82.神殿2

 次の日の朝、史郎達は、まずは神殿に礼拝に行った。ミラも巫女姫として同行した。


「おはようございます、ミラーディア様。朝早く何か御用でも?」

 と、神殿長のエリックが話しかけてきた。

「おはよう、エリック。今日は使徒様がいっしょです」とミラが言った。

「⁉ あのシロウ殿ですか?」とエリックは史郎を見て叫ぶ。そして、

「ようこそ、王都の神殿へ。神殿長のエリックと申します」とお辞儀をした。

「初めまして。シロウ・カミカワです。こっちは……」

「ミトカです」

 と、二人はあいさつした。


「今日は、奥の礼拝室を使わせていただきたいのですが」と史郎が聞く。

「わかりました。ではこちらへ」とエリック。


 全員で、礼拝室に入る。そして、お祈りをしようとすると、以前と同じく祭壇の上が光り輝き、半透明の女性の姿が現れて、皆に話しかけてきた。


 神殿長のエリックとミラーディアは驚いて、跪く。


「史郎、久しぶりです」とフィルミア。


「フィルミア様、お久しぶりです。無事王都まで来ました」と史郎は答えた。


「神殿長のエリック、いつも神殿の維持管理、御苦労です」とフィルミアはエリックに語り掛けると、


「もったいないお言葉です!」とエリックはひれ伏した。


 そして、

「ミラーディア、今日初めて会いますね。いつも神託の伝言、御苦労さま」とミラーディアにも話しかけた。


「はい。いえ、とんでもございません。光栄です」とミラーディアは跪いてお祈りの格好をして女神様を見た。



 そして、フィルミアが史郎とミトカ、シェスティアを見てほほ笑んだ瞬間、再び世界の時が止まった。


「史郎、シェリナとアルティアの封印解除、ありがとう」とフィルミア。


「いえ、何とかなってよかったです。それで質問なんですが……」と史郎は質問をする。


「まず、シェリナさんに感染したウイルスですが、エンティティ化されています。ということは、人為的なもの、作られた物、もしくは、システム的なものではないですか?」


「そうね。実はね、神界でも不審な動きがみられるのよ。ウイルスがどのように魔術と生命に影響するか、神界でもわからないので。いま調査中ね」

 と、フィルミアは言った。そして、


「ちなみに、ウイルスレベルだと、ある程度の塊全体でエンティティ化しているわ。個々のウイルスではなくてね。以前言ったことの訂正、いえ、補足かしら。でも、それでも普通の初期魔術精霊には神術は使えないので、あまり高度な精神汚染系の魔術が関連されているはずはないのよ」


「なるほど。でも、魔術レベルの精神攻撃系なら可能ということですか?」


「そうね、そうかもしれないけど……、前例がないわね。でも、調べてみるわ」とフィルミア。


「わかりました。次の質問は、DNAベースの生物と魂の接続I/Fはどうなっているのかなんですが」


「ああ、それは簡単よ。生物の感覚器官ごとに魂との該当する接続チャネルにつながるのよ。魂の受け入れチャネルのほうがはるかに多いから、そういう意味では、普通の生物は、魂と精神を完全に使いこなしているという訳ではないわね。あなたやシェスティアみたいに多重感覚と多重処理を活用すれば、もっと有効ね」とフィルミアは答える。


「なるほど。それは、考えませんでした。その方面での訓練が必要ですね……」と史郎は新しいアイデアにニヤリとした。


「えっと、次は、魔獣の魔術についてですが……」


「魔獣は、元から持っているその種族独自の魔術しか使えないはずよ。魔獣用の魔術精霊は瘴気精霊で、あなたの推察どおり、プロトタイプ式ね。個体はその種族のプロトタイプを継承するわ。そして、瘴気精霊は個々の魔獣に生まれつきインストールされるわね」とフィルミア。


「じゃあ、もしかして、個体の魔術精霊の、プロトタイプ上書きによる置き換え、もしくはメソッドやプロパティの上書きは可能ということですね?」


「理論上はね。でも、そんなAPIはないわね。危険だし」とフィルミア。


「……システム的に無理だということですか? ふむ、じゃあ……」

 と、史郎は思考にふけかけるが、質問の方を優先することにした。


「じゃあ、瘴気の発生過程の確認ですが、生物体内で発生の可能性はあるんですか?」


「生体内で? うーん、ないとは言えないけど……瘴気石を食べちゃうとか? でも、でなければ……瘴気発生の術式ってあったかしら? DNAベースの生物の場合は……」とフィルミアも考えに没頭しかけて、ふと我に返り、


「その件に関しては調べてから返答するわね」と言った。


 史郎は、ここで、ふと思いつき、質問する。


「ちょっと思ったのですが、魔法陣の最小の大きさというものはあるんですか?」


「ないわね。あなたもわかってると思うけど、そもそも大きさなんて関係ないわね。エンティティ化されている時点で、なんでも可能よ」とフィルミア。


「そうですね……。いえ、つい地球的な常識に囚われてしまって……」と史郎は返した。


 大きさ、つまり空間的制限は、フィルディアーナ世界での魔術にとっては、制限にはならない。魔術レベルとして使用者にとっての制限はあるが、魔術の仕組みとしての制限はないのだ。なぜならば、空間とは、視覚チャネルへの、単なる表現の一つにすぎないからで、実体はシーングラフでの単なるデータ構造上のデータだからだ。


「そろそろ、時間ね。きょうは、一つアイテムを渡しておくわ」


 と、フィルミアは言うと、史郎の手に光が輝き腕輪が現れた。


「使徒の証しの腕輪よ。この世界では、神殿、つまり聖女、もしくは、ヘインズワース王国の王族が所有し継承する巫女の腕輪に相当する物よ。近づけると、巫女の腕輪は赤く光り、使徒の腕輪は白く光るから、使徒としての証明のデモにちょうどいいわよ」

 と、フィルミアはほほ笑みながら説明した。そのことは彼らの伝承の中でも述べられているわと、微笑む。


「わかりました。有り難く使わせていただきます」と史郎は返事した。


「じゃあ、またね。ミトカちゃんも、ティアちゃんも、史郎の事よろしくね」とフィルミアは言うと、


「はい」

「わかりました」

 と二人は返事し、世界の時間が戻る。



「では、私はこれで消えます。シロウとは話をしました。神殿長のエドワード、巫女のミラーディア、あなたたち史郎のサポートをよろしくね」と女神の笑顔でいうと、フィルミアは消えていくのであった。


 ミラーディアと神殿長のエリックは、この日から史郎のことをフィルミア様の使徒様として、さらに崇めることになったのであった。

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