53.草原

「うぉ! あれはまずい。ジャイアント・キラー・ビーの群れだ。あの大きさであの数を相手にするのは厳しいぞ!」と珍しく、アルバートが叫んだ。


 ジャイアント・キラー・ビーは、ジャイアントというが、それは普通の昆虫と比較してであって、大きさが20センチほどだ。レベルは15。しかし、一匹当たりのレベルが15で、それが何百匹といるのだ。しかも、意外と広範囲だ。

 なので、普通の冒険者が遭遇して襲われたら、生きて帰れるかわからない。


 まだ遠くから見ているだけなので大丈夫だが、何か対処法が必要だと五人で話をする。


 ちなみに探査で引っかかったが、何かよく見えないなと、史郎は視覚インターフェースのパラメーターを再び変更した。すると、【望遠】レベル1、【顕微】レベル1、の二つのスキルを得たのであった。そして、望遠で見た結果、数百匹のキラー・ビーの群れだと分かったのだ。


 史郎はさらに、半透明の人形を作った時と同じ仕組みで外部UI機能を駆使して、2メートル程先にディスプレイを浮かべた。

 そして自分が見た映像をそこに表示できるようになり、全員でキラー・ビーの様子を観察していた。


「これって、普通どうやって討伐するんだ?」と史郎は聞いた。

「逃げる」とシェスティア。

「そうね。数人でなんて無理よ」とアリア。

「でも、キラー・ビーの巣にある蜜は絶品で高価」とシェスティアは目を輝かせて言う。

「ははは。なるほど、蜜が取れるのか……」と史郎はニヤリとする。


「史郎、群れ全体の数の8割を殲滅すると、残りが巣に逃げ帰ります。そうすると巣の位置が特定できるので、ハチミツが確保できますね。なお、索敵でも巣の位置は分かりますが、いずれにしてもあの数を対処しないと無理ですね」とミトカが解説した。


「よし、ここは俺とミトカが対処しよう。二人でホーミング・アイス・バレットだな。合計192発撃てるか?」

「史郎、そうですね。群れの方に限定して探査した結果、数は436匹です。その8割の370匹を目標としましょう。2発~3発で対処できそうですね」

「オッケー。近くまで行って俺が結界を張るから、三人はそこで待機。俺とミトカが上空から空爆という作戦だな」と史郎は言い、全員で近づくのであった。


 キラー・ビーまで100メートル程の所にある岩場に隠れるような場所で、史郎とミトカは上空に上がっていく。残りの3人には史郎が結界を張った。


 そして、上空100メートルほどから、キラー・ビーの群れに向かって【マルチ・ホーミング・アイス・バレット】を撃つ。


 2回目を撃ったところで、攻撃を逃れたキラービーたちは纏まって、どこかに向かって飛んでいく。


「よし、追いかけるぞ!」


 史郎達は地上へ降りて結界を解除。全員で追いかけた。


 そして巣を見つけると、史郎は「よし、俺とミトカで、隠密スキルを使って近づいて、ちょっと蜜をとってこよう」といい、無事ハチミツを採取するのであった。


 史郎は、こんな大きい蜂は一体どんな植物から蜜をとってくるのだろうかと、ふと疑問に思ったが、そこで考えるのを止めたのだった。



     ◇


 

「このキノコ、何だかよく見かけるんだが、これ普通なのか?」

 史郎はキノコを見つめながら聞く。今ここにあるものは高さが80センチくらい、傘の直径が50センチくらいあり巨大だ。


「……うーん、こんな大きなのは、あまり見かけない。キノコの事はそれほど詳しいわけじゃないけど」とシェスティアが答えた。


「そうね、どこかで見たことがあるわね……どこだったかしら? アルバート、覚えてる」とアリアが言う。

「いや、知らないな……。俺はキノコが嫌いだからな」とアルバート。


「史郎、鑑定でも特に変な情報は表示されませんね。もっとも以前の事もありますし、額面上受け取れませんが」と、ミトカ。


「そうだな。一応取っておこうか」と史郎はキノコを一つ採取してインベントリに入れるのであった。



     ◇



「今日はこのあたりまでかな?」と史郎はつぶやいた。


 今は森の中、大草原を無事通過し、東方面へ方向を変えて少し行ったあたりだ。以降の森は深く、平地が見あたらない。これまでは、川沿いだったり草原だったりしたため、家を出す広い空き地には困らなかったのだ。


「そうね。今日は野営かな?」とアリア。

「風呂入りたい」とシェスティア。

「シェス、我が儘言わないの。これまで毎回、家に泊まってたから、なんだか遠征という気がまったくしないわね……」とアリアは答えた。


「うーん、何とか家を出したいな。ベッドで寝たいし」と史郎は言うと、おもむろに光る剣を作る。

 そして、適当に木を地面からの高さが1メートル程の同じ高さになるようにカットし、カットしてはインベントリに入れていく。

 そのあまりにも切れ味のいい、まるでバターを切るように木を切っていく様子に、三人は久しぶりに唖然とした。


 史郎はある程度の広さの場所を作ると、その高さのそろった切り株の上に家を出現させた。


「うん、大丈夫だな。家の土台が完全な金属の塊だから、これだけ切り株があったら、びくともせず上に載せれるな」と史郎は言って、ポーチに跳びあがると、ミトカとともに家に入っていった。

 三人はハッと我に返ると、史郎に続いて家の中に入るのであった。


 これ以降、いや、これ以前もだが、とにかく史郎は毎夜家を出現させ、この道中一回も野営をしないという快適な旅を満喫するのであった。



     ◇



 その後、順調に旅を進め、魔の大樹海の南端の崖までたどり着いた。


 魔の大樹海は広大な台地の上にあるので、魔獣はほかの地域に出ていかない。それが幸いして、この世界が壊滅しないのだ。もっともそれは完全というわけではなく、たまに魔獣は大地から出てくる。これから向かっている街は、魔の大樹海から魔獣が出てくる頻度が割と大きい地域になっている。


 これまで旅してきた川は、この場所で滝になっており、滝の周りが少し崩れていて、うまく歩けば、何とか上り下りできる場所なのだ。


 ここを降りてあと少し南下すれば、魔の大樹海の領域から抜けることができるのだ。


 そして、史郎達は無事に魔の大樹海を抜けることができたのであった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る