61.神殿1

 街の中央部、川に面した場所に立派な石造りの神殿がある。

 神殿に入ると、一人の神官と思われる人物が史郎に話しかけてきた。


「こんにちは。今日はお祈りでしょうか?」

 

「あ、はい。そうです」と史郎は笑顔で答えた。

 

「神殿長様、こんにちは」とシェスティア達があいさつした。


「おお、これはこれは、シェスティアさん、アルバート殿に、アリア様、ソフィア様まで。お久しぶりです」と神殿長があいさつした。


「ええ、お久しぶりです。今日は彼、シロウの紹介に来ました。奥の礼拝室を使わせていただきたいと思いまして」とアリア。


「ほう、奥の礼拝室ですか?」


 この神殿には、一般の人がお祈りをする大礼拝堂と、神殿の奥にあるプライベートなお祈りをする礼拝室があるのだ。ただし、そこは特別な場合にしか使われない。


「わかりました。ご案内しましょう」と神殿長は答えた。


「私は、シロウ・カミカワと言います。彼女はミトカ」と史郎は自己紹介した。

「ああ、これはご丁寧に。私はこの神殿の神殿長でエドワードと言います」と神殿長は笑顔で返した。




 全員で、礼拝室に入る。そして、お祈りをしようとすると、部屋にあった祭壇の上部が光り輝き、半透明の、白い翼をもった光り輝く女性の姿が現れて話しかけてきた。

 その姿かたちは、この世界にあるフィルミア様の銅像そっくりだ。

「史郎、良く来ました。無事に街に着いて何よりです。ソフィア、シェスティアも久しぶりです」


「え⁉」とみんなは驚く。エドワードは驚愕の顔をしてハッとし、そして頭を床につけるくらいひれ伏した。


 史郎は、エドワードの様子が気になったが、なんて言っていいのか分からないので、見ないふりをして、フィルミアに話しかける。


「……フィルミア様、こんにちは。お久しぶりです。おかげさまで、何とか人のいる場所までたどり着きました」と史郎は普通に笑顔で話しかけた。


 エドワードは驚いて、史郎のほうに振り向き、聞いてきた。


「史郎殿は一体?」


 するとフィルミアが代わりに応える。


「エドワード、いつも神殿の維持と管理、神殿の教義の履行、ご苦労です。そして、シロウは私がこの世界に遣わした使徒です。助けてやってください」


 それを聞いたエドワードは、目を見開き、驚愕の表情で

「ははー」と再びひれ伏したのだった。


 その様子を、ソフィア、シェスティアはほほ笑みを浮かべて眺め、アリアは茫然とした表情、アルバートは特に動じた風もなくすました顔で見ていた。




 そして、フィルミアが史郎、ミトカ、シェスティアを順番に見てほほ笑んだ瞬間、世界の時が止まった。




「ん?」と史郎がそれに気づく。


「史郎、ミトカ、お疲れ様です。無事ソトハイムに着いて何よりです」


「ありがとうございます。……いま、時間が止まっているんですよね?」


「はい、あなたたち以外は止まっています。ほかの人に聞かれて困る話もありますから」とフィルミア。そして


「ミトカちゃん、うまく実体化してるわね。元史郎のAIだけど、魂と融合して順調に成長しているみたいでよかったわ」


「はい、フィルミア様、有り難うございます。この存在になれたこと、感謝しています」とミトカは述べた。


「ティアちゃんも、史郎さんを迎えに行ってくれてありがとう」


「はい。問題ない……です」とシェスティアも言った。シェスティアは、初めての女神との対面に少し緊張していた。今までの神託では、光る点と声だけだったからだ。




「フィルミア様、いくつか連絡と質問があります」と史郎は切り出した。


 まずは、無事この街へ着いたこと。小屋が当面の生活に非常に助かったこと。異常な能力を持つ魔獣のこと。ウイルスについては、シェリナが感染したウイルス、そして、キノコに感染しているウイルス、その類似性について。


「そうね、そのウイルスについては、こちらでも調べておきます。異常な能力の魔獣は、システムの問題かもしれません。基本的にそういう風な特殊な動きは、スキル化されているはずなのです。そして、スキルとして登録されているなら、鑑定で分かるはずなので……。そうでないならますます何かのバグっぽいですね」とフィルミア。


「ウイルスが魔術に干渉する可能性はありますか?」と史郎は聞いた。


「うーん、そうね。ウイルスをエンティティ化すれば、魔術を組み込んで魔術精霊をインストールの上実行ということもできなくもないけど、ちょっと難しいんじゃないかしら? 今のシステム上、そこまでは実装してなかったはずよ」とフィルミア。


 史郎は、それを聞いて、少し安心した。だが、何か引っかかるものがあり、頭がもやもやする。

 しかし明確な何かが浮かばなかったので、それ以上は何も聞かなかった。


「あと、巻き戻しですが、この世界、俺が来る以前に何回か巻き戻ししていますか?」


「……ふふふ、よく気が付きましたね……。でも、詳しいことは話せないわ。そうね、シェスティアちゃんが関係しているということは認めるわ。ぜひ、彼女の力になってあげてちょうだい」

 フィルミアは慈愛に満ちた表情でシェスティアを見た後、史郎とミトカに頼んだ。



「ところで、立派な小屋ありがとうございました。食材も助かりました」と、史郎は快適だった小屋のお礼をもう一度言っておくことにした。


「いえいえ、どういたしまして」とフィルミアは答えたが、


 ――えっと、食材? そんなの置いておいたかしら? あの時は忙しかったから、まとめて用意しておいたのかもしれないわね……、でも、あの時はたしかイサナミアに……。

 フィルミアは何かを思い出しながら不思議がるのであった。




「さて、そろそろ戻るわね。この世界であなたが私の使徒ということは話してもいいわよ。ぜひ神殿の機能を活用してちょうだい。いえむしろ、発展させてくれてもいいわ。世界中の神殿の巫女にはあなたの存在を神託で知らせておくわね」とフィルミア。


「あッ、一つだけ注意ね。神殿で私とこうやって会話できるのは20日以上間をあけないとだめだから、そのつもりで」


 そういうと、フィルミアは時間の流れを戻し、みんなに向かって史郎をよろしくね、と言い、消えていったのであった。




「史郎殿! 使徒とは知らず、ご無礼を!」と神殿長はフィルミアが消えたとたん、史郎に向かってひれ伏した。


「ちょ、ちょっと、エドワードさん、そんなことしなくていいですから、顔を上げてください」と史郎は焦ってエドワードに言った。そして、


「それよりも、これからもお世話になりますから、今後ともよろしくお願いいたします」と史郎はとりあえず丁寧にあいさつをした。


「とんでもございません。こちらこそよろしくお願いいたします!」

 とエドワードは答えたのであった。

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