ミトカ-精密表層実体化バージョン

33.ミトカ4(精密表層実体化バージョン)

 多重殲滅攻撃のスキルを獲得した夜、史郎はその日に狩ったジャイアント・ブラック・フォレストボアをステーキにして食べた。


 ランクが高い魔獣ほど、その肉はおいしくなるということで、期待していた史郎だ。

 

「地球で食べたボアの肉より、臭みが少なく、ミトカが使ったハーブとの相性が良いな?」

「そうですね、この世界では魔獣の肉はおいしいと言うことになっていますから」とミトカが笑顔で答える。

 ミトカの料理スキルが何気に高いのが不思議だ、と思う史郎だったので、ミトカに聞いてみる。

「史郎、それは史郎の料理スキルが高いからですね。スキルとして表示されていませんが、地球で料理をしていた経験は経験値として残っているはずです。こっちで料理を繰り返せばスキルとして登録されると思います」

「ほう。それはいいな。じゃあ、俺もぜひ料理をすることにしよう」と史郎は意気込んだ。




 次の日の朝、いつものように起床し、ミトカが朝食を用意しているのを眺めながら、キッチンにいく。

 そこで史郎はふと何かに気づき、ミトカに声をかけた。

「ところで、ミトカ、何だか感じが変わったか? いや、雰囲気というか、存在感というか、何かが違う気がするんだが?」


 すると、ミトカは満面の笑みを浮かべながら史郎のほうに振り向いてうなずいた。


「さすが史郎! よく気が付きました!」とミトカは元気よく、えらいです! と、答える。


「昨日のバージョンアップによって【精密表層実体化】を使って実体化できるようになりましたよ! もはや仮初めの仮想の体ではなくて、みんなから見える実体化です!」


 ミトカはそう答えると、くるくると器用に体を回転させ、満面の笑みだ。


「おー、すごいじゃないか! ああ、それでそんなに存在感があるんだな? 個としての存在と魔力が感じられるから昨日までと違って見えるのか」


「はい、そうです。実体化できる範囲も半径百メートルまで伸びました!」


 確かにそれは便利になりそうな気がすると思う史郎。


「そ・れ・に! 実体化で表現できるレベルが格段にアップしたんですよ。ぜひ触ってください!」と言うと、ミトカはいきなり史郎に抱き着いた。


「なぁっ!!」

 

 その瞬間のミトカから感じられる暖かさ、柔らかさ、合わさった頬の感触、髪から漂ういい匂い。すべてがあまりにもリアルで、史郎は胸がきゅっとなるとともに、言葉を失い硬直する。


 そんな史郎の様子を知ってか知らずか、ミトカはいつもの悪戯っ子のほほ笑みを浮かべながら、体を離し「史郎、頭も撫でてみてください」と目を潤わせて史郎を見つめた。


 史郎は、その目を見つめ、催眠術にかかったかのようにミトカの頭を撫でる。その髪の感触は本物と何ら変わらないものだった。


「お、おぉ、いいい、いや、す、すごいな、これは。信じられないくらいリアルじゃないか」史郎はしばらくしてようやく我に返り、ミトカから少し後ずさり、どもりながら上ずった声を出した。


「へへへ、驚きました? これも史郎の変態的な魔力操作と妄想のおかげですね!」


 ミトカが何気に憎まれ口をたたく。満面の笑みは絶やさない。


「えっ、いや、何で? いや、そ、そうなのか? 確かに魔力操作には情熱を注いでるし、想像力は豊富だと思ってるけど⁉」と、どもる史郎。


「ふふふ、冗談です。史郎には感謝しています」とほほ笑みで返すミトカ。


「あー、それに、ミトカのためだけだからな、そんなに詳細なイメージがあるのは!」

 史郎がそう叫ぶと、ミトカは顔を真っ赤にしてうつむいた。


「はぁー、しかし、ミトカのそういう風な感情や動作が現れるようになったところが、俺としてはいちばんの驚きだな。もはや、本当にAIは卒業だな……」

 史郎は素直にミトカの成長を喜ぶのであった。




「ミトカって、もしかして手刀をミクロン単位の刃で纏って戦えるのか?」


「はい、できますね。それどころか、体中武器にできますよ」

 ミトカは何気なく怖いことを言う。


「……じゃあ、俺が戦う必要なくね?」


「いえいえ、私は補助にはなりますが、史郎が戦わないと経験値が得られませんよ? レベルアップやステータスの向上には、史郎自身が戦わないとだめですね。それに自身の身を守るくらいは強くないとダメですよ!」とミトカは史郎をいさめた。


 そうか、パワーアップしたミトカのおかげで、もしかして楽できると思ったけれど、ダメか……。と落胆する史郎であった。

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