23.気術1
さて、次に確認するのは気術だな、と史郎は考えた。
史郎の設計、そしてこの世界の設計では、いわゆる魔法は実際には三つの力である魔力、気力、神力から構成されている。
正確には、魔法という言い方も、この世界の現地の言い方で、設計上は、正確には神魔術といい、魔術、気術、神術から成り、それぞれの発現の元が、魔力、気力、神力の各力になる。
もっとも、この世界での魔法といった場合、実際に使われているのは魔術だけだ。気術は主に武術などで無意識に使われていることが多いし、身体強化系なので魔法っぽくないので詳しくは知られていない。さらに神術は会得するのが非常に難しく、この世界で実際に使えるのは数人といったレベルだ。
この世界の生物は、魂とエンティティ、つまるところの、魂と肉体から構成されているのだが、これらの三つの力は、その魂とエンティティを通して、この世界に干渉するための手段である。
そして、その干渉のあり方が、各術によって異なる。
魔術は、魂以外の世界の構造、つまり、世界を構成するシーングラフに対する干渉。
気術は、主に自身の魂とエンティティ、その周辺に対する干渉。
そして、神術は魔術と気術を合成することによるより高度な魔術の制御による、世界のすべてのシーングラフと魂に対する干渉が可能になる。
気術について簡単に言えば、自身の精神や肉体の能力に関して魔術を使わないスキルだ。
「よし、気力感知と気力操作だけど、魔力の時と同じようにできるんだよな?」
と、史郎はミトカに聞いた。
「そうですね」とミトカ。
史郎はさっそく椅子に座り、気力を感じるように瞑想した。体内での、気力の発生源の意識元は「陰部」と「脊椎基底」そして「丹田」だ。30分ほど気力を感じようとして集中していると、魔力の時とは違った、少し冷たい感じの物が流れるのを史郎は感じ始めた。
――『【気術】レベル1 を取得しました』
――『【気力感知】レベル1 を取得しました』
「うーん、魔力とは違う感覚だな」と新しいスキルに史郎は喜んだ。
史郎は引き続きその気力を動かすことを意識する。魔力の時と同じように、体全体に広がる形を作るイメージだ。気力は魔力より粘度が低く、さらさらした感じがするなあと史郎は思いながら、そのイメージを維持し、体に浸透するように広げていった。
――『【気力操作】レベル1 を取得しました』
「よし! これで、気術系のスキルが取得できるはずだな?」
「史郎、気術系のスキルは、この世界では、実際に体を動かす必要があります。史郎の場合、いくつか演武をすれば取れる可能性があります」
「ほう、なるほど。じゃあ、久しぶりにやってみるか」
史郎は本格的な武芸を知っているわけではないからと、昔父親が一時はまっていた時に無理やりいっしょに練習させられた太極拳の演武をすることにしてみた。
しばらく太極拳のフォームを試し、気力が体全体に染み渡り、力がみなぎっているイメージを保ちつつ、演武を行った。
「……さすがに一回じゃ、スキルにならないな」と史郎は少し諦め気味につぶやいた。
ということで、続けて繰り返すことにしたが、30回ほど繰り返しても、いっこうにアナウンスがない。
「……簡単にはスキルにならないな」
「この世界のシステムでは、気術のほうが難しいようですね。史郎、水をどうぞ」
ミトカは俺のことを見守りつつ、水やタオルを持ってきて、サポートしてくれた。
もう少し頑張ってみるか。ということで、史郎は休憩をはさみつつ、2時間くらい知っている限りのフォームを試してみた。
子供のころに通ったカンフーのクラスのユニバーサル・フォームも試した。気合いを入れ、全身の力を意識し、精神を集中して、気力が体に馴染んで、心身一体感が出てきた感じになった瞬間にアナウンスが聞こえた。
――『【身体強化】レベル1 を取得しました』
――『【身体制御】レベル1 を取得しました』
――『【体術】レベル1 を取得しました』
「とうとうできたぞ!」
「史郎、おめでとう。魔術よりも気術のほうが難しいとは思いませんでしたね」
「そうだね。ところで、身体制御ってなんだ?」
「体術において、武術における本来の体の動きを補助する能力ですね。全身の筋力制御と四肢や体幹の動きを最大限活用するための制御が自動で行われます」
「あー、なるほど、失われた武術のやつか。さすがに現実世界を作るだけあって俺が設計した以上の物がきちんと実装されているなー」
「そうですね。さすが神様ですね」
「よし、ここまで来たら、午後は武術のスキルを試そうか!」
妙に意気込む史郎であった。
昼ご飯は、昨日の残りの肉と野菜でさっさと済ますことにした。
「史郎、武術のスキルに関してですが、モーションキャプチャーデータがあります。それを応用すれば、スキルの取得がしやすいかと」ミトカが提案してきた。
「あー、あのデータか。でも、あれで現実の自分の体を動かすことは可能なのか?」
「はい。私がTARで実体化した際に、この世界での体の制御方法は習得していますので、モーションデータのボーン情報を変換することが可能です。それで、変換してみました。試してみますか?」
「いつの間にそんなスキルを? というか、ミトカって俺以上にチートじゃね?」
と史郎は半分あきれた声を出した。
「……いえ、私はあくまで史郎のスキルですので、これは、史郎の能力と言えます」と謙遜するミトカ。
「……まあ、そういうことにしておくか。できるのであればなんでもいいな。何にせよ助かるよ」
「はい!」とミトカはうれしそうに笑顔で返事をした。
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