59.封印1
「シロウ、お願いがある」とシェスティアが真剣な顔で史郎に話しかけた。
史郎はシェスティアの様子に、言いたいことに気が付き、答える。
「ああ、両親の封印の話か?」
「そう」とシェスティア。少し申し訳なさそうな、少し期待が含まれたほほ笑みを浮かべている。
「その件については、私から話そう」とソフィアが話し始めた。
神聖歴1325年の事、今から5年前、ソトハイムの北、魔の大樹海に接する砦付近でスタンピードが発生した。
スタンピードとは、魔獣が大発生し、大挙して押し寄せてくる現象のことだ。規模が大きいと、村や街は壊滅的な被害を受けることになる。
それより20年以上前から、瘴気発生の頻度の上昇と魔獣の増加は認識されていて、街でも対策は講じられていたのだが、この時は急激な事態で、当時ソトハイムにいた冒険者と騎士団で対処しようとしたのだが、とてもではないが厳しかった。
それでも何とかなったのは二人のSクラス冒険者のおかげだった。それが、シェリナとアルティア、つまりシェスティアとアルバートの両親だ。
二人は何とか魔獣を殲滅したのだが、あるSクラス魔獣に噛みつかれたシェリナが、状態異常にかかって、死にそうになった。その時彼女が言ったのが「何かが侵入してきて、乗っ取られる感覚があるから、私を殺して」だ。その言葉を受けて、アルティアはシェリナを救うために捨て身の封印結界を発動したそうだ。
「その結果が、今もその場に残る封印だな。発動したアルティア自身をも巻き込み、二人とも封印されたのだ」とソフィアは少し悲しそうに、悔しそうに話した。
「何かが侵入してきて、ですか?」史郎が聞く。
「ああ、そうだ。当時、いっしょに戦った冒険者によると、特に周りに何かがいたわけではないし、シェリナ自身に、まあ外見からだが、何も違いはなかったらしい。ただ、腕を噛みつかれた後しばらく真剣な顔をしてそう言ったらしい」
史郎はその話を聞き、考えた。
単に腕を噛みつかれただけなら、何かが入ってくるという言い方は変だ。いや、ゾンビなどで噛みつかれたら感染するというパターンがあるので、その手の攻撃、または寄生虫や病原菌という可能性があるが、単純にそうなら、この世界の魔術レベルを見るに、とてもその存在を感じることができるとは思えない。
史郎は、そこで、ふと先日、いや、このところよく見かけるキノコを思い出す。キノコと言えば微生物。微生物と言えば、細菌やウイルス。そして、ウイルスというと、生物学的にいうウイルスだが、彼にとってウイルスと言えば、コンピューターウイルスを真っ先に思い出すのだ。
この世界の魔術は、プログラムで動いている。もし、この生物学的ウイルスと、そして、魔術のウイルスと言うべきものが存在し、なにか関連するとすれば深刻な問題だ。
生物的なウイルスも、魔術的なウイルスも、いずれのウイルスという概念もこの世界にはまだ存在しない。そして、どちらに対しても予防・対抗手段は今のフィルディアーナにはまったく存在していないからだ。
もし、そんなものが存在し、その魔術が精神系の攻撃魔術なら非常に危険だ。
そして、シェリナはその攻撃に何かを感づいたのかもしれない。
史郎はそう考えると、事態は思っているよりも複雑で深刻なのかもしれないと思うのであった。
「その時、シェリナさん以外は何ともなかったんですか?」と史郎は確認のために聞いた。
「ああ、少なくとも特に異常は報告されていないな。シェリナとアルティアは、封印を発動する前に、その問題となる魔獣を火魔術で消滅させたからな。おそらくそれで被害の拡大を防いだのであろう」とソフィアは言った。
「わたしからもお願いするわ」とアリアが言う。
「俺からも頼む」とアルバートが頭を下げる。
「ああ、もちろん協力するし、最大限の努力をするよ。おそらくフィルミア様の依頼とも無関係じゃないだろうし。とにかくその封印を見せてもらえるか?」
と、史郎は言い、全員でその場所まで行くことになるのであった。
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