21.最大魔力容量
魔力増強の方法をミトカに確認した後、その手続きをコーディングできるか試してみようと史郎は考えた。
「魔力吸収スキル発動後、現在魔力量の数値をチェックして、105%で停止。その状態で50秒待機。その後物質化スキルで直径10センチの鉄の塊生成で魔力を消費、だな?」
と史郎は手順を確認した。
簡単なコーディングは、イデアツールの魔術スクリプトエディタを使うのである。
まずは繰り返しブロックを取り出す。
継続条件は、現在魔力量を現在の最大魔力量で割って、1.05以下の場合のみ。
ループ内では、イデアツールの魔力吸収を発動し魔力1だけ吸収する。
1.05を超えた場合は、繰り返しブロックから抜けるので、その後待機コマンドで50秒待機。
そして物質化スキル発動で、パラメーターは直径10センチの鉄の塊でセット。
史郎はスクリプト作成して【最大魔力容量拡張】として登録した。
ちなみに、このスクリプトエディタは、某子供向けプログラミング環境のドラッグドロップのエディタに似ている。もっとも、こちらは3DでVRライクなインターフェースだが。
史郎は、現在の最大魔力容量は142であることを確認し、【最大魔力容量拡張】を実行した。
すると、周りからマナを吸収する感覚があり、心臓あたりがずきッと痛む感覚を覚えた。
「うぉっと、意外とキツイなこれは……」史郎は苦痛に呻きつつも、そのままその痛みに耐えた。
すぐとも永遠ともいえる時間が経って痛みが治まると、目の前に鉄の塊が現れた。史郎はそれをインベントリに入れておく。入れながら、自動でインベントリに入れればいいかとスクリプトを修正した。
「ふー、これは何とも言えない感覚だな。さて、結果はどうなったかな?」
と、ステータスをチェックすると、最大魔力容量は143に増えていた。
「おー、無事成功だな! 地味な増え方だが……」
「約0.9%増加したようですね」とミトカ。
「よし、これを自動実行で繰り返せば大幅な容量増加が期待できるな。まあ、あの痛みはちょっときついものがあるけど」
「史郎、この方法は少し体に負担がかかるので、程々にした方がいいですね。一日4回まででしょうか?」
「まあ、そうだな」
「この方法だと、一日4回、10日で、1.4倍、30日で約3倍に拡張されますね。手ごろな拡張方法だとは思いますよ」とミトカが推算した。
「しかし、この方法って魔獣討伐と比べてどうなんだ? 魔獣のレベルが20として、一体討伐すると……?」史郎は計算しようとした
「……史郎の場合、いろいろ倍率が大きいので、4%くらい増えますね」
「それじゃ、討伐するほうが簡単じゃ?」
「そうですね、特にこの場所の場合、討伐のほうが簡単かもしれません。でも、討伐に出られない場合や、いつでもできる利便性を考えると知っていても損はない方法ではあります。史郎の場合繰り返しが簡単にできるので、いざという時のために今から訓練しておくことを推奨します。ちなみに4~5回実行で、レベル20の魔獣討伐に匹敵します」とミトカは解説した。
「なるほどな」と史郎はうなずいた。
「よし、わかった。毎日の地道な努力が大事だ。普通だったらこんな方法はあり得ないのだが、スクリプトで繰り返しできるからできる技だな」とスクリプティングの便利さに史郎は感心した。
「ところで、史郎。言い忘れましたが、作ったスクリプトをいきなり実行するのは危険です。まずはスクリプトのテストが必要かと。今回は簡単なので私がチェックしておきましたが」
「おー、ありがとう。で、テストなんてできるの?」
「はい。スクリプト実行用のエミュレーターがあります」と新しい情報を史郎に説明した。
「なるほど、それは便利だな、というか、元の俺のツールには無かったような……?」
まあ、今度からそれを使おうと史郎は考えた。
「それで思ったんだけど、もしスクリプト実行途中で問題があったら、ちゃんと止まるんだよな?」
「はい、止まります。特に危険と判断された場合、自動中止もします。その場合、その時点での魔術発現は中途半端になる可能性があるので、複雑な魔術の場合、結果どうなるか予測できません」
「なるほど。まあそれは想定内だな」
史郎はそこでふと気になることがあって、
「エミュレーターがあるってことは、もしかして、亜空間、いや、独立した世界環境を構築できるということか?」と質問した。
「うーん、それはわかりません。エミュレーターがどういう構造になっているかの情報は持っていません。史郎が解析すればわかるかもしれませんね」
「なるほど。そのうち試してみよう」
史郎はまた新しいおもちゃを見つけた子供のようなほほ笑みを見せるのであった。
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