30.殲滅魔術

 史郎は日々魔力操作と気力操作の訓練を続けている。いまだに神力の合成に成功しないからだ。


 魔力と気力を合成するという仕様は、設計上は素晴らしいアイデアだと思った史郎だが、いざ自分が実際に使うとなると無理ゲーっぽいと悲嘆する史郎だった。


 そもそも精神で制御するなんてことは想定していなかったので、その制御は練習して慣れるしかないのだが、史郎もわかってはいても辛いものは辛いのだ。


「とにかく神力の合成ができるまでは、ひたすらその基礎となる魔術と気術の修業が必要だと思うしかないな……」


 そう、史郎は昔、音楽系の練習、フルートやバイオリン、発声練習をしたときに、絶対無理だと思ったことをあきらめずに練習して何とかできるようになった経験を思い出した。


 ある時突然出せるようになる音。


 その時の経験を生かして、そのうちできるはずだとの信念でひたすら訓練を続けるのであった。




「よし、次は複数相手の訓練だな。あっちの方にダークグレイ・ウルフの群れがいるようだから、ちょっと試してみようか」


「そうですね。訓練にはちょうど良さそうですね」とミトカも同意するので、群れのほうに向かった。


 相手が複数いる場合は、殲滅魔術を使う。

 殲滅系の魔術は2種類ある。

 一つは爆撃と呼んでもいいような【ファイア・ボム】に代表される爆発系。

 もう一つは、魔術の多重発動による弾幕系。


 爆発系は魔力を込めて威力を上げればいいだけだが、効率が悪いし環境にも良くない。

 一方、多重発動は、並列思考か複数の精霊契約が必要なので、簡単にはできない。


 だが、そこは史郎。並列思考は少しの訓練で獲得することができた。もともとその手の高度な思考活動は得意なのだ。

 さらに、ミトカがなぜか異常なほどの並列思考が可能だと分かったので――ミトカは元AIだからかな(?)と、史郎は考えていたが――ミトカのサポートも合わせると、同時40くらいの魔術発動が可能だ。ちなみに史郎自身は8、ミトカは32同時発動が可能だ。


「ところで、ミトカ。今日はいつもの多重発動じゃなくて、少し工夫しようと思うんだけど」


「はい? どのように工夫するのですか?」

 ミトカは突然の史郎の話に戸惑った。


「えっと、いつもの多重発動は単にターゲットに直線的に普通に魔法を飛ばすだけだけど、今回は二つ新しい方法を確認したいんだ」


「二つですか?」とミトカは聞いた。


「そう。まずは、タイマーで発動を自動停止すること」


「タイマーで自動停止?」ミトカは意味が分からないというふうに聞いた。


「そう。たとえば、ファイア・ニードルで攻撃する場合に、相手までの距離を測定して、到達時間を計算、ヒットするとした時間プラスアルファで発動を止める。そうすることによって、外した場合や貫通した場合でも、飛んで行ったりせずに、周りに余計な損害を与えないことができるはず。いつも思ってたんだよなぁ、飛ばし系の攻撃って、射線上に味方がいたら危ないじゃないかってね」


「なるほど……。いつか仲間ができた時に良さそうですね。まあ、その方法は魔力の使用効率もよさそうですね」


「……手順はプログラムすることにするよ。そうだな、名付けて『自動発動停止付き攻撃オプション』かな?」

「……わかりました」


 ということで史郎はそのオプションを試してみることにした。


「えーっと、このオプションは魔術制御の一つとして登録しておけばいいか。じゃあ、とりあえず向こうに見える木に向かって試そう。通常のファイア・ニードルだと、木の幹を貫通して飛んでいくはずだから、このオプション付きで……」


 と、史郎はつぶやいて、魔術を発動させた。


 すると、炎の線が飛んで行き、幹に刺さって突き抜けた瞬間に発動が止まり、炎が消えた。


「おー、いい感じだな。今後はこのオプションをデフォルトにしよう」


「史郎、いいアイデアでした」とミトカも笑顔で褒めてくれたのだった。

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