、すべてが解決して落ち着いたらでしょうけれど」とミラはほほ笑んだ。
「そうですね。その際にはぜひ」と史郎も笑顔で答えた
「史郎。ミラーディアさん、美人でスタイルも良くて、好みですか?」とミトカが近づいてきてニヤリとほほ笑んで、耳元でささやきく。
少し酔っている史郎は、負けてはいられないと、
「……ミトカ、お前の方がもっとかわいいよ」と史郎はそれに対して返した。
予想外の史郎の返しに、ミトカの顔は思わず真っ赤になって黙り込んだ。
「ミトカ、どうして顔が赤い?」と妙なことに敏感なシェスティがほほ笑みながら二人に話しかけてきた。目は笑っていない。
「……い、いえ、少しお酒を飲みすぎたかもしれません」とミトカ。
「ミトカお酒飲めないはず。そもそも食事できない」とシェスティアはつっこむ。
「ははは。シェスティア、それくらいにしてやってくれ。シェスティアもかわいいよ」
と、史郎は言うと、シェスティアも顔を赤くし、「ああ、これが理由ね」とつぶやくのであった。
この日は、ソフィアや、シェリナ、アルティア、アルバート、アリア達も当然参加している。みな、着飾って、集まったこの街の要人たちと談笑していた。
史郎は、彼らの様子を見ながら、この世界に来て初めての華やかな出来事だなと感慨深く思った。
いろいろな人と話をし、触れ合う中で、この世界で生きていることを実感し、こんな生活もいいものだなと内心うれしくなるのであった。
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