7B.魔術検証2

 一連の操作がスムーズに約1秒で発動できるようになった頃に、


 ――『【魔力操作】がレベル2になりました』

 ――『【魔力感知】がレベル2になりました』


 とのアナウンスが流れた。魔力感知がレベルアップしたのは、慣れるにしたがって魔力がより明確に見えるようになったからだ。

 最初の頃は想像に近い状態だったのが、薄ぼんやりと魔力が実際に見えるようになったのだ。


「おー、結構早くレベルアップしたな」

「通常だと数日から数週間かかるので、かなりの速さですね」ミトカは感心した表情を浮かべた。

「使徒の称号の影響かな?」

「それもありますが、この世界では本や紙は一応ありますが貴重ですし、映像なんてないですから、事細かく架空の物を見る・想像するということに慣れていません。なので普通の人々はその部分で苦労するようです。その点史郎は想像力豊富ですからね」


 魔術によって魔力から現実物質に変換するには、現実に近い、つまり、シーングラフへ変換できるレベルの想像力が必要になる。

 そういう意味では、子弟制度で師匠が弟子に見せるというのは理にかなっているというべきかも、と史郎は考察するのであった。



 よし、続いて火に挑戦するかと考え、史郎は火の属性を試すことにした。

 

 同じような魔力操作で、水の代わりに、火の玉。具体的には、酸素と可燃性ガス、とりあえずはメタンガスの分子式を、史郎は思い浮かべた。意志力は水と同じく120で、しかし気体への魔力相転移をイメージ、さらに、燃焼している状態――つまり酸化反応――を思い浮かべながら「物質化」と唱える。すると、無事火の玉が発生した!


 史郎は調子に乗っていろいろ試す。


 石――この場合は二酸化ケイ素。集中、集中、……と史郎は集中力を高めた。意志力130と高めの集中力が必要な固体への相転移。半透明の白い石。表面はざらざらした状態でできた。


 イメージ次第でなんとかガラス玉も成功させることができた。透明度はあまり高くない。ガラスはガラス相転移が必要だから魔力の微妙な調整が必要だな、と史郎は思った。


 圧縮空気――この場合は、高圧縮された状態をイメージ。意志力130必要で、集中! と、発動してしばらくしたら破裂して、史郎は焦った。圧縮された状態を維持するようなイメージが必要なのだ。火の玉はある程度形が維持されていたから、形の継続のイメージは重要そうだと史郎は考えた。


 雷――これは電子の塊……は、なんだか危険そうなので、プラズマボールをイメージしようかと史郎は考えた。プラズマへの相転移には、魔力の、プラズマと素粒子と電子のイメージが必要だ。意志力140でかなりの集中力が必要で、結果的にバチバチスパークしまくりの塊を作ることを成功させた。

 ――この塊はいったいどうなっているのだろう? と、史郎は何となく納得しかねる表情であった。


 氷――実は、これは比較的高度だ。水のボールで、温度低下を追加でイメージ。逆に温度上昇をイメージすると、お湯ができた。温度変化は分子運動の変化をイメージする必要があり、集中力高めで意志力140。液体もしくは固体への相転移、プラス、分子運動の励起が必要なので魔力の一部に電磁波のイメージが必要だ。


 いろいろ試していると、


 ――『【魔力操作】がレベル3になりました』

 ――『【魔力感知】がレベル3になりました』

 ――『【物質化】がレベル2になりました』

 ――『【魔術】がレベル2になりました』

 ――『【魔術】がレベル3になりました』


「おー、レベルアップ。うーん、物質化スキル、万能じゃね?」と、興奮する史郎。

「史郎、通常はかなり魔力を消費する上に、物質の具体的な化学式や物理法則は知られていないので、こんなにいろいろ物質化できませんよ」

 ミトカは史郎の様子を観察していたが、あきれた様子で言った。


「まー、開発者・知識チートではあるな。あれ? そういえば、俺って魔力100しかなかったような気がしたけど、こんなに使えるのか?」

 と、ふと疑問に思った史郎。

「【イデア】スキルの影響です。本来のツールとしてのスキル起動以外に、常時発動の魔力無制限での魔術使用ができます」

 と結構重要だと思われることをサラッと述べたミトカ。


「えー、それって最強じゃないか?」

「いえ、実は重要な制限があります。攻撃魔術や自身から離れた永続属性の魔術には魔力が供給されません。つまり、実験や自家使用はいいですが、それ以外は本来の魔力の消費が必要になります。まあ、いわゆる自家使用専用の開発者ライセンスですね」


「……なるほど、いいのか悪いのか分からんな。まあ、いろいろと気兼ねなく試せるからその点は素晴らしいな。実用には地道にレベルアップすればいいか……?」

「そのようです……」


 微妙な便利さと制限に沈黙する二人であった。

 

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