70.ワイバーン1
「大変だ! ワイバーンが現れた!」
冒険者がギルドに飛び込んできた。
ギルド内は、その声を聞いて騒然となった。ワイバーンは大型の翼竜で非常に危険な魔獣なのだ。
しばらくして、その冒険者の報告をまとめたレポートが掲示板に張り出された。
要約すると、
― 5体のワイバーンが目撃された。魔の大樹海から飛翔したと思われ、ソトハイム方面へ向かってきている。
― 通常1体、多くても2体で行動する習性なのに、5体での群れての行動は異常事態である。
― 目撃場所は、北の砦の北東方面、歩いて2時間ほどの場所。徐々に南下していることが目撃された。最近討伐されたジャイアントボアの群れがいた場所の北方である。
冒険者ギルドは強制依頼を発動することになり、主な高ランクの冒険者はギルドに集まった。当然史郎達も招集された。
史郎は、ギルドに行く前にアリア達にワイバーンについて聞いた。
「そうね、標準的な大きさは、羽を広げると幅10メートル、長さは本体が6メートルくらい、しっぽを含めると10メートルくらいじゃないかしら。鋭いくちばし、羽についている手の鋭い爪。強靭なしっぽを素早く振り回して周りの物を弾き飛ばすってところかしらね」と淡々と話すアリア。
「五体いるというのがおかしいって報告されているが、そうなのか?」と史郎は聞いた。
「ああ、通常は1体、多くても2体で行動するな。群れで、というのは聞いたことがないな」とアルバートが答える。そして、続けた。
「それに、ジャイアント・ボアの件がある。俺には、それらが何か関連しているように見えるが?」とアルバートが珍しく意見を述べた。
「なるほどな……、何かが魔獣を魔の大樹海から押しやっているということか……? しかも、ワイバーンでさえも?」と史郎は同意した。
「シロウ、ワイバーンは強い。風魔術を使う。
「ワイバーンの平均レベルは600ですね」とミトカ。
「600? それはかなり高いな。俺たちのレベルは……」と史郎はしばらくステータスを確認していないことに気づいた。
すると、ミトカが念話で話しかける。
『史郎の現在のレベルは255です』
(まじか? いや、一対一じゃないとして、アリア、シェスティア、アルバートのレベルも上がってるし、それなりの武器もあるからな……。しかし、相手は5体だし……)と史郎が思案する。
『そうですね。何とかぎりぎりというとことでしょうか。史郎の早急な神術の会得が必要です』とミトカが史郎の目を見つめて言った。
「史郎、ミトカ、何話してる?」と見つめあっている二人を見て、シェスティアが割り込んだ。
「え? ああ、ワイバーンはかなり手ごわそうだから、どうしようかと……」と史郎はどもる。
「大丈夫。シロウなら何とかしてくれる」
シェスティアが期待と信頼の混ざった真剣なまなざしで、女神のような笑顔を史郎に向けた。
「……そうだな。約束だし、何とかしよう!」
史郎はシェスティアの笑顔とその目を見て、何だかやる気が出てきて、何とかなりそうな、いや、何とかしようという気持ちと力が、湧き上がるのを感じるのであった。
「おう、久しぶりだな」と男の冒険者が史郎に話しかけてきた。
「あぁ、えっと、ラリーさん?」と史郎が返す。
「ああ、いきなりランクA冒険者になったと聞いた時は驚いたが、まあ、あの実力じゃ当然か⁉」とラリーはシロウの肩をバンバンたたいて笑った。
「はあ、まあ」と史郎はあいまいに返す。
「ラリーさんたちも討伐に参加を?」
「まあな。一応ランクBだから、強制だな」とラリーはほほ笑みながら返した。
「よし、説明を始めるぞ」とギルドマスターのグレッグが声を上げた。
ランクAのアリアパーティー、ランクBのラリーパーティーのほか、十組程のランクA、ランクBパーティーが集まっている。
