52.索敵

「よし、ここからは歩いてだな」

 少し休憩した後、史郎はそういって立ち上がる。

 

「ところで、今後は途中で遭遇する魔獣は三人で対応してくれ。訓練のためだ。危なくなったら俺とミトカが手伝うよ」と史郎はシェスティアたちに告げた。


 森に入ったとはいえ、川沿いはまだ比較的歩きやすい。


 工程としては、川に沿って西に200キロメートル程行くと、大草原がある。それを南に向かって縦断、再び森になる手前から西に向かう。そこからは深い森だ。


 西に向かって400キロメートルほど行くと、今度は違う川に突き当たるので、その川沿いに南下する。100キロメートル程南下すると崖にたどり着く。


 その崖は、「マギセントラル瘴気大爆発事件」でできた魔の大樹海全体が隆起した淵の崖だ。高さ100メートル近くはある。


 森の中とはいえ、全員それなりの身体能力があるのでさっさと進む。


 道中シェスティア達の戦いを見ていた史郎は、かれらの戦闘方法を分析していた。


 距離がある場合、シェスティアが氷属性のせんめつ魔術である程度さばく。

 アルバートが主に剣で物理的に、同時に、アリアは剣と近接の魔術、火と風を使って対処する。

 シェスティアは聖属性初級回復魔術が使えるので、基本後方待機。


 大型の魔獣は、シェスティアとアリアの上級魔術により対処。


 彼女たちのパーティーの欠点は、魔術があまり効かない中型から大型の魔獣に弱いことだ。ジャイアント・ヘッジホッグはまさにその類だった。さらに、ジャイアント・ヘッジホッグのように遠距離から攻撃してくる魔獣には対応できない。


「索敵は誰が?」と史郎が聞く。

「それは私。半径200メテルくらい。そしてアリアも。アリアも同じくらい」とシェスティアが答える。

「200メテルということは、300メートルくらいか……。微妙な距離だな」と史郎は思案した。


「具体的にはどうやってスキルを発動してるんだ?」と史郎はふと聞く。

「何となく感じられるわ」とアリア。

「そう。感覚?」とシェスティア。


「え、何となくで、半径200メテル索敵できるの?」と驚く史郎。


「史郎、彼女たちは何となくと言っていますが、魔力視で見てみてください」とミトカが指摘した。

 ミトカが言うように二人に索敵をしてもらい、その様子を史郎が観察する。すると、二人から魔力の薄い膜が広がっていき、300メートルあたりで消えるのが見えた。感覚だけでこれだけできるっていうのは、ある意味すごいなと史郎は感心する。そして、例の半透明の人形を使い、探査のスキルの仕方を見せる。


「探査のスキルには、意志力170、ああ、つまりかなりの意識の集中が必要だ。なので、いつもよりより深く集中するように意識してみてくれ。そして今見せたように薄い膜が広がるようにイメージするんだ」と史郎が説明した。


 二人、いや、アルバートも参加して、三人はそれを真似して30分ほど練習した。


「シロウ、あっちの方にフォレストウルフがいる……距離は350メテル?」とシェスティア。

「ああ、わかるわね。15匹かな?」とアリア。

「うむ、俺もわかるぞ。数は分からないが」とアルバート。


 三人は少しの訓練であっという間に探査距離を伸ばすことができた。


「おぉ、三人ともすごいな。あっという間にスキルアップだな。その調子で常に練習すると、範囲が伸ばせるぞ。アルバートは今まで使えなかったんだろ? そういう意味ではすごいな」と史郎は素直に感心するのであった。




 フォレストウルフの群れは、シェスティア達三人が討伐した。群れの左右それぞれを、アリアとシェスティアが魔術で砲撃。中央を身体強化したアルバートが突撃し、一刀両断していく。


「私たち、強くなったわね」とアリアがつぶやく。

「強い」とシェスティア。

「そうだな。以前よりかなりレベルアップしたな」とアルバート。


「そうですね、史郎の教え方がうまいですからね」とミトカが褒める。


「ああ、だいぶいい感じになってきたな、その調子で頑張れ!」

 と、史郎は皆を褒めたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る