69.指名依頼
「指名依頼?」とアリアは聞き返した。
「そうよ。あなたたちにギルドからね」と受付嬢のカレン。
史郎達は、今日もギルドで何か依頼を受けようということになり、ギルドを訪れた時にカレンから声をかけられた。
「以前話していた、街道近くでのジャイアント・ボアの集団の目撃の件よ。もしかしたらジャイアント・ボアの群れがどこかにできているかもしれないという可能性がますます高まったのよ。で、その調査と、もし可能なら討伐をお願いしたいの」とカレンが説明した。そして状況を説明する。
- 場所としては、目撃例を総合するとソトハイムの北西あたりだと思われる。
- 街道で商隊が襲われる頻度が増えている。今の所何とかなっているが、このままだと非常に危険だ。
「わかったわ。ちょっとみんなと相談するわ」とアリアは答える。
「別に受けてもいいけど?」と史郎は何も考えていない様子。ミトカは当然うなずく。
「わたしもいい。訓練の成果をみれる」とシェスティアはなぜかうれしそう。
「ああ、俺も問題ない」とアルバート。こいつも何も考えていないな……アルバートの表情を見ながら、アリアは感じた。
「……そうね。じゃあ、受けましょう」
意外とあっさりと軽く承諾するパーティーメンバー。こんなことでいいのだろうかと若干不安になりながらも、カレンに依頼受諾の返事をし、手続きをしてから街を出るのであった。
「あれ、こんなところに屋台街?」と史郎は北門の入り口手前付近を見てつぶやく。
「あぁ、あれね。冒険者たちの弁当用にね、朝に出るのよ。この時間に来るのは初めてだったかしら?」とアリア。
「シロウ、あそこのあの串焼きがおいしい。買っていこう」とシェスティアが史郎の手を引っ張っていく。
「ああ、わかったから」と史郎は返事し、アリアとアルバートともどもシェスティアについていった。
「よう、嬢ちゃん。いつものでいいか?」と屋台の親父がシェスティアを見て話しかけた。
「うん。皆の分もお願い」とシェスティアは笑顔で返す。
史郎は、屋台の親父が焼いている物を見て、ふと聞く。
「おやじさん、そのキノコは?」
「ああ、これか? これは山でとれる昔ながらのキノコだな、エンギリといって、うまいぞ。こっちのは、同じく昔ながらの、香りがいいキノコで、マトタケというやつだ。二つ合わせて肉といっしょに焼くと、これがまた
「……親父さん、キノコに詳しいのか?」
何か聞いたことのあるような名前のキノコだな、と思いつつ、と史郎は聞く。
「ん? いや、まあそれなりにはな。一応料理人だからな」と親父。
「じゃあ、最近見かける巨大キノコについて知っているか?」と史郎は聞いてみた。
「あぁ、あれか? 間違っても食べるんじゃないぞ? あれは毒キノコだからな。そうだな、最近確かに見かけるのが増えたか? でも、昔からあるぞ。といってもあんなに大きくなかったような気もするが……。ああ、それに、そのキノコだが、水に触れると胞子を振りまくから、雨の時や湿気が多い時は近づかない方がいいぞ」服に着くと厄介だからなとつぶやきながら、史郎に教えてくれた。
「ありがとう、おやじさん」と史郎はお礼を言い、串焼きを買って史郎達は街を出るのであった。
「あれか」と史郎達は少し高くなった丘の上から石の陰に隠れて、向こうの平地を見下ろした。
丘の向こうがわ、森の中の開けた場所に二百体余りのジャイアント・ボアがみえる。中央に泉があり、そこを水飲み場にして、周りに集まったのだろう。
よく見ると、奥の方の所々でジャイアント・ボアが暴れているのが見える。狂ったように近くのジャイアント・ボアにぶつかっては離れてを繰り返している。周りにいるジャイアント・ボアは、その個体に向かって攻撃していた。しかし、その問題の個体は、何かウィンド・ボールのようなものを発動しているふうに見える。
「あれは……。魔術が使えるのか? かなり狂暴化しているな?」と史郎はつぶやく。
「ジャイアント・ボアは魔術なんて使えないはず」とシェスティア。
全部で10体程の個体に異常行動がみられる。全体の数からいうとわずかだが、その異常さが際立つ。
史郎はふと泉の周りをみて、例の巨大キノコが群生しているのを見つけた。しかも、ジャイアントボアたちがキノコを食した様子が残っている。
「あれは、キノコを食べたのが原因か? いや、しかしすべての個体がおかしくなっているわけではなさそうだな」
「史郎、泉の周りの瘴気濃度が高いように思われます。瘴気視で確認してください」とミトカが言った。
史郎は瘴気視を発動し、キノコの周りの瘴気が濃いことを確認した。
「あのキノコと瘴気の濃さに何か関連性があるのかもしれないな」と史郎は思いついた。
「そうですね。これまでの観察からいうと、その可能性が高いですね」
「そんな関連性は、聞いたことはないわね」とアリア。
「私も聞いたことない。でも、シロウの言うとおり、今まで見た事実からキノコと瘴気の関連性は高い。屋台のおじさんが言ってた、水に触れると胞子を振りまくというのと関係があるかも?」とシェスティアが言った。
史郎達は、平地の奥の方、森との境目あたりの様子にも気づいた。
「北の方から群れで来た跡があるわね。森の中に最近できたばかりのような獣道ができていて、しかも乱雑で破壊の程度が激しいわね」とアリアが分析した。
「本来、このあたりにはいないはず。何かから逃げてきた?」とシェスティアがつぶやいた。
一体何がこれだけの数のジャイアント・ボアを追い立てたのだろうかと思案する史郎達であった。
「よし、とりあえず、観察は終了だな。殲滅魔術で一挙に行くか?」
「……一挙に?」とアリアが振り返って史郎を見た。
「ああ、二百体くらいなら、あっという……」と言いかけて史郎はやめた。そして、
「いや、それじゃ経験値稼ぎにならないな。まずシェスティアとアリアが例の風と氷の竜巻で
「ああ、それでいい」とアルバート。アリアとシェスティアもうなずいた。
「ああ、それから、これは訓練と思っていこう」と史郎は付け足した。
「了解」と皆は返事するのであった。
「精霊に願う、風に成りて、我に応えよ、かの地で、渦巻く嵐となり、すべてを吹き飛ばせ……」とアリアが詠唱し、同時に、
「精霊に願う、我が強く願いに応えよ、かの地を凍らせよ……」とシェスティアも詠唱する。
そして、二人同時に、
「ウィンド・トルネード!」「アイス・フリーズ!」
と、叫んだ。
すると、ジャイアント・ボアがいちばん密集しているあたりで竜巻が発生し、同時に、吹雪のように雪と氷が吹きすさぶ。
「おー、すごいな。これが『漆黒の氷風』の氷風の由来か?」と史郎は感心しながら竜巻の様子を見た。三分の二くらいは凍り付いたようだ。
「よし、行くぞ!」とアルバートが声をかけて走っていったので、史郎とミトカはついていって、片端から剣でなぎ倒していった。
「だいぶ片付いたか? よし残りは俺が」と史郎は叫ぶ。
上空へ昇り、まだ動いている魔獣をターゲットし、
「マルチ・ホーミング・ライトニング・ニードル!」と叫び、残りのジャイアント・ボアを倒すのであった。
その後、史郎はすべてのジャイアント・ボアの死骸をインベントリに入れて、アリア達三人にあきれられ、冒険者ギルドに報告後、大量の死骸を出して大騒ぎになったのはご愛敬だろう。
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