46.訓練1
次の日の朝早く、史郎はミトカに念話で連絡し、史郎の部屋に来てもらう。聞きたいことがあったのだ。
「ミトカ、魔力視とか気力視ってできるんだっけ?」
「史郎、そういうスキルは存在します。史郎の場合、自身のエンティティの視覚インターフェースのパラメーターをいじれば可能かもしれませんが」とミトカは答えた。
「ああ、存在エンティティのパラメーターで変えれるのか」と史郎は思い出しながら、自身のパラメーターを確認し、変更することにした。
視覚野の入力情報として、通常の視覚からの光学情報だけでなく、この世界で映像化できうる情報を選べるようになっているのだ。つまり、視覚UIで表示するメインの情報は何にするかを選択できるのだ。もちろん第三の視覚としても設定できる。
史郎が選べるソースを切り替えたりしていると、
――『【魔力視】レベル1 を取得しました』
――『【気力視】レベル1 を取得しました』
――『【暗視】レベル1 を取得しました』
――『【熱源視】レベル1 を取得しました』
――『【電磁スペクトル視】レベル1 を取得しました』
――『【透視】レベル1 を取得しました』
「うぉっと、なんかいっぱいスキルが出た」と史郎は動揺した。
「史郎、パラメーターをやたらいじるのは危険ですよ……よかったですね、精霊がスキルとしてちゃんと登録してくれて」とミトカが怒って言った。
「あー、いや、そんなつもりはなかったんだが、ついパラメーター画面を見ると触ってみたくなって……」と史郎は言い訳をするのであった。
◇
朝はいつものようにミトカが朝食を作る。ステーキにサラダとスコーンというシンプルなものなのだが、アリアがふとミトカに質問する。
「ミトカさん、料理上手ね。このお肉がすごくおいしいけど、何の肉?」
「アリアさん、有り難うございます。その肉はジャイアント・ブラック・フォレスト・ボアの肉です」とミトカは答えた。
「「「え⁉」」」
と、テーブルの三人は驚いた。
「え、何か驚くようなことでも?」と史郎は無邪気に聞いた。
「はぁ、今さらだけど……。ジャイアント・ブラック・フォレスト・ボアなんて、まず見つからないわ。そして、普通討伐できないのよ。それこそ国が騎士団を出して50人くらいの騎士で討伐隊を組んでやっと何とかなるかというような魔獣よ」
「え、そうなの? 割と簡単にやっつけたけど……」と史郎は答えながら、だんだん自分の実力がどうなっているのか心配になってきた。
「史郎は使徒。なんでもできる」とシェスティアは満面の笑みを浮かべていた。
「そうですね、史郎はそれなりに強くなりました」とミトカもほほ笑みを浮かべて答えた。
◇
「さて、今日は皆に魔術と気術の簡単な訓練をしたいと思う」と史郎は切り出した。
「気術?」とアリア。
「あぁ、気術ってのは、主に武術で使う身体能力向上の方法で、まあ、主にアルバート向けだな。アリアとシェスティアには、魔術の方を重点的に見よう。というか気術という言葉はこの世界に無いのか?」
と、史郎は答えて、質問した。
「いえ、ないわね。少なくとも私は聞いたことがないわ。あなたたちは?」
アリアが答え、二人に聞く。
「ないな」「ない」と二人は答える。
「よし、三人とも、まず剣を構えて、真剣に上段から切り伏せるつもりで素振りしてみてくれ」と史郎が指示する。
「わかった」と三人は素振りをする。その様子を史郎が【魔力視】と【気力視】を使って観察する。
「うん、アルバートは確かに気力を薄く纏っているな。ほかの二人は……、まったく無いな。ところで、ミトカって同じように見えているんだよな?」
「はい、史郎にできることは、私にもできます」とミトカ。
「オッケー。じゃあ、ミトカも皆の様子を見てアドバイスを頼む」と史郎はミトカに頼んだ。
「じゃあ、三人とも、魔力感知と魔力操作って分かるか?」と史郎は聞いた。
