49.錬金術/ポーション調合

「すっかり忘れていた錬金術を試そう」

 史郎は、朝食後、いきなりそう言って立ち上がる。


「錬金術って、あなた、使えるの?」とアリア。

「シロウ、何を作るの?」とシェスティアが聞いてきた。

「ああ、使える……はずだ。ん? 武器と魔導具とポーションを作ろうと思ってな」と史郎が答える。


「あぁ、史郎、今日試すのですね……」とミトカがあきれた声で史郎に言った。そして、

「史郎、まずは錬金術の基礎についてですが……」とミトカが説明を始めた



 この世界で一般的に錬金術というと、いろいろな魔法金属を精製することとされている。そして、ポーションなどは創薬術と呼ばれている。


 だが、本来の仕組みは少し異なっている。


 まず、根本的な術として【魔術付与】スキルがある。これは対象に精霊をインストールする術だ。


 そして、その対象として2種類ある。


 一つ目は、白金の板にエクリル(金の魔鉱)で魔法陣を描き埋め込むもの。


 ちなみに、この世界で一般的な魔法陣は、普通の布に魔石を砕いたものを溶かしたインクで描いている。その方法だとあまり強い魔術は使えない。


 二つ目は、魔力水、つまり、魔力付加した水に特定の種類の薬草を煮て抽出したものを溶かしたもの。


 これがポーションと呼ばれる。


 いずれも、その魔法陣や薬草の組み合わせが魔術回路として働く。


 そして、魔法陣は魔石、ポーションは魔力水、の魔力を動力源として、付与された精霊がその魔術回路の魔術を発動する。


 これが、本来の錬金術なのだ。前者は「錬金術::魔道具」スキル、後者は「錬金術::調合」スキルと呼ばれる。ある意味、ポーションは、可食液体魔導具とも言える。




「へー、知らなかったわ」とアリア。

「わたしも知らなかった。この国では、魔術、創薬、魔導具、全部違う魔術だと考えられている」とシェスティア。


「ああ、なるほど。ということで、俺は魔術付与と魔力付加、そして魔法陣の埋め込み、さらに調合に関するすべての知識とスキルがある」と史郎。

 もっとも、史郎の場合は今からそれを得るつもりなのだが、そのことは言わない。


「それはすごいわね。ポーションも魔導具もいい商売になるわよ」とアリアがほほ笑んでいった。

「ははは、まあ、金に困ったら商売でもするか」と史郎は答えた。


「で、俺は今からいろいろ作るけど、みんなはどうする?」

「私はシロウの作業を見る」とシェスティア。

「私も興味あるわ」とアリア。

「……そうだな、武器を作るのは興味があるから見るか」とアルバート。


 ということで、全員参観で史郎が錬金術を試すことになった。



「じゃあ、作業用に部屋を作るか」

 と、まず、史郎は作業部屋をライブラリから取り出して小屋のいちばん端にくっつける。女神様はそれもきちんと用意してくれていたのだ。

 作業用の小屋は床がコンクリートのような石だ。

「……まずそこからなのね」とアリアはため息をつきながらつぶやいた。



 まずは魔力付与。物質に魔力を付与する、とは、一定量の物質をエンティティ化し、それに対して魔力付与フラグをセットすること。そうすると魔力を持った物質という性質に変化する。またはDNAベースの存在をエンティティでラップするという場合も使う。


 史郎は、とりあえず4リットルほどの水を作り出し結界球の中にためる。


「え、何その玉は⁉」とアリアがツッコム。

「ああ、結界球といって、この手の作業にちょうどいいんだ」と史郎は特に考えずに答えた。

「……」アリアは黙り込んだ。


 そして史郎は、その水に対して独立エンティティ化と魔力を保持するようイメージしながら、魔力を込める。



 ――『【魔力付与】レベル1 を取得しました』



 すると、水がわずかに青く輝く。

「よし、魔力水ができた」と史郎がつぶやいた。


「シロウ、すごい。魔力水は普通、神殿でしか手に入らない」とシェスティアが尊敬のまなざしを史郎に向けた。


 史郎は続けて、別の結界球を作りだし、そこに以前採取したヤーチャの実、コギの葉っぱ、クカの実、をインベントリから取り出し、サイコキネシスで磨り潰す。そしてアルコールを物質化して混ぜた。成分を抽出した後、その成分のみを魔力水の方へインベントリ経由で移動する。


