32.ホーミング誘導2

「じゃあ、精霊のインストールだけど、具体的にはどうやってやるんだ?」と史郎は尋ねた。


「はい、簡単です。ホーミング用ならターゲット認識と追跡ができる能力を持つ必要があるので、中級精霊になりますね。史郎の魔力量と意識レベルから考えて、とりあえず8体ほどインストールしましょう」とミトカは軽く答えた。


「……え、そんなに簡単に?」


「ふふふ。普通は無理ですよ? 当然。世界に数体しかいない精霊王のなせる業です。史郎の意識レベルもかなり高い方ですし。それに、史郎に魂レベルでつながっている私だからですね」となぜか顔を少し赤くして説明するミトカ。


「……なんだか照れる? いや、まー、ミトカは偉いんだな」


「はい! 生みの親として誇りに思ってくださいね!」とうれしそうな笑顔のミトカであった。




「で、次は記憶力アップだけど、どうやれば?」


「そうですね、神経衰弱がいちばんかと」


「……えっ、いきなりカードゲーム? というかトランプなんかないけど作んないといけないのか?」


「いえ、小屋に装備されています」

「……」


 毎日クタクタになるまで訓練するので、夜は夕食後風呂に入ってはすぐ寝る生活なので、小屋に何があるとかまったく見ていなかった史郎だった。


「……まあ、そんなのでいいのなら簡単だけど。というか、女神様の細かいサービスがうれしいな」と史郎は女神様にひそかに感謝した。


「史郎、気力纏を全力で発揮しながらの、神経衰弱でカードの位置を覚えることによる訓練ですので」


「ああ、なるほど。まあ、気力纏の訓練にもなるか?」

 と、史郎は納得して、とりあえず狩りは後回しにし、小屋に帰って神経衰弱に没頭する史郎であった。




 小屋に戻って神経衰弱を楽し……訓練すること2時間、いい加減疲れたなと感じたところで、


 ――『【記憶力強化】レベル1 を取得しました』

 ――『【写真記憶】レベル1 を取得しました』


「おー、やったぞ。……というか、なぜに写真記憶も?」


「史郎、神経衰弱で記憶力訓練するメリットの一つです。見たままを覚えようとすることが写真記憶スキルにつながるのです!」ミトカは自慢げに胸を張って、片手を上に突き出して笑顔で説明した。



「……それはすごい。まさに一石二鳥じゃないか! さすがミトカ!」と史郎は興奮して叫んだ。




「さて、いよいよターゲットロックオン式多重発動ホーミング誘導の実装になるわけだが」


「そんな長いスキル名ですか」とあきれた声を出すミトカ。


「いや、スキル名は決めてないけど、そんな感じのスキルということで」と史郎は説明した。


「ターゲットロックオンは、鑑定と同じ方法でターゲットを選択した後……いや、待てよ? このターゲットを選択というのは魔術なのか、それとも、何なんだ?」


「史郎、それはトリガー型の対象選択魔術機能ですね。魔術精霊は肉体エンティティのさまざまな動作に反応するようになっています。つまりイベントハンドラーですね。それで、視覚などによる意識的な選択に反応するイベントがこの世界では実装されていて、その選択機能が鑑定スキルと探査スキルの一部としてインストールされています」


「じゃあ、それはほかのスキルからも利用できるのか?」


「はい、使えます。選択イベントが発生した場合に選択エンティティのIDが得られます」


「おぉ、そうか。なら、そのIDを記憶力強化スキルで覚えて……」


「いえ、史郎、記憶力強化スキルに付随する、一時記憶領域に特殊な記憶として選択エンティティのIDを保存できます。それは変数として後続の魔術で参照できますね」


「それはいいな。つまり、選択は既存の機能。選択イベント後【ロックオン】をキーワードで選択IDを特殊一時記憶として保存。これは、複数可と。そしてそのIDをターゲット、えーっと、発現方向ベクトルか(?)として参照して魔術発動すればいいんだな?」


「はい」


「で、ホーミング誘導は魔力制御の一部だな? えっと、移動動作オプションだったか?」


「はい、そうですね」




「よし、じゃあ、これで8個のターゲットをホーミングで攻撃できるわけか?」


「史郎、96個です」


「え⁉ なんでそんなに?」


「一つの中級精霊で多重処理は12です。ちなみに下級精霊は8ですね。そうですね、いわば、精霊をCPUでたとえると、ひとつのCPUあたりコア数が12あるということで、12のスレッドが確実に同時実行できるということです。ここでスレッドは魔術発動に相当するということです。ちなみに鍛えれば倍のスレッド数にすることもできますよ。ハイパースレ……」

「……いや、わかった、言わなくていい」と史郎は止める。


「で、精霊を8体インストールしたので、8個CPUが増えたものとして、12×8で96の同時発動が可能です。これで弾幕系ができますね!」とうれしそうな笑顔を史郎に向けるのであった。


「……よし【ロックオン】として登録。後は属性ごとにマルチ・ホーミングスキルだな」


 こうして、史郎は【マルチ・ホーミング・アイスボール】、【マルチ・ホーミング・ウィンドボール】という感じで属性ごとにスキルを登録した。



 ――『【土魔法】がレベル3になりました』

 ――『【水魔法】がレベル3になりました』

 ――『【氷魔法】がレベル3になりました』

 ――『【風魔法】がレベル3になりました』

 ――『【火魔法】がレベル3になりました』

 ――『【雷魔法】がレベル3になりました』

 ――『【光魔法】がレベル3になりました』



「ついにレベル3になったな。上級魔術まで使えるってことか?」と史郎はうれしそうに聞く。


「そうですね。ホーミング系は上級魔術とみなされますね」




「ところで、ミトカ、この世界にも精霊魔術は実装されているのか? というか、名称が混乱するな? 俺が思っているのは、いわゆる精霊と契約してお願いして行使する魔術っていう意味での精霊魔術のことだな」


「はい、あります。そうですね、史郎の設計でいうと上級魔術精霊の外部実行モジュール化ですね。通常だと魔術精霊は魂に接続して魔術実行モジュールとして機能しますが、上級だと意志を持ちますので独立して行動が可能になるからです」


「なるほど。そういう意味でもミトカは精霊っぽいな」


「ふふ。そうですね。精霊王ですからね!」


「で、俺にも精霊魔術は使えるのか? できればプログラムをインストールできる精霊がいいんだけど?」


「……そうですね、通常は外部存在型の上級精霊というのは、属性の上級精霊であり、お願いして魔術を行使してもらうのであって、カスタムな魔術を実行してもらうとなると……、というか、わたしがいるからいらないんじゃないですか? よく考えると浮気ですか?」


 ミトカが突然怒ったような悲しそうな顔をして、しかし、おもちゃを見つけたかような表情で史郎を問いただした。


「え⁉ い、いやいや、そういう話じゃなくて、外部実行モジュールってのを試してみたいなっていう、プログラマーとしての興味というかなんというか、調査する義務があるというか……」と史郎はなぜか狼狽した。


「……冗談ですよ史郎……。そんなに狼狽えなくても大丈夫です……。で、史郎の求めるような外部上級精霊ですが、属性無設定の真っ白な上級精霊を調達する必要がありますね。その場合、私が精霊王として新しく作り出すというのがいいかもしれません。少し時間をください、調べてみます……」とミトカは突然真剣な顔で答えた。


「おぅ、わかった。たのむよ」

 と、史郎はお願いするのであった。

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