「ええ、分かるわ。自分の魔力を感じることが魔術発動の第一歩だから。心臓あたりに暖かい流れを感じることね。そして、それを手の方に流れるようにするのが、魔力操作よ」
と、アリアが答えた。
「史郎、それがこの世界での一般的な魔力操作です」とミトカ。
「え、それだけ? もっと、ぐりぐり動かして形を変えたりはしないの?」
「史郎、そんなこと誰もできません。というか、そういう方法が伝わっていない、というのが正しいですが」とミトカが説明する。
そして、
「この世界では、魔術の使い方は古代から伝わる魔導書に基づいています。近代の魔術は、いわゆる定型魔術のみ残っていて、その発動に必要な最低限の魔力感知と魔力操作しか知られていない状態になっていますね」とミトカが解説した。
「なるほど。じゃあ、仕組みとしてできないわけじゃない訳だな。まあ、俺ができているわけだから、システム上できないはずはないか」と史郎は思案した。
「よし、じゃあ今から見せるから」と史郎は目を瞑って、何かをつぶやいた。
すると、史郎の前方に、半透明な人型が浮かび上がる。
史郎は昨日の晩、どうすれば魔術を簡単に教えられるかと思案した。
その際、やはり視覚化かなと思い、3DのUIインターフェースを応用できないかと考えて、自身のイメージを現実の空間に投影することを思いついたのだ。
ミトカが実体化できるんだから、できるだろうと。
「よし! みんなよく見てくれ。これが人だとすると、心臓あたり、この胸の中心あたりだ。そこで赤く光っているのが魔力の元だと思ってくれていい」
「そして、魔力操作というのはそこから流れ出た魔力を体中に自由に動かすことだ」
史郎は言いながら、半透明の人形内を動く赤い流れを動かして、体中に流れる様子を見せた。
「すごい。よくわかる」とシェスティアが感心した。
アリアとアルバートもじっと人形を凝視した。
「で、その魔力を手の先に少し放出するようにして塊を作り、その状態を維持する。そして、属性、たとえば水なら、その塊が水の塊になるようにイメージするんだ」
史郎は言いながら、赤い流れを人形の手の先から少し出るように見せ、そしてボールを作り、それを水の玉になったように見せる。
「この様子を頭の中にイメージするんだ、自分の魔力を動かすつもりで。そして、キーワードを発動すると、その魔術が発動するんだ」と史郎は説明する。
「じゃあ、やってみて」と、史郎は三人に今見たことを自身の魔力で再現することを指示した。
三人は30分ほどうんうんと試行錯誤するようにしていたが、
「できた」とシェスティアが水の玉を浮かべて見せる。うれしそうだ。
「ああ、私もできたわ」とアリア。同じように満面の笑みだ。
「おぅ、俺もできたぞ」とアルバート。
――こいつ魔術弱いはずなのに意外と器用だな、と史郎はひそかに思った。
「みんなすごいな。あっという間にできたじゃないか!」
「シロウ、あなたのその半透明の人形のおかげね。すごくイメージが
「シロウ、天才」
と、シェスティアはドヤ顔でつぶやいた。
「ああ、同意する。俺たちは、本来水属性はないんだぞ。なのに水球を作れるというのは画期的だ。しかもたったこれだけの練習で」とアルバートは感心したように答えた。
「いえ、あなたたちがすでにある程度魔術を使えるからできたことです。自分たちの力にも自信を持ってくださいね」とミトカが優しい笑みを浮かべながら三人に語った。
「ははは。ありがとう。これはビジュアライゼーションといって、実際に絵で見ると理解が深まるというわけだよ」
と、史郎は照れながら答えた。
「そこまでできれば、あとは、その状態を維持しながらターゲットを目視して、「ウォーター・ボール」と口に出すか、心の中で唱えれば、ボールが飛んでいくはずだ」と史郎は締めくくった。
三人はその後いろいろ試しながら、本来持っていなかった、水属性のウォーター・ボールの魔術を獲得したのだった。
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