74.封印解除2
史郎はウイルス除去のコードをHLSLで書いた。コードの要は、問題となるウイルスのエンティティに付属する属性であるクラスIDをもとにした検索だ。見つかったウイルスに対してループ処理でひたすら破壊処理することになる。
史郎は、破壊が体にどういう影響を与えるかわからないと感じ、インベントリに転送することにした。
史郎は実際に自分の体で適当なウイルスを見つけ試してみた。なお自分の体にいるウィルスの場合はエンティティIDが無いので、タンパク質の形状による検索だ。
神力を合成し、それを使って魔力操作と同じように体内の細胞レベルの検索を行う。
――『【高度精霊魔術言語実行環境】レベル1 を取得しました』
――『【神術超精密魔力操作】レベル1 を取得しました』
「あー、これはキツイな」史郎は10分ほど試した後、ため息を吐きつぶやいた。
ウイルスの大きさは二百ナノメートル。大きさが極小だということは、数が圧倒的に多いということだ。数の脅威は侮れないのだ。
「とりあえず試すしかないな。魔力回復ポーションと、魔力蓄積。そうだ、魔力転送の魔導具も作って全員に協力してもらおうか」
そういって、史郎は魔力を人から人へ転送するための魔導具を作る。魔力吸収素子と蓄積素子、放出素子の組み合わせで、バトンのような棒だ。吸収側を魔力提供する人が握る。中央の部分が魔力を貯める魔石があり、反対側に魔力放出素子があり、魔力が必要な人が握ると、魔力を転送できるのだ。
「あとは、結界か。結界球と同じ要領だな」
と史郎は考えて、神力を発動。神力を操作し、3メートル四方ほどの箱を作成、独自の空間をイメージして、結界を作る。そして、その内部の時間を止めることをイメージした。
――『【結界】レベル1 を取得しました』
――『【時空間】レベル1 を取得しました』
そして、その結界をもう一つ作り、片方の結界に置いた石を、もう一つの結界に転送を試す。
転送はエンティティの起点オブジェクトの書き換えにより実現される。インベントリの仕組みと同じと考えてよい。
――『【転移】レベル1 を取得しました』
「よし、これで必要なスキルは大丈夫そうだな」と、史郎は安心したのであった。
◇
「よし、みんな準備はいいか?」と史郎は皆に声をかけた。
ここは封印の場所、今日はシェリナとアルティアの封印を解除する日だ。
「まず、俺がこの封印の隣に、別の結界を作る。そして、この封印の中の二人をそちらへ転送する。新しい結界内に移した時点では、まだ時間は止めたままだ。そして、俺とミトカとシェスティアで、ウイルス除去の魔術を実行する。これはおそらくかなり時間がかかると思われるので、踏ん張りどころだな」と史郎は説明した。
そして、史郎は続ける。
「ソフィア、アリア、アルバートの三人は俺たちへの魔力供給の手伝い役だ。最初はMP回復錠剤を渡してくれ。それは3回までだ。その次は杖の魔力充填から供給する。
もしそれでも足らなかったら、渡してある魔力譲渡のバトンで供給。
それでもだめなら、いったんそこで終了だ」
わかったと全員が真剣な表情でうなずく。
「【結界::時間停止】」
史郎が詠唱し、三メートル立方程の結界を作成する。この結界の内部は時間が止まっているはずだ。
そして、史郎は封印内部のシェリナとアルティアの存在を認識し【転移】と詠唱、二人を新しい結界内に転移させた。
二人の姿がはっきりと結界内に見える。当然微動だにしないが。
「母様、父様……」とシェスティアがつぶやいた。
史郎は一応鑑定する。シェリナに「魔力枯渇、狂暴化」の状態異常が確認された。史郎は、それをみて何か引っかかるものを感じたが、次のステップに進むことにした。
ちなみに、結界内は時間が止まっており、その中の存在は、「物」扱いなので鑑定が使える。
「よし、ミトカ、シェスティア、ウイルス除去を発動するぞ。シェスティアがリンク開始後、俺がコードの実行を制御する。行くぞ!」
「わかりました」「わかった」と二人は返事をした。
「【魂リンク】」
とシェスティアがつぶやく。
三人が淡い光に包まれて、光の細い糸が三人の間につながる。
そして、
「【HLSL環境::ウイルス除去コード】実行」
と史郎がつぶやくと、結界内部の二人が青く淡く輝いた。
結局かかった時間は1時間半ほど。魔力の回復は、史郎は錠剤1個で住んだが、シェスティアはソフィアからの魔力供給まで必要だった。だが、それで済んで上等だといえよう。
「もう大丈夫だな。鑑定でも状態異常はなくなった」と史郎が宣言する。
そして、
「よし、結界内の時間をこの世界の時間と同期する。そして結界を解除」
と史郎が言った。
結界が一瞬光ったかと思うと、消えてなくなり、シェリナとアルティアが動き出す。
「母様! 父様!」とシェスティアが叫んで、二人に抱き着いた。
「シェス……あなた、シェスなの?」
シェリナはいきなり抱き着いてきたシェスティアに、驚き、シェスティアを見た。
そして、周りを見回した。
「アルバートも」とつぶやき、ほほ笑む。
アルバートは静かにうなずいた。
「シェスティア、まだ終わってないぞ」と史郎が声をかける。
「ああ、そうだった」と、シェスティアは、シェリナを見て、その腕に治癒の魔術をかけて治した。
「シェス、あなた治癒魔法が使えるようになったの?」
と、シェリナは驚くとともに、大きくなった我が娘を愛おしそうに見つめるのであった。
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