「今回の討伐は『漆黒の氷風』パーティーが主導での迎撃・殲滅作戦になる」とグレッグが説明を始めた。
「そして、あの賢者ソフィア様も参加してもらえる」と続けた。
その瞬間、どよめきが起こる。ソフィアは有名人なので、参加してもらえるということは、かなりの戦力になるとみんなは感じたからだ。
グレッグは作戦の概要を説明する。
― ソトハイム北側の草原の砦と城壁での迎撃態勢とする
― 先日史郎達が討伐した大量のジャイアントボアを餌に引き寄せる
― ワイバーンの先制攻撃と直接攻撃は「漆黒の氷風」とソフィアが担当する
― ワイバーンに追い立てられた魔獣が少なくない数がいるので、それらは砦の方で残りの冒険者が対応する。
そして、グレッグは続けた。
「そして、今回『漆黒の氷風』が各種ポーションを無料提供してくれることが決まっている。MP回復とHP回復の上級ポーションだ。一人それぞれ2本ずつ、あとで順番に取りに来てくれ」
とグレッグが言うと、冒険者たちは先ほど以上にどよめいた。上級ポーションは80ダルはする。それを2種類、合計4本を無料でとなるとかなりの価値がある。
史郎は、できるだけ負傷者や死者が出ないようにと、これまで練習がてら作ってはそのまま置いていた上級ポーションを提供することにしたのだ。
また、このことが、史郎達が独占してワイバーン討伐に向かうことへの反発をおさえることも期待している。レベル的にワイバーンに向かっていきたいという冒険者はあまりいないので杞憂なのだが、史郎は一応念のためと思い、在庫処分も兼ねての申し出だった。
「決行は明日朝いちばんだ。冒険者たちは、朝2時50分に北の門に集合。『漆黒の氷風』は砦で準備だ。解散!」
グレッグがそう叫ぶと、冒険者たちは各々準備のためにギルドの建物を出ていった。
◇
ギルドから帰った後、史郎達はソフィアを交えて作戦会議をした。
史郎は全員の戦闘力を考慮して提案する。
「先制攻撃は殲滅魔術で、正面からアリアとシェスティアのブリザード。以前よりパワーアップしているはずだからある程度効果あるはずだ。続けて、左側面から俺とミトカのライトニング、そして、右側面からソフィアのファイア・ボム、でどうだろうか?」
「ああ、それでいいだろう」とソフィアが同意する。
史郎は続ける。
「その殲滅魔術の目標は、ワイバーンを墜落させることだ。墜落した個体に対して、アルバート、ソフィア、アリアが、弱点を、えーっと、翼の付け根と首元だったっけ? を狙って剣で対応する。渡した剣を使ってくれ。ソフィアには俺の剣を渡しておくよ」
史郎はそう言い、例の魔剣をソフィアに渡す。
「ほぅ、オリハルコンか? これはまたすごいものを持っているな」とソフィアは感心した。
「シロウがつくった。みんなもってる」とシェスティアがうれしそうに言った。
「……私には?」とソフィアがにこにこして史郎を見る。
「……あぁ、えーっと、そうですね、お世話になっていますし、その剣をプレゼントします」と史郎は渡した剣をソフィアに譲渡することにした。
もともと史郎は金属棒が武器なので、特に使っていなかったから問題ないと史郎は考えることにした。
「ああ、ありがとう」とソフィアは満面の笑みを浮かべた。
史郎は続ける。
「こほん。えー、それで、アリアとシェスティアは必要に応じて上空に残った個体をできるだけ落とすようにすること。俺とミトカは上空から、残った個体の撃墜とおさえ込みをする、ってとこかな?」と史郎。
「そうね、問題ないわ」とアリア。
「私も問題ない」とシェスティア。
「よかろう」とソフィア。
「ああ、問題ない」とアルバート。
ミトカは特に返事せずに、ほほ笑みながらうなずいた。
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