67.魔術師ギルド
「ポーションを売りたいんだけど、どこに行けばいいかな?」と史郎は皆に聞く。
「ポーション? ああ、それなら魔術師ギルドだな。ついでにギルドに加入してライセンスをとっておくと便利、というか販売したいのなら必要だが……シロウ、ポーションが作れるのか?」とソフィアが答えて、聞いてきた。
「ああ、一応作れる。作ったストックがあるし、俺はこの世界のお金を持っていないので、稼ぐ方法の一つとしてどうかと思って」と史郎は答えた。
「……なるほど。まあ、いい機会だ、連れて行ってやろう」とソフィアが言ったので、全員で行くことにした。
(それに、シロウの能力ももう少し詳しく見たいしな)とソフィアはつぶやいたのだが、それは誰にも聞こえなかった。
魔術師ギルドは、街の中心より南側、商業地区にある。冒険者ギルドと同じような石造りの3階建ての立派な建物だ。
ソフィアが先頭に、建物の中に入った。
「あ! ソフィア様。お久しぶりです。本日はどのようなご用件ですか?」と受付の女性が話しかけてきた。
「ああ、エリカ。久しぶりだな。今日はギルド登録の紹介に来た」とソフィア。
「え、ソフィア様の紹介ですか? わかりました。少しお待ちください」とエリカは言い、奥へ行く。しばらくして戻ってくると、もう一人、人物を連れてきた。
「ソフィア、久しぶりね。たまには顔を出してくださいな」とその女性はソフィアに話しかけた。
「ああ、アリス、久しぶりだな。いや、すまんな。何かと忙しくてな」とソフィアは答える。
「それで、あなたの紹介で魔術師ギルドに登録ですって? 珍しいこともあるわね」とアリスはソフィアの横にいた史郎に鋭い目線を向ける。
「ああ、紹介しよう。昨日ランクA冒険者になった、シロウだ。魔術のレベルは私が保証しよう」とソフィア。
「昨日? ランクA冒険者に? 冒険者っぽくない風貌だけど……。へぇー。あなたが? ソフィアが保証するなんて、どんな腕前なのかしら?」とアリスはほほ笑む。目は鋭く史郎を値踏みするようだ。
「あぁ、まあ、魔術は得意だな」と史郎は苦笑いしながら、答えた。
「まあいいわ。とりあえず基本的な試験はしましょう。奥の試験場へどうぞ」とアリスは言い、全員が建物を出て奥にある体育館のような場所へ案内した。
その建物は、一方の壁はオープンになっており広場に面している。広場の先には試験用の複数の的が置いてある。
体育館の内部の一角には、試験管などの化学実験で使うようなガラス道具などがあり、ポーション作りや錬金術の試験場所にもなっている。
「試験自体は簡単だわ。あなたが使える最高難易度の魔術を見せるか、あなたが作れる最高品質のポーションを作って見せるか、あなたが作れる最高品質の魔鉱を作ってちょうだい。それぞれライセンスが違うから、自分が欲しいライセンスでできる分だけでいいわよ」とアリスは説明した。
さて、ライセンスと聞いて、黙っていられないのが史郎だ。自分が取れるかもしれないと思うライセンス、つまり、資格試験などは、取らずにいられない性分なのだ。
「わかった。まずは簡単なところで、魔術かな?」と、史郎は広場の奥にある試験用の的を見る。複数人をテストするためか、的が10カ所ほどにある。
史郎はおもむろに魔術を唱えた「【マルチ・ホーミング・ライトニング・ニードル】」
すると、一瞬で、史郎の頭の上に、魔法陣が10個輝き、その魔法陣から、光の棒が現れ、10カ所の的に跳んで行き、的に刺さり、電気火花を発し、しばらくして消滅する。
「「「⁉」」」
ソフィアとアリス、エリカは驚愕の表情でそれを見た。
「あー、まぁ、こういう反応よね、普通」とアリアがつぶやく。私だけじゃないわよ、と。
シェスティアとミトカは、当然というような、なぜか自慢げな顔をして、笑顔で佇んでいた。
「えーっと、こんな感じでいいですかね? で、次ですが、ポーションを作りましょう」
と、史郎は言うと、結界球を浮かべ、以前シェスティア達に見せた要領でポーションを作った。なお、史郎は少し控えめに、特級魔力回復ポーションにした。
「これが、特級魔力回復ポーションです。で、最後に……」
史郎は重さ5キロほどの鉱石をインベントリから取り出して、空中に浮かべる。「これは、銀鉱石ですね」とアリス達に見せる。
エリカは「……そうね」と言い、唖然としながらも、鑑定して確認した、と皆に言う。
そして、史郎は「【分解】」と唱え、銀金属を分離する。
「で、銀のインゴットですね」と再びアリス達に見せる。エリカは再び「……そうね」とつぶやいたきり黙り込む。
「じゃあ、【魔力付加】」と史郎は唱えると、銀は光り輝き、光が収まると、青白く輝く金属ができ上がった。「えーっと、ミスリルですね」と史郎は言って、テーブルの上にミスリルのインゴットを置いた。重さは2キロほどある。
全員が、黙り込んだ様子を見て、史郎はいぶかし気に、
「えーっと、何かまずかったでしたっけ?」と聞いてきた。
