75.封印解除3

「母さん」とシェリナはソフィアを見てつぶやく。

「ソフィア師匠……これは一体?」とアルティアもあたりを見回した。


「ああ、あれから5年たったのだよ」とソフィアが言った。

「5年⁉」シェリナは驚きの顔でソフィアを見、そして、シェスティアとアルバートを見た。


「お前たちが魔獣を倒したことは覚えているか?」

「ええ、ついさっきのことよ」とシェリナ。「ああ、私たちにとってはね……」とつぶやく。


 そしてアルティアが、続ける。


「ああ。それで俺が、シェリナを救うために、封印を発動したんだが、一か八かの賭けだった。一応うまくいったということでいいのかな? で、その結果……時間が止まったということか? それで今は5年後、ようやく封印を解いてくれたということだな?」


 アルティアはそう推察した。


「ああ、そのとおりだ」とソフィア。そして、続ける

「シェリナの予想どおり、お前はウイルスというものに感染していた。そのままだと危なかったということだ。なので、封印は役に立ったのだ。だが、残念ながら、アルティアの封印を解ける者がいなかったのだ。私も試そうとしたが、無理だった」とソフィアは悔しそうな表情を浮かべ言った。そして、続ける。


「そして、今回、そこにいるシロウとミトカが、お前たちの封印を解除して取り戻してくれたということだ。さらに治療までしてな」とソフィアが言った。


 シェリナとアルティアは史郎の方を見た。

 史郎はほほ笑み返す。アルティアが史郎の方へ近づき、握手を求めた。

 史郎は、手を出し、しっかりと握手した。


「シロウ殿、そして、ミトカ殿。ありがとう。貴殿達のおかげで俺たちは戻ってこれたようだ。感謝する」とアルティアが史郎に感謝の辞を述べた。


 がっしりした手、しっかりした言葉遣い、立派な立ち居振る舞い、史郎はアルティアが立派な人物であることを感じるのであった。


「わたしからもお礼を言うわ。ありがとう、シロウさん、ミトカさん」とシェリナも礼を言った。シェリナはミトカと握手する。


 そして、シェスティアが史郎に駆け寄り、抱き着いて涙を流しながらお礼を言う。

「シロウ、ありがとう」


 その様子を見ていたシェリナは、あら? という顔をしてソフィアとアリアに目配せする。


 アリアとソフィアはほほ笑んでうなずいた。

 シェリナはうれしそうなほほ笑みを浮かべるのであった。


「シェリナさん、アルティアさん、これは魔力回復とHP回復の錠剤です。飲んでおいた方がいいでしょう」と史郎が二人に錠剤を渡した。


「へー、この5年でこんなものができたの?」とシェリナが聞いた。

「いえ、それ史郎特製よ。彼ちょっとおかしいから」とアリアがつっこんだ。

「シロウはすごい」とシェスティが胸を張る。

「まあ、とりあえず飲んでも大丈夫なのは保証するよ」とソフィア。



 そして、全員笑顔でソフィアの屋敷まで帰るのであった。




 翌日、朝食後、シェリナとアルティアは、当時の事を話してくれた。当時と言っても、彼らにしてみれば、つい昨日の事なのだが。


「私たちは、あの魔獣キラー・フォレスト・スネークと戦っていたのよ。4体いたわ。そのうちの一体のが私の腕を掠ったのよ」


 と、シェリナは思い出しながら話す。


「で、何とか魔獣は倒したんだけど、しばらくしてから、体調が急激におかしくなったわ。なんていうのか、そう、急激な魔力枯渇みたいな感じね。そして、精神異常を感じたわ。こう、狂暴的な何かがこみあげてくる感じよ」


 と、シェリナは説明する。


「で、直観的に思ったのよ、これはまずいとね。長年冒険者として活動してきたけど、この感じは良くないものだって、それも、何か周りを巻き込むタイプのね。今まで何回か見たことがあるから……精神攻撃系の魔獣にやられた高レベル冒険者の末路をね……」


「だから、アルティアに私を殺してってお願いしたのよ」とシェリナはアルティアを見つめ、悲しそうに話した。


「ああ、理解しているつもりだ、シェリナ。だが、俺にお前を殺せるはずがないだろう」とアルティアはシェリナの目を見つめ返して言った。


「だから、一か八か封印の結界を発動したんだ。それまで何度か、封印結界の可能性には気づいていたんだ。武術による纏と、魔術纏を高めると、不思議な力が沸き起こり、より聖なる魔術が使えるようになる感じがあった。その中に、物を封印するという感じのものがあって、少し試したことがあったんだ。一度もうまくいかなかったんだが……」


「……あなた、そんな封印を私にかけようとしたの?」とシェリナはあきれた表情を見せる。


「……いや、まあ、仕方ないだろ。死ぬよりましだ。結果的にうまくいったということ……かな?」とアルティア。


「ははは。そうですね、アルティアさんの封印はうまくいきました。同時に土魔法のクリスタル生成まで発動して、お二人はその中にいるという感じでうまく固まってましたが」と史郎は冗談っぽく言った。


「ある意味、うまく行き過ぎたというとこだな。なにせ誰にも解除できなかったんだからな」とソフィアが言う。


「それで5年か……。シロウが現れなかったら、何百年後に解除という場合もあったかもしれないわね」とアリアも茶化す。


「いや、まさにそうだな。冗談では済まないな」とアルティア。


「まあ、ともかく何とかなったということで、良しとしましょう。みなさんは、家族で積もる話もあると思います。今日はこれくらいで解散としましょう」と史郎は言い、その日、シェスティア達は、家族水入らずの時を過ごすのであった。

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