68.初めての依頼・スライムの谷
史郎達は、この街の周辺の調査も兼ねて、冒険者ギルドで依頼を受けることにした。
「とりあえず街の周辺を見て回りたいので、常時依頼を受けてみたいんだが?」と史郎は聞いた。
「常時依頼?」とアリアが、何で? という顔をして聞き返す。
「ああ。薬草とか?」と史郎。
「……なんで冒険者ランクAで薬草採取?」とアリアはあきれながら聞き返した。
「いや、初めての冒険者依頼は薬草採取だと決まってるから……それに、ポーションの材料も取っておきたいし」と史郎はほほ笑みながら答えた。
「……へー、決まってるんだ」とアリアは無表情だ。
「薬草採取はピクニックみたいでいい」
と、シェスティアが無邪気に言ったので、ではとりあえずこの町周辺の調査ということで、適当に森へ行くことになった。皆シェスティアには甘いのだ。
薬草採取なんて長い間行っていなかったから、ギルドで薬草の採れる場所を一応確認しておこうとアリアが言ったので、ギルドに寄っていく。
ギルドで調べたところ、今不足している薬草は北の森の川沿いでとれるらしいので、その場所へ行くことにした。
受付嬢のカレンからは、なんであなたたちが薬草採取? と、突っ込まれたのは当然であろう。
北の門を出て、歩いて一時間ほど、近くの川沿いの森にいく。そして、史郎は【探査】スキルを使い、薬草の場所を調べた。
北部のフレイザー川沿いはソトハイムから少し離れて以遠は、広大な
薬草は湿地帯あたりに多く群生している。
史郎達は、史郎とミトカの探査を使ってとりあえず薬草を採取した。
シェスティアやアリアたちも割と楽しそうに探しては採取している。こんなの久しぶりねーとわいわい楽しそうだ。
ひととおり採取した後、史郎はふと探査にスライムの群れを探知した。
「これは、スライムの群れだな。向こうの方、約800メテルか?」
と、史郎は皆に言った。
「あー、あの方角だと場所的に……スライムの谷ね」
と、アリアが答えた。
この
スライムは比較的討伐は容易だが、あまりお金にならないのでそれほど討伐されない。
しかも、討伐しなくても異常に増えるというわけでもなく、放置されているのが現状だ。
「スライムか! やはり、ファンタジー物と言えば、これだろう。これも常時依頼だったか? ぜひ行こう!」
と、いきなりテンションが上がる史郎。
アリアたちは、何がそんなに楽しいんだ、という顔で史郎を見る。
史郎のテンションが上がって、どんどん進んで行くので皆は仕方なく付いて行った。
スライムの谷は、最下部で幅20メートル程、奥行きは1キロほど続く、それなりの規模の谷だ。両側は割と険しい崖になっており、中心を幅3メートルほどの川が流れている。河原は石と砂が多く、どちらかと言うと粘土質だ。
スライムは、川から離れた崖側、砂地の上にいる。 いろいろな色のスライムが、うようよといる光景は、すごいのか気持ち悪いのか微妙だ。
「いろんな色のスライムがいるんだな」と史郎。
「まあ、色だけはカラフルできれいよね。でも私は苦手ね」とアリア。
「きれい。じつはここに来るのは初めて」とシェスティア。
アルバートは無表情で眺めている。基本的に彼は無口だ。
シェスティアが説明する。
「ある一定以上の威力の物理攻撃か魔術攻撃で簡単に討伐できる。ただ、スライムが破裂した時の液体が有毒だから、遠距離攻撃が良い。火魔術は避けた方がいい。スライムが爆発するから。爆発に巻き込まれてスライムの液がかかると大やけどする。ちなみに、討伐証明部位はコア」
史郎は試しに、近くにいた灰色スライムを棒で攻撃して倒したが、スライムは死ぬとコアを残し液体になって地面にしみ込んだ。
しかし、史郎はその匂いに気づく。これはガソリンか?
