第三章 冒険者都市ソトハイム/封印解除編

57.冒険者都市ソトハイム

 冒険者の街、ソトハイム。

 ヘインズワース王国の北、王国と魔の大樹海の境界線上に位置する。

 魔の大樹海の王国側の防波堤の役割になっている街だ。


 魔の大樹海から流れてくる南北に流れるフレイザー川沿いにあり、このあたりを治めているアマンデール辺境伯の領都でもある。


 魔の大樹海に近いため、低ランクから高ランクまで変化に富んだ魔獣が討伐できる。

 そのため、高価な素材を得ることができるので、冒険者に人気の街だ。そして、その素材を求めてやってくる商人も多く、活気のある街になっている。



 街の周りは、高くて頑丈そうな城壁で囲まれている。


「おー、すごいな、城壁だよ、城壁! 高いな、10メテルはあるか?」と史郎が歓声を上げた。

「シロウ、城壁がそんなに珍しい?」とシェスティアが聞いた。

「え? ああ、俺が住んでた国には基本的にはないからな」と史郎は答えた。


 遠くに見える川沿いの丘の上にたつ城が、領主アマンデール辺境伯の領主館だ。街の門からだと、かろうじて遠くの方に見える。


「あれを見てみろ! 城だ城! 城が見えるぞ!」と史郎は、今度は本物の城に興奮が隠せなかった。

「シロウ、はしゃぎすぎ」とシェスティアは史郎を見てほほ笑んだ。

「シロウ、あなた……子供みたいね」とアリアもあきれた声を出した。


「え? いやぁ、昔からいつか本物の城を見るのが夢だったからな。この種類の城は俺の国には無かったんだよ。ヨーロッパ風の城最高だね!」と史郎は答えた。


「ようろっぱ? が何かわからないけど、シロウ、王都にいけばもっとすごい城がある。今度いっしょに行こう」とシェスティアは史郎の服を引っ張って、史郎を見て笑顔で言う。


「え? そうなのか⁉ それはぜひ行きたい……」と史郎は興奮するのであったが、今度いっしょに行こうと史郎を見ながら言うシェスティアのセリフに、少しどきりとした。さらにその真っすぐなシェスティアの目とほほ笑みを見て、さらにドキドキするのであった。


 史郎がはしゃいでいる間に、門に並んだ順番が来て、街に入ろうとしようとした所で、ふと史郎は気が付く。

「えっと、そういえば、俺とミトカは身分証明書みたいなの何も持っていないんだけど……?」

「ああ、そうね。あなたたち、この街、いえ、この国自体初めてだったわね」とアリアがうなずく。

「私たちが保証人になるから大丈夫。あとで冒険者登録するといい」とシェスティアが言った。




 城壁にある門まで近づいた時、史郎はふと違和感を抱いた。

「ん? 結界か?」と史郎はつぶやく。


「史郎、街全体に結界が張っていますね。聖域程の強さはないですが、ある程度の魔獣は近づけないようにできているようです」


「なるほど、この世界ではこの結界は普通に使われているのか……」

「そういうわけではないけど。これは、アーティファクトよ。現代では新たに作り出すことはできないわ」とアリア。


「え⁉ そうなの」と史郎。


「ええ。結界の装置の本体は神殿近くにあるだろうといわれているけど、秘密にされているわね。主な街には龍脈の口があるんだけど、というか、そういう場所に街ができているみたいなんだけど、それをエネルギー源に動いているのよ。研究はされているみたいだけど、誰も原理も動かし方もわからないわ」とアリアが説明した。


「なるほど。面白いなそれは」と史郎は答えた。

 アーティファクト、ああ、なんていい響きなのだろうと史郎が思っていると、

「シロウ、何か悪いこと考えてる?」とシェスティアが聞いてきた。

「え、なんで?」

「だって、変なにやにやを顔に浮かべてる」とシェスティアが言った。

「……」史郎は、そんなに自分は考えていることが顔に出るのかと、少し落ち込むのであった。


 

「次!」と門番の声がして、史郎達が門に近づく。

 ナガトの商隊はそのままギルドカードを見せて入る。史郎達の番が来ると、


「あっ、アリア様……」と門番が言いかけて、


「私たちも通るわ。はい、冒険者カード。それと、この人はシロウ、そして、そこのメイド服の彼女はミトカね。私たちの客人よ。仮発行の入街許可証をちょうだい。あとで冒険者カードを持って来るから」とアリアが説明した。


 門番は「わかりました!」と畏まって敬礼し、指示に従うのであった。



 史郎はその様子を見ながら、アリアってもしかして貴族か? と、内心思いながら、特に口を挟むことはしないのであった。




「それでは私たちはここで。あとで冒険者ギルドには手続きしておきます。何かありましたらいつでも我が商店へどうぞ」とナガトが言うと、史郎たちとは別れた。


「俺たちはギルドへ報告に行くから、ここまでだな。じゃあ、またそのうちギルドで会おう!」とラリーたちとも別れる。


「じゃあ、私たちも行きましょう」とアリア。

「どこへ向かうんだ?」と史郎は聞いた。

「シェスティア達の家よ。私たちの師匠でもある、彼女たちの祖母の家ね。私たちは皆そこに住んでいるのよ」とアリアが答えた。




 街を歩きながら、史郎は街の様子を観察する。それなりに小奇麗に整備された街だ。道はきちんと大きくとってあり、きれいな石畳に整備されている。建物は石造りか木造。大通りに面する建物は、2~3階建てが多い。


 大通りから見える商店などは、置いている物もきれいで豊富だ。人通りも馬車の行き交いも多く、活気にあふれた街だということが分かる。


「人口は3万人くらい、上下水は一応整備されていますね。辺境にある街にしては整備されているほうです」とミトカが解説した。


「ミトカ、良く知っているわね」とアリアが言う。そして、アリアが説明の後を引き受ける。


「そうね、人口のうち、2割くらいは定住していない冒険者で、1割くらいは行商人ね。魔の大樹海か、近くにあるダンジョンを狙った冒険者の街よ。一攫千金を狙った、やさぐれものが多いから絡まれないように気をつけてね。あとは、そう、その冒険者の素材を買い付けに来る商人が多いわね。魔獣の素材は基本ギルドに買い取ってもらうんだけど、つてがあれば商人に直接買い取ってもらうのも大丈夫なのよ。うまくいけば高く買い取ってもらったりできるから。シロウも何か商売したかったら、ナガトさんに相談するといいわよ」



 シェスティア達の家は、街の南側、城のある方面へ行き、さらに南東方向にある森を抜けた先にある平原のようなところにある屋敷だった。


「おぉー、立派な屋敷だな。やっぱり、三人とも貴族なのか?」

 と、史郎は聞いた。


「ふふふ。まあ、その話題はまたあとでね」

 と、アリアはほほ笑みを浮かべて曖昧に答えるのであった。

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