50.魔導具作成

「よし、次は魔導具だな」


 疲れたような顔をする三人、いや、シェスティアはうれしそうだが、それに比べて史郎はやる気満々だ。


「何の魔導具を作るの?」とシェスティアがうれしそうに聞いてきた。

「ああ、ちょっと試したいことがあって……君たち三人の戦力アップ用にいくつかアイテムを作ろうかと」と史郎が答える

「私たちに? シロウからもらえるなら、なんでもうれしい」とシェスティアがさらに笑顔になった。

「ははは。まあ、ちょっと見てて」

 と言って、史郎は作業に入る。


 史郎が作ろうと思っているのは、いちばん手っ取り早く強化できる、「経験値×倍、成長率×倍」のアイテムだ。


 まずはインベントリから白金を取り出し、3センチ四方、厚さ1ミリほどの板を【形成】で作る。一片の端に直径2ミリ長さ5ミリほどのパイプ状に加工し、チェーンなどを通せるようにする。

 そして白金板に直径2.5センチの魔法陣を0.5ミリほどの深さで刻む。

 その刻んだところに、エクリル、つまり金に魔力を付与したものを融かして流し込む。


 この作業は、形成、融合、加工で、精密レベルの操作だ。



 ――『【精密形成】レベル1 を取得しました』

 ――『【精密融合】レベル1 を取得しました』

 ――『【精密加工】レベル1 を取得しました』



 魔法陣には、「経験値10倍、成長率10倍のパラメーターを装着者に装着している間付与する。最初に魔力を流した使用した者の所有者登録を行う」という内容が記述されている。


「【魔術回路定着】」と史郎がつぶやく。魔法陣が魔術回路として動作するようなイメージで、その実行用の魔術精霊をインストールするのだ。今回の場合は、上級精霊以上が必要なので、定着時に込める魔力も多めだ。当然、ミトカの精霊王としてのサポートが必要だ。



 ――『【魔術回路定着】レベル3 を取得しました』



 しばらく史郎が集中していると、一瞬魔法陣が輝き、そして収まる。


「よし、できたと思う」と史郎は言い、シェスティアに渡して魔力を流すように促す。

 シェスティアが魔力を流すと、再びペンダントは光り輝き、それが治まると、史郎は鑑定した。


 名称:高速成長のペンダントトップ

 機能:経験値10倍、成長率10倍

 魔術精霊:神級精霊

 所有者:シェスティア

 製作者:シロウ・カミカワ



「うん。上できだな。『経験値10倍、成長率10倍、のペンダント』だな」と史郎が言うと、

「そんな魔導具が作れるの⁉ そんな効果、聞いたことがないわよ」とあきれるアリア。

「アリアさん、史郎は少し変た……特別ですので気にしないでください」とミトカが言った。

「おい、ミトカ、今なんて言おうとしたんだ?」と史郎はミトカをにらんだが、ミトカは、ふふふ、と満面の笑顔で少し頭を傾けて史郎を見つめ、その可愛い笑顔に動揺した史郎は口をつぐむ、というふうに華麗にスルーした。


 その後、史郎はアリアとアルバートの分も作り、ついでにネックレス用の鎖も作って、三人に持たせた。

「よし、これで君たち三人をどんどん鍛えられるな!」と、史郎は満足げにほほ笑んで、三人に向かって宣言するのであった。




     ◇




「よし、じゃあ、次は武器だな。シェスティアは魔法の杖か? アルバートは剣と。アリアはどうする?」と史郎は三人に聞く。

「あぁ、そうね、ふふふ、もうこの際だから、なんでもいただくわよ。できれば杖と剣両方ほしいわね」とアリアが、ああもういいやという感じで答える。


「わたしも杖のほかに護身用の短剣が欲しい」とシェスティア。

「俺は今の剣でいいのだが?」とアルバート。

「その剣って何でできてるんだ?」と史郎が聞く。

「ああ、鋼とミスリルの合金のはずだ」とアルバートが答える。

「魔術とかは?」

「魔術? いや、そんなのはないな。これは魔剣ではない」とアルバートが答えた。

「なるほど……わかった」と史郎は答えた。




「じゃあ、まずは杖だな」と史郎は言い、作業を始めた。

 史郎は、まずミスリルの塊を取り出し、【形成】スキルで直径1センチ、中が1メートルほどの細い棒を作る。


 次に聖地で切り出した木材を取り出す。白く稠密な木材だ。

「ねえ、それって神木?」とアリアが目ざとく聞いてくる。

「神木? さあ、聖域近くにあった木で、まきが必要だったんで、一本切り倒した残りなんだけど……」と史郎は答える。

「……ちょっと見せて」とアリアは言い、木をよく見る。そして、

「やっぱり神木ね。あなた、神木をまきに使ったの⁉」とアリアは聞いた。

「いや、あのあたりでは、その木しかなかったし。料理するのに要ったから」と史郎は苦笑しながら答えた。そして、つづけて、

「それに、そのおかげで今ここに神木があるってことで」

「……まあいいわよ」とアリアは諦め顔。


 神木は、マナを吸収し魔力を纏った木で、魔力の通りがいい。金属でのミスリルに相当する貴重な木材だ。

 史郎は神木を上部が膨らんだ杖状に加工し、中心にミスリルの棒が入る穴をあける加工をする。

 ミスリルの棒には、さらに白金で厚さ0.5ミリの層を張る。その白金の層に魔法陣を刻み込みエクリルを流し込む。その魔法陣には、所有者の魔力発現効率のパラメーター設定、20%アップ、魔力纏による杖の先端魔力刃発生の術、そして、魔力吸収と放出機能が記述されている。