「……あのね、シロウ、そんな非常識な作り方をいきなり見せたら、驚いて声を失うのは当然なの」と、アリア。
「さすが、今までいちばん驚いているアリア姉。耐性ができた?」とシェスティアがふと我に返ってつぶやいた。
「シェス……、いや、まあ、そうかもね」とアリア。
「シロウ、すごいとは思っていたが、想像以上だな。どこの誰が、ミスリルインゴットを作り出すんだ? 特級ポーション? をそんな量を一挙に? しかも、最初のあの魔術は一体なんなのだ? あんなの初めて見たぞ」
ソフィアもさすがに驚いたのか、少し狼狽したような表情で話す。
「……鑑定の結果、すべて本物です」とエリカはポーションとミスリルインゴットを見ながらつぶやいた。
「……ああ、ソフィアの紹介というから、ある程度は実力があるとは思っていたが、これほどとは……」
アリスも我に返り、茫然とした表情でつぶやいた。
「まあ、ともかく、わかったわ。これは……そうね、三種類のライセンスを発行しましょう。魔術師ランクA、創薬士ランクA、錬金術師ランクAでいいわね」
アリスはため息をつきながら言った。「三つのランクAなんて聞いたことがないわ。それも一度に……」とつぶやきながら。
冒険者ギルドカードを持っているかと聞かれたので、それを渡し、登録してきますというエリカの背中を見送りながら、史郎は質問する。
「ちなみに、魔導具を売るにはライセンスが必要なのか? 価格に制限とかは?」
「魔導具を作って売るには錬金術師のライセンスが必要だわ。ちなみに、魔導具の値段は、魔導具ごとに違うので一概に何とも言えないわね。商業ギルドともかかわるし。そうね、魔術士ギルドの説明をしましょう……」とアリスは言い、説明を始めた。
魔術師ギルドの主な業務は、魔術書の販売や魔導具の作成・卸、そして、魔術師の種類とランク――魔術師階級と呼ばれている――の試験を行い、ライセンスを発行すること。
冒険者ギルドとは少し趣が違って、メンバーのレベルの査定と保証を行うのが主な仕事なのだ。
そして、三つの部門を運営している。
魔術士部門、錬金術士部門、薬師部門だ。
錬金術士部門は錬金・鍛冶、魔導具作成など、そして、薬師部門でポーション作成・販売を行っており、この部門でポーションを作るメンバーは創薬士と呼ばれる。
「まあ、そのほか、細かいことはソフィアに聞いてね。彼女はこのギルドの顧問役なの」とアリスは言い、苦笑する。
「ふん、無理やり作ったポジションだろ? まあ、説明はしておくよ」とソフィアも苦笑しながらうなずいた。
「ギルドカード更新しました」とエリカが戻ってきて、史郎にカードを返した。
史郎はギルドカードを確認した。
ギルド証明書
名前: シロウ・カミカワ
パーティー: 漆黒の氷風
冒険者ランク: A
魔術師ランク: A
創薬士ランク: A
錬金術師ランク:A
賞罰: なし
「おー、いいな! ストレートAだぞ!」と少しうれしい史郎。
「シロウ凄い」とシェスティアが史郎を褒める。
「こんなカード持ってる人は初めてじゃないかしら」とアリア。
「おそらくそうだろうな」とソフィアが同意した。
「えー、それで、今日の本来の目的は、そのポーションを売ることなんだけど、ギルドで買い取ってくれるのか?」と史郎は当初の目的を思い出して聞いた。
「ああ、特級ポーションなら大歓迎だ。通常中級までしか作れる人材がいないからな。で、通常この瓶一本で320ダルだな」とアリス。
史郎が作った量は約4リットル。ポーションは、瓶、いや、地球ふうに言えば試験管のようなもので、80㎖の容量に詰めて扱われる。なので、50本分はある。合計16000ダル。金貨16枚だ。
「おお、結構な額になったな!」と史郎は無邪気に喜んだ。
「シロウ、分かってないと思うけど、一般的な冒険者の月収は金貨2枚よ」とアリアがつっこんだ。
「え、そうなのか? じゃあ、ポーション作って売った方が効率いいじゃん?」と史郎。
「シロウ、普通はそんなの一瞬で作れない」とシェスティアが珍しくつっこむのであった。
「そういえば、このミスリルのインゴットも買ってくれるのか?」と史郎は聞く。
「いえ、それは鍛冶屋にでも持って行って。喜んで買ってくれると思うわ」とアリス。
「シロウ、一応それについても言っておくけど、普通、試験で作るのは、いえ、普通の錬金術師は、せいぜい大きさ2セトメテルくらいよ。そんな大きさは作れないわ」とアリアが解説した。
「……そうか?」と史郎は苦笑いする。
『史郎。皆が驚く様子を見るのは楽しいですね……』とミトカがひそかに史郎に念話で話しかけた。
(……ミトカ。喜んでないで、知ってたんなら注意してくれよ……なんか、良くない方向に性格が作られてきてるのでは?)と史郎は若干不安になるのであった。
ミトカは口に手をあて、笑いをこらえるような、いつもの悪戯っ子のような笑顔で史郎を見返すのだけであった。
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