48.レベリング

「なあ、ミトカ。この世界の戦闘システムだけど、もしかして、やっぱり俺の設計に準拠しているのか?」と史郎はミトカに聞いた。


「はい、そうですね」とミトカ。


「じゃあ、魔獣からの経験値は、複数人で対処した場合は、与えたダメージによる配分だよな?」


「そうなりますね」


「ということは、最後の止めだけさせてのレベリングはできないな」


 史郎は溜め息をついた。自分で設計しておいて何だが、そう設計した自分が恨めしい、と史郎は思った。


 物語とか読んでいると、安易なレベルアップに違和感を抱いていた史郎。なので、自分が開発したゲームシステムでは「フェア」なシステムとして、経験値は実際の努力の結果に基づくようにして安易なレベリングはできないようにしたのだ。


「いざ、実際に自分がその立場になると、簡単にレベルアップできないのはもどかしいな」

 と史郎は思った。


 自分はまだいい方だ。使徒の称号で、成長が早い。

 だが、仲間ができた時に、その仲間の強化ができないようでは困る。シェスティア達のレベルアップをどうしようかと悩む史郎なのである。


「うーん、何かいい方法はないかな……?」と史郎は悩んだ。


 世界の戦闘システムとは、レベル制とステータスシステムの根幹をなすものだ。

 レベルが上がる、または、ステータスが上がる、ということは、何らかの入力があり、その値に応じて能力が上がるわけで、この世界では基本的に魔獣討伐の経験値がその入力値になる。ちなみにふだんの修業やトレーニングもある程度の経験値にはなる。


 得られるステータスの上昇値やレベルアップの度合いは、あらかじめ決められたアルゴリズムに基づいて行われており、この世界では史郎はそれを変更することができない。


 ステータス値やレベル値は現在の状態を示す値なので変更できるようなものではない。


「となると、使徒のような称号がどういう仕組みなのかだが……システムパラメーター系の魔術か?」


「史郎、そのシステムパラメーター系の魔術の分類ですが、たしか後回しにしましたよね?」

「え? 後回し?」


「はい。実装上、どういう分類、つまり、魔術なのか、神術なのか、神聖術なのか、というのを決めなかったですね」


「そうだったっけ? それが何か?」と史郎は分からないというふうに聞いた。


「ですので、この世界でも、そのパラメーター設定の方法は無分類になっています」


「ん? すると、どうなるんだ? ……いや、もしそうなら……」

 と、史郎は思案した。


 史郎は今神術が使えないから、直接他人のパラメーターを変更できない。他人の魂レベルを操作するには神術が必要だからだ。そもそも、無分類ということは、どの術の方法でも実装されていないということであり、術では使用できないということになる。


 ベストはスキルとして付与だが、それも神術が使えないと使えない。

 なので、ほかにそのパラメーターを変える方法があるかだ。


 ――そもそも、戦闘システムについて考えた場合、強さというのは……


 と、考えて、史郎は気が付く。

「そうか! 戦闘システムにおいて、強さというのは……」


 強さというのは、大まかに、戦闘レベル×能力値×補正係数×使用スキルレベル係数×装備成熟レベル係数×実戦経験係数で計算される。


 このうち、外部から影響を与えることができるとすれば、装備成熟レベル係数だ。

 そして、装備成熟レベル係数の項目として、装備によるステータス補正値の設定がある。なので、


「あれ? ああ、単純にシステムパラメーターに影響を与える魔導具を作ればいいだけか!」

 と、史郎は叫んだ。

「理論上はそうですね」とミトカがほほ笑んで答えた。


「というか、魔導具、いや、そもそも錬金術系の事をすっかり忘れてたな。しかも、未分類なのはそういう魔導具を作れるようにするためだったような気がする……」


 史郎は思い出して答えた。そして、


「いや、そもそも魔導具が作れるんだったら、強い武器を作って渡せばいいだけじゃ?」


 と、いちばん単純な方法に気が付いた。が、


「史郎、実はその方法は使えるようで使えません。強い武器、たとえば、魔術付与、もしくは、属性付与した武器を作っても、本人の魔力や魔術レベルが足らないと使い物になりません」とミトカが説明した。

「たとえ魔石を使って魔力供給しても、限度があります」


「え、そうなの?」と史郎は驚く。


 単に強い武器があるからと言って、本人自体が強くなるわけではないのだ。使いこなせるには使う者がまず強くないといけないのだ。鶏が先か卵が先かの問題だ。



「まあ、といっても、その制限はそもそもこの世界において、誰も彼もが簡単に極端に強くなれるようでは世界のパワーバランス上困るという意味でのシステムの制約です」とミトカ。

 それは、史郎の思想ですかね、と。

 そして、続ける。


「でも、いえ、それだからこそ、その枠組みから外れた史郎がすることは、その制約から外れることができます」とほほ笑んで説明するミトカ。


「そもそもの根本的な問題として、事実上そんな強力な魔導具を簡単に作れるわけではないので」とミトカが付け加えた。


「そして」ミトカはさらに続ける。少し悪戯っ子の笑顔が入る。


「システムパラメーター系に影響を与える魔導具には、上級レベル以上の魔術精霊を付加する必要があります。ふつうは、そんなことはできませんよね?」

 と、ミトカが頭を傾けて、尋ねるようにほほ笑んだ。


「なるほど」とニヤリとする史郎。


「じゃあ、やっぱり、にボーナスの付いた、な精霊を付加した、に強い武器を作れば、一応ルール上問題ないわけだな?」


「だと思います」


 ミトカもすました笑顔でそう答えたのであった。

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