8.神託
「あぁ……、・・・、ごめん。でも、ありがとう。ここまで来られたのはあなたのおかげ。いつかもし生まれ変わったらきっと再び会えるよね?」涙を流しながら、少女は、抱きかかえてくれている男性を力なく見つめる。
「シェスティア!」とその男性は彼女に向かって叫んだ。顔が悲痛に歪んでいる。
「シェスティアちゃん!」とその男性の横に女性が見える。彼女も体中に傷が見え、つらそうな顔をしている。
シェスティアは、体をアイス・アローで貫かれ、息も絶え絶えにその男性に最後の言葉を残し、意識を失うのであった。
シェスティアはゆっくりと目を覚ました。
周りを見ると、まだ暗い。夢のせいで夜半に目を覚ましてしまったのだ。
夢のせいであろう、目からはいまだに涙が止まらない。起きた瞬間に、見た夢の記憶はおぼろげになり、どんどん消えてゆく。しかし、少女の心には、その男性に対する確かな思い――シェスティアにはそれが何なのかは、まだ分からないのだが――は、残っており、その思いは偽りでないとシェスティアは確信しているのであった。
「また、この夢」とシェスティアはつぶやく。一体あの男性は誰なのだろうかと思案しながら。
彼女はこの夢を何度も見た。そして、起きるたびに涙を流すことになるのだが、最近見る回数が増えているような気がする。そして、涙は流すのだが、徐々に、悲しみとは違う感情が生まれつつあるのを感じている。
『シェスティア』
ふと、少女は自分を呼ぶ声を聞いた気がした。
「だれ⁉」とシェスティアは声に出した。
『シェスティア、落ち着いてください。あなたの頭の中に直接話しています』
今度は、先ほどよりはっきりと声が聞こえた。そして、頭の中に聞こえるのに、声には方向が感じられ、その方向を向くと、光り輝く点が浮かんでいる。
「頭の中……? えっ、その光は⁉ もしかしてフィルミア様?」
と、シェスティアは思わず声を上げる。頭が覚醒しだして彼女は思い出した。この声と光は昔聞いたことがあると。シェスティアがフィルミアの加護をもらった時だ。
『シェスティア、あまり長く話せません。用件だけ伝えます』とフィルミアは話しかける。
「はい」
『使徒が現れます。あなたの助けになってくれるでしょう。魔の大樹海の聖域へ迎えに行ってください。頼みましたよ』
女神はそれだけ言うと、光は徐々に消え、あたりは静寂に包まれた。
「魔の大樹海の聖域……?」と、シェスティアはつぶやくのであった。
◇
「私、魔の大樹海の聖域に行く」
次の日の朝、シェスティアはパーティーのメンバーにいきなり告げた。
「え⁉ シェス、いきなり何なの?」と女性が答える。
「父様と母様を何とかできるポーションの原料があると聞いた」とシェスティアは言った。
「え、ポーション?」と女性が聞いた。彼女の名はアリア。シェスティアが入っている冒険者パーティーのリーダーだ。
「そう。だから行く」とシェスティアは真剣な声で返した。
「……」アリアは黙り込んだ。
「わかった、ついていこう」と男性が答えた。彼はシェスティアの兄でアルバートという。
「え? アル、あなた即答⁉ ほかに何にも聞かないの?」とアリアは驚く。
「ああ。シェスティアが行きたいと言うのなら、付いていくだけだ」とアルバート。
「……そうね。聞くだけ私がバカだったわ」とアリアはため息を吐きながら答えた。
アリアは少し思案して、話をはじめる。
「……わかったわ。行きましょう。ちょうど依頼も終わって、休暇も終わって次をどうしようかと思っていたところだし、タイミング的にはいいわね。でも、魔の樹海に行くってなると、簡単じゃないわよ?」
「わかってる。アリア姉、ありがとう。ごめん」と、シェスティアは泣きそうな顔で謝った。
「バカね、いいのよ別に。そうね、あなたが行きたいというのなら、ちゃんと理由があるのでしょう?」アリアは笑顔を浮かべて答えた。
「じゃあ、そうとなったら準備ね。入念に準備をしてから行くわよ。師匠にも話さないといけないしね。みんな気合いを入れていくわよ!」とアリアは言う。
三人の信頼は固い。なので、いちいちグダグダと理由は聞かない。真剣なことならなおさらだ。そして、一度決めたら行動が早いのがこのパーティーメンバーの特徴なのだ。
そうして、彼らは早々と準備を進め、魔の大樹海に向かって出発するのであった。
◇
今は神聖歴1331年。魔の大樹海とは、神聖歴前372年に発生した、広域大規模魔導具の暴走による地上破壊の際に発生した領域だ。その事件は「マギセントラル瘴気大爆発事故」または「魔の大暴走事故」と歴史上記されている。
その時の魔導具の暴走で、当時の魔人国の広大な領域が隆起して台地になり、瘴気が充満して、魔獣の溢れる大樹海に変化した。世界規模で地殻変動が起き、地上の生き物に大打撃を与えた。幸い惑星全体が滅亡するほどではなかったが。
シェスティア達がいる街は、その大樹海に面した領地の領都で、樹海に近いこともあり、冒険者が多い街になっている。
魔の大樹海の中にある聖域はある種の伝説にもなっており、だいたいの場所しか知られていない。
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