43.聖域案内

 史郎は三人を案内しながら小屋まで戻ってきた。

 途中で出会った魔獣は、史郎とミトカがサクッと倒していったのだが、あまりにも簡単に倒す様子を見て、三人はただ黙ってついてくるのであった。


 途中、聖域の結界に入った瞬間、

「ん? 結界?」と三人とも何かを感じたかのように声を出した。


「俺が石舞台と呼んでいる聖域の半径五百メートルに結界が張られていて、魔獣が入ってこれないんだ」

 と、史郎は説明した。


「五百メートルというのは、この世界の単位で言うと、300メテルです。1メテルは1.5メートルですね、史郎」とミトカが注釈を入れた。


 この世界の距離の単位は、メテル。1メテルは約1.5メートル。ちなみに1000メテルは1カルメテルという。1/1000メテルは1ミルメテルと呼ぶ。感覚的には1メテルは1マイルに近い。より人間の感覚に近いマイルでデシマルの接頭語がつかわれるのだ。


「へー、すごいわね。でも、じゃあ安心できていいわね」

 と、アリアが答えた。

「結界の魔力が強いのにそれを感じさせない」とシェスティアがつぶやいたのが聞こえた。




 小屋の前まで来ると、場違いな建物に困惑する三人。

 この魔の大樹海の中なのだ、小屋と聞いていたから掘っ立て小屋のようなものを想像していたのだが、思いのほか立派な家があって驚いたのだ。

「……えっと、なぜこんなところにこんな立派な家が?」

 とアリアが驚きながら聞いてきた。


「いやー、まあ、なんとなく?」

 と史郎は曖昧に返事した。


 そして、三人を家の中に案内する。

「とりあえず中にどうぞ……」と史郎は案内した。


 中に入った三人は、内部が意外と質素で、しかしきちんと整えられていることに感心する。立派なソファーやテーブルにも注目し、一体どこで作られた物なのだろうと思案するのであった。


「とりあえず、お茶でもどうでしょうか? 今から淹れますので皆さんテーブルで暫くお待ちください」とミトカが用意を始めた。待っている間、四人はテーブルに座り、話を始めた。


「シロウさんは、ここにどれくらいいるんですか?」

 と、アリアが聞いた。


「そうですね。一月ほどですね」


「この家はシロウが作ったのか?」

 と、アルバートが聞いた。


「いや、作ったというか、なんというか……。ここに用意してあったというか……」

 史郎は自分のスキルで取り出したとは言えず、適当にごまかした。


「シロウ、ここでミトカといっしょに二人だけで住んでる?」

 と、シェスティアがなぜか不機嫌そうな声で史郎に聞いた。


「うん? そうだけど……」

 史郎はシェスティアの様子に戸惑った。


 すると、そこへちょうど紅茶を入れたミトカがカップを持ってきて

「そうです。私と史郎の二人だけで住んでいるんですよ?」

 と、なぜかミトカがシェスティアにほほ笑みながら勝ち誇ったような表情で答えた。


「……」シェスティアは何も返事しない。ただ無表情だ。


 変な空気を察したアリアが質問してくる。

「えっと、シロウさん? それで、いつまでここに住む予定なんですか?」


「実は、そろそろ人のいる街に向かわないといけないなと思っていたところだったんですよ。もしよかったら三人に街まで案内してもらえると助かるんだけど?」

 と、史郎はちょうどいい機会だと思い、聞いてみた。


「あぁ、それならこちらからもお願いします。あなた強そうだから街へ向かう途中も戦闘に参加してもらえれば助かるし」

 と、アリアは答えた。


「シロウ、いっしょに私たちの街へ行こう」とシェスティアも笑顔で真剣に史郎に訴えるように話した。


『史郎、彼ら三人の戦闘レベルはかなり高いと思われます。どうやってここまで来たか聞いてみれば?』

 と、ミトカが念話で会話のアドバイスをしてきた。

(おぅ、なるほど。アドバイスありがとう)と史郎は答えた。


「ところで皆さん。この場所は魔の大樹海のかなり奥だと思うんですがよく来れましたね?」


「えー、まあ。大変でしたよ。といっても、魔獣との戦闘は基本的に避けながら来ましたが」

 と、マリア。


「そうだな。いくら俺たちが腕に自信があるといっても、さすがにこのあたりの魔獣を三人だけは無理だ」

 アルバートが会話に参加してきた。


「みなさん、かなり強そうですが?」

 と、史郎。


「ええ、これでも冒険者ランクAのパーティーだけど……。さすがに三人でジャイアント・ヘッジホッグ10体同時は無理ね」

 と、アリア。

「ああ、悔しいがそのとおりだ」

 と、アルバートも認めた。

「私がいても魔力が続かなかった。悔しい」とシェスティアは悲しそうな悔しそうな顔で言った。


「だから、それを速攻で、しかも一人で殲滅したあなたは一体何なのかしら?」

 と、アリアが鋭い目つきで史郎を見つめた。


「神の使徒であるシロウなら、簡単」

 なぜか、どや顔のシェスティアが答え、少しほほ笑んでいた。


 全員が史郎の事を見つめた。


「……」

 史郎は、どこまで話せばいいか迷った。会ったばかりの三人の素性も知れないし、いきなり詳しく説明するのもはばかられる。

 ただ、シェスティアは史郎の事情を知っているみたいだから大丈夫かもしれないと、史郎は考えていると、


『史郎、シェスティア達なら話しても大丈夫です』

 と、ミトカが念話してきた。


 史郎は思わずミトカのほうを向き、見つめた。


(そうなのか? ミトカの様子を見ていると何か知っていそうだな?)

『はい、いえ、私も確定はできませんが、シェスティアは例の【巻き戻し】に関係しているかもしれません。私にはシェスティア達は大丈夫だという確信があります』

(わかった)と史郎。


 史郎は、信頼しているミトカが示した自信とその様子を信じ、彼らに話すことを決心するのであった。

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