 適当にサイコキネシスで攪拌し、すべてが混じりあい、三つの成分がキーになるようにイメージしながら、さらにポーション精霊をインストールすること意識して、「調合」と唱える。



 ――『【調合】レベル1 を取得しました』



 すると、結界球が輝き、その輝きが治まると赤い濃い液体ができ上がった。


「え、それってもしかしてMP回復ポーション?」とアリアが驚く。

「ふつうのより、かなり濃い赤」とシェスティア。

「え、そうなの? 初めて作って、初めて見るから、普通がどうか知らないんだけど」と史郎が答えた。


 これよ、とアリアが手持ちのポーションを見せてくれた。それは薄い赤色の液体で、それと比較すると、史郎が作ったポーションはかなり濃い。


 史郎は、鑑定ででき上がった液体を見てみた。



 MP回復ポーション:特級

 10㎖で1分あたり魔力量を100%回復



「MP回復ポーションの特級だな。10㎖で1分あたり魔力量を100%回復するらしい」と史郎がいうと、

「え⁉ 特級なんて、普通手に入らないわよ! しかも100%の回復を、たった一分でって、どうなってるのよ!」とアリアが叫ぶ。

「ふつうは下級か中級が手に入る。マリアが持ってるのは中級。中級で100%回復に30分はかかる」とシェスティア。

「へー、そうなのか……。せめて10秒くらいで回復してほしいと思ったんだけど……」と史郎。


 そして、史郎はふと思いつく。


 ――そもそも、ポーションは『可食液体魔導具』じゃないか? 発動のキーは成分。いや、きっと成分以外にもあるはずだ。そもそも魔術回路なのだから。だとすると、濃度、成分構成、魔力水の質? その場合は魔力量か?

 と、史郎は思考し、少し試してみようかと作業を繰り返した。


「今回は、魔力水の魔力も多く、さらに濃度を濃くして濃縮したうえで、ゼラチンで固めよう」と史郎はぶつぶつと言いながら作業した。


 先ほどよりより赤味が濃く、淡く光っている直径1センチほどの錠剤がたくさんできた。


 史郎はさっそく鑑定する。



 MP回復ポーション錠剤:聖級

 一粒で10秒あたり魔力量を100%回復



「よし、できた! 聖級らしい。一粒で10秒あたり魔力量を100%回復だな」と史郎はつぶやいた。

「「「……」」」作業を見ていた三人は黙り込んだ。


「史郎、それはちょっとやりすぎです」とミトカが苦笑した。そして、

「聖級というのは、神聖術の範疇です。神術が使えない史郎がなぜそれを作れるのかは置いといて、この世界ではその級のポーションは存在しません。さらに、普通ポーションは液体です。何ですか、錠剤って」ミトカはあきれた。


「え、錠剤の方が飲みやすくない? これだとかみ砕いて食べてもいいし。かさばらないし……。というか、ミトカ! これを使ったら、最大魔力容量の拡張が簡単じゃない?」と史郎は、突然叫んだ。


「……たしかにそうですね。特にこの三人にはこれを使って魔力容量の拡張が可能ですね……」とミトカは珍しく疲れたような顔をして答えた。


「おー、やった! これぞ俺の求めていたものだ」と史郎は満面の笑みで喜ぶのであった。


 その後、史郎は各種ポーション錠剤を作るのであった。当然すべて聖級だ。作ったのは、

MP回復薬、HP回復薬、体力増強、精力増強、痛み止め、鎮静、解毒


「今ある材料じゃ、この程度だな。また、今度試そう」と史郎はポーションづくりをいったん終えた。


 なお、疲れた顔をして見ていたアルバートとアリアに、これ食べるか? とHP回復錠剤をまるでお菓子でも渡すように渡してきた史郎に対して、さらにあきれる二人であった。


 なお、シェスティアは終始にこにこしながら、史郎の作業を見守っていたので、疲れた様子はまったくなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る