45.定型魔術
「君たち三人の魔術・戦闘術を見せてもらっていいかな?」
次の日、朝食を食べた後、史郎はそう切り出した。
「そうね、帰り道で戦闘の連携を確実にするためにも、お互いの実力を知っておいた方がいいわね」とアリア。
「史郎の力、良く見たい」とシェスティア。
「ふん、俺が相手してやろう」とアルバート。
三者三様に応えた。
近くの広場へ移動した五人。
「シロウ、あなたを見ていると、きっと分かってないんだなと思うんだけど、私たちの魔術、というか、この世界の魔術はそんな無詠唱でバンバン使えるものじゃないわ」
と、アリアが説明した。
「え、そうなの?」
と、史郎は驚いた。
「シロウ、この世界では、魔術を使うには詠唱か魔法陣が必要。天才の私でも詠唱無しで使えるのは極一部のみ」
と、シェスティアも答えた。
「まずは見てみて」とアリアが言った。そして、杖を取り出して、前方にかざし、20メートル程先にある岩を見つめる。そして、詠唱を始めた。
「精霊に願う、炎に成りて、我に応えよ、この手を出で、球となりて、あの岩を穿て……ファイア・ボール!」
すると、直径50センチほどの赤い魔法陣が輝き、その直後、野球ボールほどの火の玉が現れ、岩に向かって飛んで行った。そして、岩に当たると爆発し、岩が割れた。
「おー、なるほど。それが詠唱か」
史郎は詠唱で発動される魔術に興味を持った。
「つぎは私がやる」
と、シェスティアが言い、いきなり詠唱しだす。
「精霊に願う、ファイア・バースト!」
すると、直径1メートルほどの赤い魔法陣が輝き、そして、小さく光り輝くゴルフボール大の炎の球が出現、そのボールが飛んでいき、今度は、100メートル程離れた場所にある岩に当たると、ドーンと大爆発を起こした。
「おー、すごい威力だな……しかも、それは詠唱破棄か?」
と、史郎はその技術と威力に驚いた。
まだまだ、とシェスティアは言うと、
「精霊に願う、我が強く願いに応えよ、彼の岩を砕け…………。アイス・ショット!」
と、今度は詠唱をする。先ほどとは違い、スキル名の発声まで少し間があった。
すると、同じく魔法陣が輝き、その魔法陣全面から直径3センチほどの白く輝く氷が数十個現れ、先ほど破壊した岩のほうまで飛んで行き、残った岩を穿った。
「……これはすごいな……」
と、史郎は同じくシェスティアの魔術に驚いた。
「ほめて」とシェスティアが寄ってくる。
「……ああ、すごいよ」と史郎はシェスティアの頭を思わず撫でた。
「というか、そんな魔術が撃てるんだったら、ジャイアント・ヘッジホッグに対抗できたんじゃないのか?」
と、史郎は聞く。
「ジャイアント・ヘッジホッグには、あっという間に囲まれて、しかも、気づいた時には近すぎた。そして、ファイア・バーストは2発しか撃てない。アイス・ショットは詠唱と、最後に
「ああ、なるほど。確かに、敵までの距離が近いと自分たちまで爆発に巻き込まれそうだな」と史郎は納得した。
「まあ、というふうに、魔術発現には詠唱がいるのよ、普通」とアリア。
「私は、最初と最後のキーワードだけでいい。シロウのいうイメージで発動できる」と胸を張るシェスティア。
「そうね、この子は特殊ね。天才だわ。この国には詠唱無しで魔術を撃てる人はほとんどいないわね」とアリアが説明する。そして続ける。
「ああ、それと魔法陣だけど、ほとんどは魔導具に使われているわね。たまに魔法陣を思い浮かべてそれを発現し、それで実際の魔術を発現する人がいるわ。詠唱より発動が速くていいけど、魔法陣をそのまま覚えるという人は難易度が高いせいであまりいないわ。でも対人戦闘系で速さが求められる人達に使われているわね」
さらにアリアは続ける。
「それで、私は火と風の属性で中級まで。シェスは火、水、氷、聖属性で上級までね。ちなみに四属性もあるのも珍しいのよ。で、アルは風と大地属性で初級ね。もっとも、アルの場合は、武術のほうが得意だけど」
と、アリアが説明した。
『史郎、彼らの魔術がこの世界での一般的な魔術の使われ方です。アリアとアルバートは一般的に言ってかなり強い方ですね。シェスティアは特殊で、ある意味史郎に近い存在かと思われます』
と、ミトカが念話で史郎に解説してきた。
(なるほど。シェスティアは何となく不思議な存在だな。確かに、なんだかこう、親近感というか、懐かしさというか、不思議な感覚を覚えるな……)