 そして、ミスリル棒を通し、上部は穴を詰めて、さらに青い魔結晶をはめ込む。

 最後に、史郎が【魔術回路定着】を詠唱、杖が完成した。史郎は完成した杖を鑑定した。



 名称:神木とミスリルの杖

 機能:魔術発現効率20%アップ、予備魔力蓄積、精密表層魔力纏による魔力刃

 魔術精霊:上級精霊

 製作者:シロウ・カミカワ



「よし、こんな感じか? どうだ、シェスティア?」

「思ったより重くないし、手に馴染む。魔力を流した感じもいい感じ」とシェスティア。

「確かに良いわね、これ」とアリアも手に取って、見てみる。


「その魔結晶には魔力を充填しておけるぞ。そして、自分の魔力が足りない時にそこから引き出せるんだ」

「え⁉ それはすごいわ」とアリアが叫んだ。

「とりあえず2本作って、あとで試してみよう」と史郎はいい、もう一本同じように作るのであった。




「次は剣だな」


 史郎はミスリルと、鋼を取り出すと、まずミスリルで芯となる剣を形作。そして、白金で厚さ0.5ミリの層を張り、魔法陣を刻み込みエクリルを流し込む。記述した魔術は、魔力纏による刃の生成。属性を付加した魔力を流した場合、その属性の性質が刃に現れるようにする、というものだ。


 剣の長さは、アルバートが今持っている剣とほぼ同じ大きさにした。長さ80センチほど。標準的な大きさだ。その芯に、オリハルコンを加工し、かぶせる形で剣の形を作り、さらに剣の刃とする。長さ80センチほどの西洋剣だ。先端は尖っている。ガードもオリハルコンを形成した。


「おい、ちょっとまて。その金属は何だ?」とアルバートが珍しく聞いてくる。

 史郎が使った金属は、虹色に輝いており、見慣れない金属にアルバートが興味を示したのだ。

「ん? オリハルコンだな」と史郎。

「なんだと⁉ ……なんで、そんな伝説の金属をお前が持ってるんだ?」とアルバートが驚愕した表情でさらに聞いた。

「……伝説? いや聖域に鉱脈があったけど」と史郎。


 三人はもはやどう反応すればいいのかわからない様子でため息をついた。


「シロウ、オリハルコンは伝説の金属。そうそう目にしないし、そんな金属で作られた武器は国宝物」とシェスティアが説明した。

「おぅ、そうか……?」と史郎は日本人特有の意味不明の笑顔を三人に向け、作業を続けた。


 柄の部分は神木を使って、手にフィットするように加工、金属と接着する。


「よしできた」と史郎はつぶやき、鑑定する。



 名称:オリハルコンとミスリルの剣

 機能:精密表層魔力纏による魔力刃、属性発現機能付き

 魔術精霊:上級精霊

 製作者:シロウ・カミカワ



「どうだ、アルバート」と史郎はアルバートに聞くが、アルバートは剣を持ったまま黙り込んだ。しばらくして、

「……ああ、大きさも重さもちょうどいい。しかも、持った感じ何か力を感じるような……」


「みなさん、それらはいわゆる魔剣に分類されます。シロウは言葉に出しませんでしたが、上級精霊が組み込……宿っています。扱いに注意してくださいね」とミトカが解説した。


「「「「魔剣⁉」」」」


 なぜか、史郎もいっしょに叫んだ。


「はあ、史郎。上級精霊の意味、分かってましたか?」とミトカが史郎をジト目で見た。


「え⁉ それがどうし……」と言いかけて、史郎はハッとする。


 上級精霊は、精霊の中では、通常ではいちばん強力な精霊だ。場合によっては意識も持ちうる。上級魔術まで使える可能性があるのだ。それがインストールされた道具というのは、洗濯板と、最新鋭マイコン内蔵洗濯機ほどの違いがあるのだ。


 ちなみに、史郎は、ミトカはシロウの能力が使えるという点に関して、それはつまり、ミトカが使える能力は史郎も使えるということでもある、ということに気づいておらず、無意識に精霊王としての能力で上級魔術精霊を付加したのであった。



 この後、全員で、でき上がった剣や杖を試してみて、いたく気に入ったので、五人全員分の剣、短剣、アルバート以外の分の杖を作って、装備することにしたのだった。


 本当は、ミトカには要らないのだが、ダミーとして、そして、予備として用意しておくことにする史郎とミトカだった。


 後に、この装備、神木の杖とオリハルコンの剣、が、彼らのパーティーのシンボルになることを、彼らはまだ知らない。

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