13.即死耐性
「えーっと、隠密スキル全開で30メートル程まで近づいて、ストーン・ボール何発かを頭に当てる。仕留めたところをインベントリに確保、即効で逃げる、という作戦でいいんだよな」
と、手順を確認する史郎。
「はい。気をつけてくださいね」
ミトカはそう言うと姿を消した。
即効で片を付ければいいはずだと考え、緊張で心臓がどきどきしながらも、何とか落ち着こうと史郎は深呼吸した。
史郎は、その時ふと一瞬体が熱くなるような感覚を覚えた。変だな? と、疑問に思った瞬間、脳内にアナウンスが流れた。
――『【超記憶】がレベル4になりました』
――『【直観】レベル1 を取得しました』
――『【予感】レベル1 を取得しました』
「は?」
突然の脳内アナウンスに史郎は狼狽した。
「何だ何だ? 突然どうしてスキルが得られたんだ?」と訳が分からない史郎。
「……史郎、嫌な予感がします」とミトカ現れて、何かに気づいたように不安そうな表情で低い声で言った。
「予感? ミトカって予感までできるのか? というか、それってスキルだったよね。たしか、予感・予知系のスキルが発動する条件は……」
と、考えかけて、史郎の思考が止まった。
「おいおい、もしかして、俺、一回死んだか?」と半分あきれた声を出す史郎。
「可能性がありますね。超記憶スキルのレベルが足りないため、完全な記憶が引き継げなかったと思われます」
「……なるほど」と史郎は納得する。
死んだかも、という認識の割には冷静な自分に驚く史郎ではあるが、単なる推測にすぎないから、実感がないだけかもしれない。
「しかし、スキル取得のアナウンスで気づくことになるとは、設計者とはいえ、実際に体験しないと分からないものだな」と変なところに感心する史郎であった。
「【予感】スキルは世界の時間制御の現在ポインターに関連します。【直観】は脳内シミュレーションの高度版です。何かが起こる予感ですね。もしくは、起こったか、です……。史郎はまだ時空間関係のスキルは持っていないので、なぜこれらのスキルが今得られたのかは不明です」
「つまり、もしかして、いや、もしかしなくても、このブラック・ホーン・ラビットって思っているよりも危険かもしれないということだな」
「そうですね。用心に越したことはありません。予感・直観スキルを信じて、いつでも何でも回避できるように準備しましょう」
そうだな、何が起こるかわからないからな。そう思いつつ、ブラック・ホーン・ラビットに近づくため史郎は移動を開始した。
3匹、いや、あの大きさだと3体というべきか、そのうちの少し小さめな一体が、ほかの二体とは少し離れた場所にいるので、史郎はそれを狙うことにした。
隠密スキルを信じて、そーっと、少しずつ近づく。30メートルほどまで来ると、ブラック・ホーン・ラビットの大きさが異常に見える。
「うわー、なんかシュールだな」と史郎は引き気味で、とりあえず魔法を撃つかと、準備する。
よし、ここだ、と、史郎は【ストーン・ボール】を発動した。史郎が、ボールが飛んでいくのに気をとられた瞬間、鋭く強烈な嫌な予感を抱き、とっさに体を右横方向に跳ばした。
横から「ひゅっ」という音が聞こえ、一匹のブラック・ホーン・ラビットが史郎に突進する。それを視界に捉えた史郎は、かわそうとするが、その瞬間、左腕に激痛が走り、何かがぶつかった衝撃で、史郎の体が右方向に吹っ飛んだ。
「うぉっ」と思わず悲鳴を上げる史郎。
「史郎、あぶない!」とミトカが叫んだ。
史郎は、思わず自分の腕を見ると、突進してきたブラック・ホーン・ラビットが、その角で上腕部分を深く抉り、そのまま直進していくのが視界に入る。
「予感スキルが発動していなかったらやばかったぞ! というか、まだやばい!」
と史郎はさけんだ。
これはまずいと思って、史郎が立ち上がろうとした瞬間、ブラック・ホーン・ラビットが再び一瞬で突進してきた。
史郎がそれを認識し「ストーン・シー……」と障壁を展開しようとした瞬間、体に激痛がはしった。
「うっ」
史郎が視線を移して自分の体を見ると、角が腹部を貫通しているのが視界に入った。
「え、なんで?」
と、起こったことが信じられないように史郎はつぶやいた。
史郎がそうつぶやいた瞬間、そのブラック・ホーン・ラビットは、頭部を振った。その勢いで、史郎の体は振り回されて飛んでいき、20メートルほど離れた木に激突、地面に落ちた。
「くっ、ゴホっ」
史郎は口から血を流しながら、意識が朦朧とした。
――嘘だろ、こんなあっさりと死ぬのか?
と、思いながら、史郎は意識を失った。
――『即死レベルの負傷を負ったことが確認されました。【即死耐性】を発動します。所有者が【使徒】であると確認しました。【即死耐性】のレベルがマックスであることを確認しました。【巻き戻し】を実行します』
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