史郎は自分でもわからない感覚に少し戸惑うのであった。
「なるほど、わかった。二人ともありがとう」
と、史郎は礼を言った。
「よし、では俺と模擬戦だな」と突然アルバートが言い出した。
「え、模擬戦?」
と、史郎は聞き返す。
「そうだ、俺は魔術より武術が得意だからな。お前の実力ももう少し知りたいし。ちょっと一勝負しよう」
アルバートはそう言う。
「あー、確かにそうだな。じゃあ、よろしくお願いします」
と、仕方ないので、史郎は答える。
「えっと、得物は木刀でいいですか?」と史郎は聞き、木刀を取り出して、アルバートに渡す。ミトカとの練習用に以前作ったものだ。
両者は少し離れた空き地まで移動し、10メートルほど間をあけて相対し、木刀を構える。
「じゃあ、私が合図するわ。模擬戦だからお互い相手を怪我させないように注意すること。両者用意はいい?」
と、アリアが掛け声をかける。史郎とアルバートがうなずいた。
「始め!」
アリアの掛け声とともに、アルバートが史郎に向かって突進し、剣をふるう。
かなりの
史郎はそれを受け流す。
アルバートは上から横から下からと、自在に史郎に打ち込んだ。
史郎は、アルバートが打ち込むすべての剣を軽く受け流した。かなりの速度と威力なのだが、史郎は意に介さない様子だ。
「……」見ているアリアもシェスティアも声が出ない。
しばらくアルバートが一方的に打ち続けた後、いったん離れる。
「シロウ、なぜ反撃しない?」とアルバートが聞いた。
「いえ、まあ、なんというか……。じゃあ、こちらから行きます」
史郎が言った瞬間、史郎の姿がぶれる。いや、三人には史郎が消えたように見えた。
そして、一瞬でアルバートの後ろに現れ、木刀を首の横に付けた。
アルバートはその一瞬のことに唖然とし、「まいった」と言った。
「シロウ、すごい」とシェスティアが羨望のまなざしを向けてつぶやいた。
「シロウ、あなたのその動きって……」アリアはつぶやいた。そして、
「いえ、シロウ、アルバートはこれでも国で一二を争う剣士なのよ。それをまったく相手にしないですべて受け流して、一瞬で後ろをとるなんて……」
「え、そうなの? ごめん、ちょっとやりすぎた?」
史郎はいつものミトカとの対戦と同じ感覚で戦ったのだが、実は二人とも常人離れしているということに気づいていなかったのだ。
「いや、いい勉強になった。まだまだ上には上がいるのだということに気づかされたよ」
と、アルバートは史郎を見つめながら言った。そして、
「シェスティアとのことは認めよう」
と、いきなり爆弾発言をした。
「え、何のこと? 別に認められるとかなんとか、という話ではなかったはずだけど……⁉」と史郎はいきなりの話の展開に動揺した。
「兄様……ありがとう」
と、シェスティアは顔を赤らめて、返事した。
「ちょっと、二人とも何の話をしているのよ。シロウが困っているでしょ⁉ その話はまた今度よ!」
と、アリアが間に入ったので、とりあえず話は終わるのであった。
◇
『史郎、アルバートの動きは確かにいいですね。かなりの武術です。本人は気づいていませんが、無意識に気術、そして纏を発動しているようですし、訓練次第ではさらに強くなりそうです。それは彼女たち二人も含めてですが』
と、ミトカが史郎に解説した。
(なるほど。じゃあ、みんなを鍛えて強くなってもらおうか……)と史郎はひそかに心に決めたのだった。
◇
「ところで、シェスティアはどうして無詠唱で魔術が使えるんだ?」
と、史郎はシェスティアに、ふと聞いた。
「シロウが使うのを夢の中で見た。それを真似した」とシェスティア。
「夢の中?」と、シロウは疑問に思った。そして、ふと思い出す。
(おい、ミトカ。夢での記憶ってことは……)
『はい、巻き戻しですね。この場合は、史郎がこの世界にくる以前に発生したものじゃないでしょうか? 夢で以前の情報を得るということは、超記憶レベル3を持っているということですね。となると……、この世界では史郎のスキルとは関係なく2回巻き戻しが発生しているということになりますね』
と、ミトカが推測した。
(そうだな。うーん、これもこの世界の異常と関係しているのだろうか……)
『そうですね……』
史郎とミトカは、思案するも、特にそれ以上の結論が出ないのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます