16.小屋
「さて、今夜の寝る場所が必要だな。たしか、女神様は小屋を用意しておくとかなんとか言っていなかったか? それらしきものは、このあたりに見かけなかったと思うんだが?」と史郎はフィルミアの言葉を思い出しつつ、ふと疑問に思った。
「史郎、イデアツールのライブラリを確認してみてください」とミトカ。
「ライブラリ?」
なんでライブラリ? と、疑問に思いつつも、史郎はさっそくイデアツールを起動、ライブラリ一覧を見てみた。
「リソース一覧です」とミトカが指示した。
なるほど、リソース一覧をチェックすると、そこにはいわゆる3Dモデリングで使うような、オブジェクトや素材の一覧がサムネイルで表示されている。史郎はその一覧をスクロールする。
そして「女神の小屋」なるオブジェクトを見つけた。
「おい、もしかして、これって……」と史郎は何となく思いつき、ミトカに尋ねた。
「はい、史郎。それらのオブジェクトは実体化できます」ミトカはふわふわと浮かびながら笑顔で応じた。
「まじか!」
と、史郎は叫ぶ。そして、
「えーっと、これはまた安易というか、できすぎているというか……」とあきれた。
「まあ、今のところ制限はあります。いちばん大きな制限は史郎の現在の魔力量ですね。このライブラリからの実体化には、本当は今の史郎の魔力では全然足りません。ただし、史郎が使うという前提で、この場合は史郎が近くにいるということになりますが、イデアツールのスキルとして魔力消費なしで実体化できます」
「例の自家使用ライセンス制限、いや、特典か?」
「はい。今のところその制限でも特に問題ないかと」
「そうだな。とにかく試してみよう」
史郎は、リストから女神の小屋を選択し、出現場所をイメージする。すると四角く光るワイヤーフレームのようなものが現実世界に表示される。これは、小屋の大きさを示しているようだ。それを適当な場所に決めて「実体化」と唱えた。
すると、その場所に小屋が出現した。
――『【実体化】レベル1 を取得しました』
「これはすごいな! こんなものがあっという間にできるなんて、さすが魔術!」 少し感心するような、少し投げやりのような史郎。
「ふふふ。史郎、ちなみにこの魔術が使えるのは、この世界で史郎だけですので」
得意げに言うミトカ。
「え、そうなのか? まあ、いいか」
と、史郎はスルーすることにした。照れ隠しだ。
出現した小屋、いや、大きめのキャビンとも言うべきかものは、見た目ログハウスの様に丸太でできている。
きちんと石の土台もあり、三角屋根で、屋根の素材は重ね合わされた木の板だ。大きさは5メートル×10メートルくらいで、それなりの大きさがある。扉と窓もある。
「まずは入ってみるか」
扉には鍵はかかっておらず、史郎はそのまま扉を開けて、中に入った。一応鍵は掛けられるようになっている。
入ってすぐはリビングで、すぐ左の窓側にはキッチンと食器棚がある。その前にはダイニングテーブルと椅子が四つ用意されている。
入って右側にはソファーとコーヒーテーブルがある。小さい本棚もあり、何冊か本が用意されている。
中央には廊下が見え、右奥に扉があり、開けて入ってみると小さな部屋で、ツインサイズのベッドが一つ置かれていた。小さな箪笥と、椅子と机もある。左の扉の方は、トイレ、洗面だ。
さらにその先の部屋を見ると、
「おー! 風呂があるぞ!」
と、興奮する史郎。
全体を見て回った史郎は、
「これはまた、えらくシンプルで、でも完備された小屋だな」
と、素直に感心し喜んだ。
せっかくだからと、史郎は座り心地よさそうなソファーに深く腰掛けた。
「うん、これはなかなかいいな。寛げそうだ。しかし、どうやってここまでモデリングするんだろうか?」
VRでのオーサリングでも、いわゆる3Dモデルはたくさん存在する。
それこそ、世界中の3Dモデラーがせっせとネット上にアップして、フリーから有料までありとあらゆるものが手に入るのだ。もっとも、その質もピンからキリなので、ある程度の完成レベルの物はなかなか手に入らないのだが。
「史郎、この小屋の物はすべて現実で実際に作られたもので、それをそのままインベントリに保存するかのように、ライブラリに保存したものですね。少々機能的には異なりますが、ライブラリもインベントリと同じような目的で使えます」
「あー、なるほど。モデリングで実体化したわけではないのか。そうなると……?」 史郎はそこで気になった点があり、
「えーっと、なら、最初からライブラリをインベントリ代わりに使えばよかったんじゃ?」とミトカに尋ねた。
「いえ、残念ながら、インベントリのスキルが使えないと、ライブラリの実体化のスキルが習得できません。さらに、ライブラリに保存されると、エンティティがライブラリ内部保存の形態に変換されてしまいます。なので、ある意味、ライブラリに登録した時点で元の物とは違う存在になってしまいます」
「なるほど。ライブラリは『テンプレート』みたいなものだからかな? ん? となると、この小屋は、もし元に戻したいと思ったら、インベントリへとなるわけか?」
「そうですね」
「中に置いたものは?」
「そのまま、いっしょにインベントリに入ります」
なるほど。じゃあ、旅行中でもテント代わりに使えそうだな。少しでかくて目立つけれど、と史郎は苦笑した。
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