29.狩り1

 ここしばらくは、レベルアップとスキルや戦闘方法の検証のためにと、史郎は毎日狩りを続けた。

 ここの聖域の結界は強い魔獣ほど弾く。弱い魔獣が聖域の周りにいるので練習にちょうどいいのだ。そして少し離れるにつれて強い魔獣を試せる。



     ◇



「ちょこまかとすばしっこいな」と史郎は愚痴をこぼす。


 相手はアース・フォックス。レベル30の魔獣だ。

 大きさは地球の狐と同じくらいの大きさなのだが、アースを冠するだけあって土魔術を使ってくる。


 具体的にはゴルフボール大の石を撃ってくるのだ。威力は意外とあるので、当たり所が悪いと重症になる可能性がある。そして20匹くらいで群れていっせいに攻撃してくるので、厄介なことこの上ないのだ。


 四方八方から飛んでくる石を避ける訓練状態になるので、天然の回避訓練相手かな(?)と思いながら、立体機動を駆使して石を避ける史郎。

 時には野球の如く石を棒で打ち返しながら、また時には一匹ずつライトニング・ニードルかアイス・ニードルを撃ち込みながら、確実に倒していくのであった。



     ◇



「こいつには二度とやられないぞ」と史郎は息まいてブラック・ホーン・ラビットに近づく。レベルは20だ。

 この魔獣はとにかくすごい勢いで角を向けて突進してくる。もっとも、基本的には直進するのみなので、ぶつかる寸前に避けさえすれば問題ない。


 ただし、一度死んだ時に遭遇した個体のように、半端じゃない速度で突進してくる可能性があるので気は抜けない。避けさえすれば横からの武器による突きかストーンボール数発で倒すことができる。

 史郎は突進を避ける訓練のつもりで狩るのだった。肉もおいしいし。今回は6体討伐した。



     ◇



「でかいな!」初めて見たときの史郎の感想がこれだった。


 高さ3メートル、直径7メートルくらいはあるかという巨大な亀「グレート・タートル」だ。陸上にもかかわらず、その脚はヒレのようになっており、地面から少し浮いている。


 そのため、その巨大な体格にもかかわらず、地球の常識である亀とは異なり素早く動くことができるのだ。そして、サッカーボール大の石か、ウォータージェットで攻撃してくる。ウォータージェットはかなりの威力で、まともに当たると体に穴が開きそうなほどだ。レベルは140で強い。



 初めて相対した時は、いきなりウォータージェットを撃ってきたので史郎は驚いた。とっさに前面にシールドを展開、回り込んで反撃しようとしたが、驚きの素早さで体を回転させてストーンボールを撃ってきて史郎は焦った。


 史郎からの攻撃は、各種属性のボール系、ニードル系など、魔術系はことごとく弾かれた。かといって物理的な武器では太刀打ちできない。今のところ史郎のスキルレベルもステータスも足りないのだ。


 しばらく戦った後、離れると攻撃してくるわけではないことが分かったので、別に無理に討伐する必要もないかと、史郎は離脱することにしたのであった。


「史郎、この魔獣は平均よりかなり大きいですね」とミトカが指摘してきた。


「そうなのか? もしかしてこの素早さも異常か?」


「可能性はあります。もしかしたら、この個体も異常個体なのかもしれません」


 念のために鑑定してみるが、特に異常は見られない。見た目的には巨大な甲羅の上にこけやら巨大なキノコやらが付着している程度だ。


「異常だとしても、何から調べたらいいかわからんな。とりあえず、場所と種類、数なんかを記録しておこう」と、史郎は思うのであった。


 ちなみに、討伐せずとも戦闘経験は経験値にはなる。



     ◇



「なんか妙にキラキラしてるな」と史郎がつぶやいた先にいるのは、金属系魔獣のメタル・リザードだ。表面が金属の鎧に覆われている。銀の金属質でやや白色が混じる独特の反射をしている。


「あれって、もしかしてミスリル?」と史郎が聞いた。


「そうですね。メタル・リザードはミスリルの供給源の一つですね」


 ミスリルという金属は、銀に魔力が浸透したというファンタジーな金属で「強オド性金属」といい、魔力を通しやすい性質を持つ。


「史郎、メタル・リザード、特にミスリルの固体は強敵です。レベル180はありますね。魔術も物理攻撃も効かないです。今の史郎のレベル、そして一人では無理かと」


 と、ミトカが警告してきた。


「うー、悔しいな。でも、まあ、仕方がない。次回にチャレンジしよう」


 と、史郎はあっさり引き下がるのであった。



     ◇



 そんな感じで狩りを続ける史郎だった。


「だいぶ狩りにも慣れてきたな」と史郎はつぶやきながら、たった今切り倒したジャイアント・ブラック・フォレスト・ボアの死体に触れてインベントリに収納する。レベル90の魔獣だ。


「そうですね、動きに危うさが少なくなってきましたね。まずは自信が付いたってことでしょうか?」


「そうかもしれないな。やり方に慣れてきたからだと思うけど」


 史郎の狩りは、だいたいパターン化してきた。まずは普通に近づいて戦闘を行う。戦闘の訓練は戦闘の経験を積むのに重要だからだ。


 そして、ある程度戦った後、基本は【隠密】と【透明化】で魔獣の近くまで寄って、最大限の攻撃魔法を撃って仕留める。

 この際に、魔獣の弱点属性に注意して撃つ魔術を選ぶ。基本的な魔術の練習がてらにちょうどよかった。



 また、魔術が有効なタイプの魔獣の場合、棒に魔力と属性を付与しての攻撃も効果的だ。

 魔力付与した棒の切れ味は抜群で、だいたいの魔獣はサクッと切れる。

 

 武器に対する魔力纏と言うべき魔力の【精密表層実体化】スキルで、鋭利――ちなみにミクロン単位で研いだ刃に相当する――丈夫な刃も簡単に再現できるのだ。

 魔力で再生するので刃こぼれもしないし血糊もつかない。表層だけ実体化するので魔力消費のコストパフォーマンスが高い。相手が1体か2体ならその方法でだいたい片付くのであった。

 

 ちなみに、刃の部分は実体化なので耐魔術にも対応できる。耐物理には実体化しない刃にして対応でき、両方の耐性に効果的だ。


「しかし、この【精密表層実体化】は最強だな。これさえあれば、別にいい武器とかいらないんじゃないか?」


「まあ、使えればという前提だとそうなりますね。普通はそこまで精密に魔力の実体化はできないんですが……」


「え、そうなの?」


「はい。攻撃に使えるほど強靭に魔力を纏わせながら、しかも鋭利に魔力を操作するなんて芸当はなかなかできません」


「そうなのか……。まあ、魔力制御は毎日訓練しているからな」

 と、つぶやく史郎は、よしこれからも魔力操作を訓練して極めようとひそかに心に誓うのであった。

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