55.商隊との遭遇

 魔の大樹海の隆起台地、その南端にある滝。そこにある崩れた場所を下った。崖の高さは100メートル。普通だったら怖くて足がすくみそうなところだが、そこは、必要に応じて土魔法で足場を作ったり、障壁を足場にしたり、なんら問題なく下ることができた。


 崖を降り続け2時間ほどで最下部に到達。そこから南下を続けて200キロメートル、史郎達はようやくヘインズワース王国領に入った。領域に入ってすぐに街道に到達。これから向かうソトハイムの街は、さらに西へ200キロメートル程の距離にある。


 街道を進み始めてから、しばらくすると、史郎がみんなに声をかけた。


「この1500メテルほど先に、ジャイアントボアの集団に襲われている人たちがいるな」と史郎は言った。


「え⁉ 助けに行く?」とアリア。

「ああ、もちろんだ。走るぞ!」と史郎は答えた。


 魔の大樹海を旅する間に、三人ともかなり強くなった。気力纏も魔力纏もそれなり使えるようになったので、2キロメートルを走り抜けるのもまったく問題ないのだ。




 三人は勢いよく襲撃の場所に近づく。ジャイアント・ボア13体。 馬車2台に、冒険者風の護衛らしき人影が3人。さらに三人ほどの冒険者がうずくまって呻いている。幸い死んではいないようだ。商人たちは御者台に座って、何とか馬車を制御しているようだ。


 ジャイアント・ボアは馬車の前方正面に集中して8体、前方左に5体いる。


 冒険者たちは健闘しているようだが、押されている。剣で戦っているのは一人。残りの二人はファイア・ボールを発動しているが、なぜか異常に素早いジャイアント・ボアには当たらない。


 近づいた史郎達は、「すけします」と声をかけた。


「お、おぅ、助かる!」と男が返事した。


 返事を確認し、まず、史郎が馬車とジャイアント・ボアたちの間に障壁を展開する。そして、史郎とミトカが正面前方へ、アリアとアルバートが前方左へ突撃する。シェスティアは後方待機だ。けが人の治療を担当した。


 史郎は、ジャイアント・ボアと遭遇する直前に、【マルチ・ホーミング・ライトニング】を発動し、すべてのジャイアント・ボアに攻撃、麻痺で動きを鈍らせた。


 その直後、史郎とミトカは、ジャイアント・ボアを棒で突き刺し、アリア、アルバートはそれぞれの剣でジャイアント・ボアを切断、あっという間に殲滅した。


『史郎、このジャイアントボア達のうちの3体は、異常個体でした。体内に異常な濃度の瘴気が検出されました。強さの異常さ、そして、異常に見える行動は、それが原因かもしれません』


 と、ミトカがひそかに史郎に念話で話しかけた。

(わかった……。体内の瘴気濃度ね……)史郎は何かに引っかかるも、とりあえず、現状に意識を戻すのであった。



 戦闘の様子を見ていた商人たちと冒険者は、あっという間にジャイアントボアの群れを殲滅した史郎達の様子を、唖然とした表情で見つめていた。


 戦闘が終わり、史郎達は障壁を解除して商人たちに近づいていった。


 史郎は、うずくまっていた冒険者三人を確認する。シェスティアが【治癒】をかけたので、状態はましだ。史郎はその中でいちばん重症な一人にさらに【治癒】を上書きで掛け、治療した。




「あら? ナガトさんじゃないですか?」とアリアが話しかける。


「おー、アリア様に、シェスティア様とアルバート様まで。こんなところでお会いできるなんて! しかも命までお助けいただいて感謝してもしきれませんよ!」


「ナガトさん、その人たちは?」と護衛であろう冒険者風の人たちが聞いてきた。


「ああ、ラリーさん、この人たちはソトハイムで私が商売で取り引きいただいている方たちのお子様たちです。そして、あの有名なランクA冒険者パーティー『漆黒の氷風』です」


「おー、あの有名な。名前と噂は聞いて知っているぞ。初めてお会いする。俺たちはランクBパーティーの『火炎の剣』だ。助けてもらって感謝する」

 と、ラリーが自分たちのことを紹介し、感謝の言葉を言った。


「俺がラリー、こっちのはパーティーメンバーで……」

「こんにちは。加勢有り難う。私は魔術師のエルザよ」

「こんにちは、助かったわ。私はシル、私も魔術士ね」

「治癒ありがとう。助かったよ。こっちの三人はランクCパーティーのメンバーで……」と助けられた冒険者たちも自己紹介した。


「私はナガト、商人です。ちょうどエルフの国から王都へ移動中でして」とナガトが説明した。見知らぬ史郎とミトカを見たからだ。

「私はマシューと言います」と御者から同じく商人風の人物が降りてきた。


「ああ、皆さん無事でよかったです。私はアリア。そして……」


「私はシェスティア」

「俺はアルバートだ」

「えっと、史郎です」

「ミトカです」


「えっと、なんでメイドさん?」とエルザがつぶやいた。

「私は史郎のメイドですので」とミトカがいきなり言い出した。

「おい、ミトカ何言ってんの……。えっと、彼女はメイド服が好きでね……」と史郎が言い訳をした。


「シロウ、ナガトさんは、これから向かう街ソトハイムで商会を開いている商人よ」 とアリアが説明した。

 ナガトは、商業連合都市国家フェリオリンズ出身で、ソトハイムで商売をしている。ソトハイムでは一二を争う大手の商会だ、と続けた。彼女やシェスティアの家とも取り引きがあると。


「で、アリアさんたちもこれからソトハイムまでですか?」とナガトが聞いてくる。

「ええ、そうよ」とアリア。


 すると、ナガトが再び聞いてくる。


「それで、相談なのですが、もしよければ、このままソトハイムまで護衛をお願いできないでしょうか? もちろんそれなりの護衛料は払います。のちほどギルドで手続きしますので……」とナガト。

「そうね、ちょっとみんなと相談するわ」とアリアは答え、五人で相談することにした。




「俺は別に構わない。というか、もし護衛料が出るのなら助かるな。俺はこの国のお金をまったく持っていないからな」と史郎。ミトカもうなずく。

「そうだな。俺もいいぞ」とアルバート。

「私はなんでもいい」とシェスティア。

「じゃあ、特に問題ないわね」とアリアは皆の意見をまとめた。




 アリアはナガトに承諾の旨を伝えると、ナガトは助かると感謝を伝えてきた。


 すると、ラリーが話してくる。

「あんたたちが加わってくれると助かるよ。ギルド情報では、最近このあたりで魔獣がかなり増えてて、ちょっとやばいんだよ。知ってたか?」


「いえ、知らなかったわ。私たち、ちょっと遠出してて、今街へ戻る途中なのよ。いつくらいからなの?」とアリアは聞いた。


「そうだな、一月くらい前からかな? どうも魔の大樹海から魔獣が来ている様子なんだよ」とラリーが説明する。

「そう……。まあ、私たちもそれなりに戦えるから、警戒しつつ、ソトハイムに向かいましょう」とアリアは話を終わらせた。



 その後は、道中何度か魔獣に遭遇したものの、増えた護衛の前には、特に問題もなく、一行は無事に街に到着するのであった。

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