66.魔法と神魔術

「最後に魔術についてですが、アリアたちに聞いたところ、この世界では詠唱か魔法陣で魔術を発動すると聞いたんですが?」

 史郎が質問する。


「ああ、そうだ。古代から伝わっている魔導書に基づいた詠唱、もしくは、魔法陣が基本だな」

 ソフィアは、アリアたちと同じ内容を答えた。


「ただし、それは簡易版の魔術と言うべきだろう」ソフィアは続けた。

「簡易版?」とアリアが聞く。

「ああ、簡易版だ。定型魔術と言ってもいいが」とソフィアはニヤリとして史郎を見ながら言った。


「気づいているんですか?」と史郎。


「ああ、ある程度魔術をマスターした人間ならだいたい気づく。本来は詠唱が要らないんじゃないかと、な」とソフィア。もっとも、だからと言って、詠唱無しですぐ使えるようになるわけではないが、と続けた。


 この世界で今使われている魔術は、史郎の設計上で定型神魔術といって、詠唱という魔術発動制御の構文が決められていて、その詠唱であらかじめ決められたとおりに魔術が発動する。

 初級、中級、上級と魔術の級が上がると発動が難しくなるようにできているが、本人のレベルや属性、魔力量、資質によって、使えるようになったりならなかったりする。


「そして、魔術と同じくらい重要なことだが、しかし、この世界ではあまり知られていないが、武術のレベルが高度な魔術の発動に必要不可欠だということも、魔術と武術をある程度マスターすると気付く」とソフィア。そして、続けて話す。


「そして、神術だ。古い文献で一度目にしたことがある。魔術、そしてある一定以上の武術レベルを組み合わせて、より上位の魔術が使えると。この世界でこの事実を知っているのは、創世の歴史の継承者のみだ。さらに、実際に使えるのはごく一部だけだな」とソフィアは話し終えた。


「シロウ、師匠の言っている一定以上の武術レベルの事って、あなたが教えてくれた気術の事?」とアリアが聞いてきた。


「ああ、そうだ」と史郎が答える。


「気術?」とソフィアが聞く。


「ああ、ソフィア。気術だ。あなたが言っている『ある一定以上の武術のレベル』を達した時に得られるものというのは、気術と定義されている。神魔術の一部だ」と史郎は答えた。


 史郎は、体系としての神魔術について、みんなに解説することにした。



 この世界の魔法は、正式名称「神魔術」と言い、魔術、気術、神術からなる。


 いわゆる「魔法」は魔術の部分で、かつ、普通に使われている詠唱による魔法は「定型魔術」と呼ばれ、使いやすいように用意され、あらかじめ定義された物。


 成人の儀で魔法が使えるようになるのは、魔術精霊と契約することにより、その魔術精霊が本人の魔力をもとに定型魔術を使えるようになるから。


 気術とは、武術の訓練でよく発達する「気」に関係する術。実は体内には魔力と似た気力があり、それを源として発動する術。


 神術は、魔力と気力を合わせることによって使えるようになる。使うのは難しく、実は史郎にもまだ使えない。


 精神の働きである思考と想像力は、それ自体が何かをする起動力になり、イメージという。


 本来の神魔術は、そのイメージをもとに発動できる。イメージをもとに発動するには、魔力操作と魔力制御をマスターする必要がある。



「なんと、そんなふうに体系的に組み立てられていたのか。いや、それは当然か、これだけの仕組みだ、何らかの明確な設計がないはずはないか……」とソフィアは驚きと感心の複雑な感情を吐露する。


「まあ、そういうことです。でも、ソフィアさんも訓練すれば、すぐに定型魔術じゃない方法で使えるようになりますよ」と史郎は言った。


「師匠、見てください」とアリアは詠唱なしで、水のボールを作り出した。


「ほう……。なるほど。アリアができるのなら、私でもできそうだな」

 と、何かにチャレンジする時の獰猛なほほ笑みを浮かべるソフィアであった。




「それで、ソフィアさんは、俺の説明した神術も使えるんですよね?」


「ああ、まあ、本当の神術かどうかわからんが、今までの私の知識では理解できなかった術があるんだ」とソフィアは言い、ちょっと見せよう、と言って術を発動しようとした。


 ソフィアは目を瞑り、集中する。


 すると、体が薄く赤く光りだす。


 そして、少したつと、薄く青い光が加わり、混ざり合ったかと思うと、白く薄い光が体を纏う。


 ソフィアはこの状態で目を開け、史郎に話しかけた。


「この状態だ。ある時突然この状態ができるようになった。たしか、いつだったか、戦闘中に魔力纏を使いつつ、剣で戦っていた時だな。かなり厳しい戦いで無我夢中だったのを覚えている。この状態でパワーアップしたのでその時は難を逃れたのだが……。だが、ここから何がどうできるのかが分からん」とソフィア。


 その様子を見ていた史郎は、驚く。魔力視と気力視で確認して、両方の力が均等に交じり合い、重なり合っているのが分かる。さらによく見ようとして、


 ――『【神力視】レベル1 を取得しました』


 史郎は、神力が見えるようになった。


「あぁ、これが神力か。本当にすごいな。独力でその状態に持って行けるとは……。その状態は、まさに魔力と気力が重なり合って、神力となっている状態だ」と史郎は説明した。




「そこまでできるのなら、神魔術を会得するのも簡単でしょう。いっしょに訓練しましょう」と史郎はソフィアを誘った。


「ああ、ぜひご教授願う」

 と、史郎に頼むソフィアであった。


「私も」とシェスティア達は、二人の様子を見て、うれしそうな笑顔で、自分も参加すると表明するのであった。

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