65.政治・経済・教育

「この世界の国々や政治形態はどうなっているんですか?」と史郎は聞いた。


「ああ、それはな……」と、ソフィアが地図を広げながら説明する。


 今、史郎たちがいる街、ソトハイムは、ヘインズワース王国の北端に位置する。

 すぐ北に魔の大樹海がある。東方にエルフの王国アマティアス。南東方向に魔術学園王国オックスドニア。はるか南に商業連合都市国家フェリオリンズ。

 オックスドニアのすぐ南東には獣人の国ビスタイル王国。


 ヘインズワース王国、オックスドニア、フェリオリンズに囲まれた小さな国が、フィルミアン神聖国。神殿の本拠地だ。第三の『深淵の封印』のある場所でもある。


 ヘインズワース王国の西端、魔の大樹海との間に、ドワーフの国メテリオール王国。

 魔の大樹海の北に、竜人族の国、ドラゴニア王国。

 魔の大樹海の西端に小さな領域で魔人国。


「これらの国々を合わせて、この大陸の「セントリア地方」と呼ばれている。これがざっとした地理だな」とソフィア。そして、と続ける。


「政治的には、基本的にどの国も王制だな。各国に王がおり、貴族が忠誠を誓い、それぞれ領地を管理している。それぞれの国はその国特有の強みがあり、各国が協力し合って共存しているという状態だ」

 と、ソフィアは説明した。


「だいたいにおいて、統治は平和的だ。もちろんうまくいっていない地域もあるが、神殿や各種ギルドが監視しているから、そうそう変なことはできない。それに、そもそも貴族自体が創世の時代より受け継がれてきた平和的共存、多様性発展の思いが強いから、それを目指して統治しているはずだ」とソフィアは笑顔で話した。


「ああ、ただ、唯一違うのは、フィルミアン神聖国だな。あの国は、女神フィルミア様の使命に基づき行動するという教義がある。神殿ネットワークは、ありとあらゆるところにあって、社会のセーフティネットとして機能している。治癒院や、孤児院、働けなくなった者、ありとあらゆる者を受け入れている。無償でな」


 史郎はそれを聞いて驚いた。


「そんなに受け入れて、やっていけるんですか? その、金銭的に……」


「ははは、まあ普通そう思うだろう。しかし神殿はありとあらゆる方面からの寄付で成り立っておるからな、まあ、それなりの金は集まるのだ」


「なるほど、で、誰もその用途に口を出さないと?」


「ああ、そうだ。神殿の歴史を考えると、女神フィルミア様の教義に違えるような事はしないと分かっているからな。この世界の99パーセントはフィルミア様を信じているからな」


 史郎は、それを聞いて、これはもはや干渉するしないとかいう話なのか? と、ふと疑問に思ったが、考えても結論は出なさそうなので、無視することにした。


「じゃあ、犯罪者とかは……」と史郎はふと聞いた。


「あまりおらんな。なにせ、困ったら神殿に行けば助けてもらえるのだからな。それこそ、一生働かずに食っていけるぞ。もっとも、そんな愚か者は実はそれほどいないのだがな、実際の所。まあ、とにかく、そういうことで犯罪を行う理由がない。もっとも、人は欲深い。いろんな理由でいろんな事態を引き起こすので、まったくないとは言えん。たとえば権力争いとか」とソフィア。


「ただ、まあ、そこは王政。跡継ぎに関しては意外と制度がしっかりしているし、教育システムも充実している。成人の儀のスキル制度と、職業制度で、個々のレベルで満足する場合が多い。つまり、システム上不満が起こりにくい。そういう意味でも安定しているな」とソフィアは付け足した。


 すると、シェスティアが話に入る。

「ちなみに、ヘインズワース王国は魔の大樹海との防波堤になっている。なので、いろんな種族が住んでいて、冒険者が多く、文化的発展が進んでいる方といえる国。一度王都に行くといい。いっしょに行こう。王都には友達もいる」

 と、シェスティアは珍しく何かを思い出すような笑顔で説明した。


「なるほど。それはいいな。問題解決には、いずれにせよ世界を回る必要があると思うから、まずはこの国の王都か」と史郎は答えた。


「魔術学園王国オックスドニアもいいわよ。魔術や魔人国の事を調べたいなら、オックスドニアの王都ケンブリアに行くのがいいわね。大図書館があるし」とアリアが勧める。


「武術を鍛えるなら、獣人国だな。あとは、武器防具は、ドワーフの国」とアルバート。


「シロウ、フィルミアン神聖国の聖都ファーアイルも大事。神殿の聖地」とシェスティアが言った。そして、


「おいしい食べ物が食べたいなら、商業連合都市国家フェリオリンズ。シロウ、ぜひ行くべき!」とシェスティアが物欲しそうに言う。


「……ああ、それは大事な場所だな。いや、聖地もおいしい料理もな。ぜひ行きたい」と史郎は苦笑して答えた。




「そういえば、さっき教育システムの話があったけど、どういう制度なんだ?」と史郎。


「ああ、10歳までは、各地地元の学校で基本的なことは教えてもらえる。11歳以上は、希望すれば魔術学園都市で勉強できるな。ちなみに学校はすべて無料だ。学園もな」

「え⁉ 無料? すべて?」


「ああ、学園都市はそれ自体が国家だ。あの国は、人材を育ててそれによって成果をほかの国に貸し付けて財政を動かしているのだ。だから、学生の間は無料だな。成果を出したら、それなりの税金は取られるが。まぁ、それも成果の内容と交渉しだいだが」とソフィア。


「11歳で入学試験とか?」と史郎は聞いた。


「いや、11歳以上なら、いつでも誰でも受け入れてくれる。もちろん期間ごとに授業は予定や時間割が決められているので、始まりと終わりはある。何歳で何の授業を取ろうが自由だ」とソフィアが説明した。


「……なんかすごく自由ですね?」と史郎はつぶやく。


「ははは。まあ、そうだな。この世界はいろんな種族がいる。見かけだけじゃない、考え方や、生き方、成長速度、寿命でさえも違う。システムが柔軟で自由でないと、そんな多様性に対応できないのだ。そして、この世界の人口は少ない。皆で協力して生きていかないと、それこそ、あっという間に絶滅してしまうさ。なにせ、人類共通の敵、魔獣がいるからな」とソフィアは締めくくった。




 史郎は、世界の機構としてのシステムは深く考えて作っていたが、その中で生きる生命の文化までは考えていなかったことに気づく。


 生きている物があってこその世界であり、自分だけの、自分勝手なシステムを作っていた自分に、少し反省する史郎であった。


『史郎、そう落ち込むことはありません。史郎の設計したシステムだからこそ、このような文化が生まれ得て、育むことができたのです。誇りを持つべきです』とミトカが史郎を励ますのであった。




――――――――――

(作者注:実際の地図が見れます: https://note.mu/progvanc/n/n1399ba7d7a97 )

 

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