「史郎、成分はナフサですね」とミトカ。
「まじか? それは、なんとも都合が良すぎない?」と史郎は驚いた。
「いえ、自然に原油が湧き出ていると思えば、同じことです。今のところ、この世界ではこのスライムの有用性は認識されていませんね。微妙に捕獲しにくいうえに、標準的な攻撃手段である火魔法だと爆発の危険があって、しかも、ギルドでの買い取りが魔石のみなので。ちなみに、灰色スライムはナフサですが、黒スライムは成分的に原油に近いですね。黒系統の色の違いは精製度合いの様です」
なるほど。しかし、これはこの世界の化学工業発展の可能性があるな、と思う史郎であった。
で、あの違う色のスラムはどういう物質なのだろうか。と史郎は思い、各色のスライムを鑑定と分析で確認した。
銀スライムは硝酸銀、各色のスライムはフェノール、ブタジエン、スチレン、等々の有機化合物で、色がついているのは、各種顔料が含まれているからだ。
「これはまた……何か意図的な物を感じるが、スライムって一体何なんだ?」と史郎は余りにも都合がよい成分に言葉に詰まった。
「史郎、もともとこの世界のダンジョンは資源として神によって作られました。なので、スライムもその一環なのかもしれません。瘴気精霊による直接の魔獣生成の件ですが……」
瘴気精霊による生成、いわゆる「モンスターポップ」と呼ばれる仕組みだが、マナから瘴気、そして瘴気とメタンの環境で魔石の元が生成された後、ダンジョン内では、ダンジョンコアが魔石の元を素に任意の魔獣を作り出す。
しかし、ダンジョン外ではスライムになる。そして、スライムはメタンやほかの炭素化合物などのさまざまな物質を吸収し、いろいろな無機・有機化合物を生成するのだ。実は、スライムはこの世界では石油に相当する資源である。
ミトカが説明すると、史郎は、なるほどよくできているなと納得するのであった。
史郎はふとスライムのコアを取り上げてよく見てみた。通常の魔石と似ているが、何か薄い膜のようなものでコートされている。
史郎は気になって、その膜のようなものを観察すると、小さな魔法陣のようなものがたくさん描かれているのに気づいた。
「ああ、もしかしてこの魔法陣が化学合成、もしくは、物質合成の術か?」と史郎は感心するのであった。
「シロウ、スライムに何かあるのか」とシェスティアが聞いてきた。
「ああ、無限の可能性だな。ものすごく有用な資源になる。一度ソフィアに相談した方がいいかもしれない」と史郎は答える。
そのやり取りを聞いていたアリアは、
「シロウ、その話……」と言いかけて、口をつぐんだ。
史郎達は、史郎の好奇心にしたがってスライムの谷を奥へ進んだ。川の流れに近い場所はスライムがいないので、石の足場にさえ気をつければ、特に問題なく上流の方へ進むことができる。
谷の幅が5メートル程になって、スライムの数も減少したあたりで、ふと史郎は足を止めた。谷の方を凝視する。すると、
――『【瘴気視】レベル1 を取得しました』
谷の奥に瘴気の濃い場所がある。そして例のキノコがたくさん存在するのだ。
「瘴気だな。これ以上は危険か?」と史郎。
「こんな奥まで来たのは初めてね。瘴気の濃さが分かるの?」とアリア。
「ああ、わかる。そしてこれ以上進むと瘴気中毒を起こすな」と史郎は答える。
谷の両側からは、小さな滝が無数にあり、滝の水しずくあたりに霧のように舞っている。
――この濃い瘴気は、谷だからか、それとも、何か瘴気を発生させるものがあるのか? それに、あのキノコの数。瘴気が濃いから、キノコが増えるのかな?
史郎は疑問に思ったが、鑑定や観察・分析では特に何も分からなかったので、そのまま引き返して、今日は帰ることにするのであった。
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