7A.魔術検証1・鑑定と物質化
史郎は立ち上り、スロープがある場所から地面のほうへ歩いて降りていった。西のほうに見えた河原のほうへ近づき、一部砂浜のようになっているところまで歩いていく。
「この川の水は飲めるのかな?」
と、史郎がふと疑問に思い尋ねた。
「はい、飲用可です」ミトカは史郎の横を飛びながら答えた。
「それで思ったんだけど、いわゆる鑑定スキルは使えるのか?」
鑑定スキルとは、物の情報を得るためのスキルだ。
「はい、使えます。使うには、魔力操作で魔力をレーザーポインターのように飛ばし、そのことによって対象を選び、その情報を取得できます」
「魔力の選択ツール的操作が実装されているということか?」
「はい、そうです。ただし、史郎の設計ではVRシステムの制限上、魔力操作は考慮されていませんでしたが、この世界では実際に魔力操作が可能です。なので、その魔力操作と魔力相転移の練習が必要だと思われます。そういう意味では、VRでのコントローラー操作はすべて魔力操作で置き換わりますね」
「なるほど、この世界の設計では、魔術はイメージと魔力による形づくりで実際の魔法を発現するようにできているのか……」史郎は感心した。
魔力操作という方法は、意志によってまるで手足を動かすかのように魔力を動かすということが可能にする技術だ。意志やイメージと現実がつながるのは、魔術を実装するうえでかなりの重要な部分を占める。
地球でのVRでは、意志による機械の自由な操作はまだ研究段階で実用化されていない。史郎は地球では不可能なことができるこの世界がだんだん好きになってきた。
「史郎がそのスキルを使えるようになるまでは、私が代わりに魔力操作・鑑定を行います。そしてその鑑定の結果、この川の水は飲用可です。有害物質、有害な微生物は含まれていません」
安全だということで、川辺まで近づき、手で水をすくって飲んでみる。
「おー、冷たくておいしいな!」
「史郎、森のほうに、果実のなった木があります。それも食用ですよ」
「それはいい! ぜひ採りに行こう」
食べ物があると聞いて、とたんにやる気になった史郎だった。
森の方は石舞台を中心としてちょうど反対側なので、そちらまで歩いていく。森のすぐ入り口あたりにリンゴのような実をつけた木が群生しているのが見えた。
「あれは、リンゴ?」
「似たような果実ですね。この世界ではアプリアと呼ばれています。さらに、この聖地に植わっている木からなる実なので、魔力回復効果を持っています」
ミトカは、アプリアの実のそばまで飛んでいき、史郎を見ながら説明した。
外見の色は真っ赤と言っていいほど赤く、かじってみると中身は真っ白だ。史郎は何個かとって食べてみた。
「おー、これはおいしいな。瑞々しくて、甘くてほのかに酸っぱくて」
史郎は思わず三つも食べてしまった。
「しかし、何か入れ物がいるな。水もそうだけれど、保存用の鞄や水筒がいるような気がする。もしくは……。ミトカ、アイテムボックスは使えるか?」
「史郎、インベントリですね。インベントリを使うには魔力操作のレベルアップが必要です」
「まぁ、そうなるか。なら引き続きスキルの検証だな?」
と、史郎は思い、石舞台の壁の椅子まで戻ることにした。
石舞台まで戻った史郎は、基本的な魔術を試してみようと思い、まずは水の生成をと考えミトカに手順を確認した。
「基本手順は、魔力操作、属性変換、制御、最後に発現キーワード、で合ってるか?」
「はい、そうです。なお属性変換にあたっては、意志力による魔力相転移が必要です」
ミトカは、史郎のそばに少し離れて浮かんで答える。
ここでも、この世界でこそ実現可能な「意志力」が実装されていることに史郎は気づいた。フィルディアーナでの魔術は、意志の込める力――意志力という――その力によって魔力の形態を変える必要がある。物質の相のように固体・液体・気体という相転移を魔力にも起こし、魔力自体をあらかじめ変換して使うのである。
もちろん実際の物質のように魔力が液体とかになるわけではない。あくまでイメージとしての相の変化だ。
「よし、まずは魔力操作で魔力を突き出した手の先に直径5㎝くらいのボール状にし、意志力を調整し液体をイメージしようか」
と、早速始めようとする史郎だが、
「……ミトカ、意志力ってどうやって調整するんだ?」
ミトカはあきれたような表情をして答える。
「……いきなり始めるから、わかっているのかと思いましたよ。単に集中力ですね。水生成なら、意志力110なので通常の魔力操作の集中力でOKです」
「なるほど。じゃあこのまま魔力をボール状にして液体をイメージ、意志力を込めればいいか」と、史郎は集中力を高める。
すると、魔力の塊が液体のような動きを始めたので、そこで水をイメージしその化学式を思い浮かべる。これで属性変換が働き魔力の球が水の球に変換された。
今回はこれで攻撃などするわけではないからなと考え、史郎はそのまま魔力制御をスキップし持続性をイメージして「物質化」と唱えた。
すると、直径50センチくらいの青い魔法陣が現れて輝く。
そしてその魔法陣が消えると水のボールが完成した。
「おー、やったー。これはすごいな!」
と、史郎は思わず興奮して声を上げた。これだけの現実の臨場感があるなかで魔術を実際に自分の目で見ると、なかなかの感動ものなのだ。
「しかし、今回は魔法陣が現れたけど、どうしてだ?」
「史郎、ステータス表示は自分用でしたが、今回は外部から見える魔術発現です。その場合は魔法陣が表示されます」
「ふむ。その魔法陣の模様の根拠は一体?」
「史郎が発現させた魔術処理の流れが自動的に魔法陣として表示されたと思われます」
「なるほど……」
と、ミトカと会話していると、水のボールがそのまま地面に落ちた。
「しまった、容器の用意をするのを忘れてたよ」
と史郎が反省していると、アナウンスが流れた。
――『【物質化】レベル1 を取得しました』
「史郎、おめでとう。初魔術ですね!」
ミトカは左右に体を揺らしながらガッツポーズをし、笑顔を浮かべて言った。
「おー、サンキュー。意外とうまくいったなぁ。でも、かなりぎこちないし時間もかかるから、一連の処理がもっとスムーズに速くできるまで練習だな」
ということで、史郎は小一時間ほどウォーター・ボールの練習をするのであった。
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