12.油断

 とりあえず必要なスキルは準備できたと思われたので、史郎はさっそく狩りに出かけることにした。目標はブラック・ホーン・ラビット一体だ。


 史郎は探査スキルでブラック・ホーン・ラビットの位置を確認した。小屋から南西の方向に1キロほどの場所。聖域の結界を抜けてさらに500メートル先だ。


 聖域を抜けた後、史郎は【隠密】スキルと【透明化】スキルを発動させて、途中で魔獣に見つからないように慎重に移動した。見つからないだろうと分かってはいても、初めて使うスキルなので少し怖いのだ。


 

 このあたりの森は、木が巨大だ。

「昔旅行で行ったことがあるレッドウッドの森のようだな」

 と、周りの木を見ながら感じた史郎。

 ことごとく木の直径が数メートルあるのだ。幸い木と木の間の地面は比較的平らで、木の根がそれほどうねっているわけでもないので、歩きにくいというほどではない。


 慎重に森を進んで30分ほど、少しひらけたところに出てきた。森を出たところにちょうど大きな岩がゴロゴロと転がっており、史郎はその陰に隠れて様子を見た。ちょうど百メートルほど先に3体のブラック・ホーン・ラビットを見つけた。


「おー、意外とかわいい姿だな?」と史郎は思った。


 遠目で見て、モフモフな典型的なウサギの形をしている。色は名前のとおり黒だ。頭に鋭利そうな角があるのが異なる点か。


「史郎、距離は百メートルありますよね」とミトカが岩の上に浮かびながら指摘した。


 そうだな、それが何か……、と言いかけて、史郎はふと気付いた。

「あれ、なんか縮尺がおかしいような気が……」

 史郎は思案する。

「背後にある木の大きさが小さく見える? 百メートル離れているはずなのに、ウサギ自体のおおきさが、普通の大きさに見えるんだが?」

「ブラック・ホーン・ラビットは体長3メートルあります」とミトカ。

「え、でかくない? あー、遠くから見る巨大看板のような感じで見えるから違和感があるのか⁉」

 史郎は驚愕しながら、取り合えず、鑑定してみることにした。



 ブラック・ホーン・ラビット 魔獣 レベル20

 スキル:【縮地】【跳躍】【角頭突き】



「おい、ミトカ。あれ、なんかかなり強そうなんだけど?」

 史郎は魔獣のレベルを見て少し不安になり、ミトカに確認した。

「史郎、史郎の魔術の威力だと大丈夫……なはずです」とミトカは目をそらして言う。。

「え、なに、その間? しかも、どこ見てんの? ねえ、確実じゃないの?」

「……」

「……」

「食料のためです」ミトカは無表情で、何か納得しようとする感じのセリフを吐いた。

「はあ、まあいいか。やってみないと分からないからな」と史郎は諦め感が上昇するものの、一応対策を確認しようとミトカに尋ねた。


「えーっと、じゃあ、隠密スキル全開で30メートル程まで近づいて、ストーン・ボール何発かを頭に当てる。仕留めたところをインベントリに確保、即効で逃げる、という作戦でいいんだよな」


「そうですね。かならず1体だけ相手にするようにしてください。複数同時は難しいと思います」真剣な顔で言うミトカ。

「オッケー。ほかに何かアドバイスは?」

「いえ、特には。ホーンが危険な以外は、史郎の遠距離攻撃で何とかなる範囲です」

「了解」

「では、気をつけてくださいね」

 ミトカはそう言うと姿を消した。


 即効で片を付ければいいはずだと考え、緊張で心臓がどきどきしながらも、何とか落ち着こうと史郎は深呼吸した。


 その時、ふと、史郎は一瞬体が熱くなるような感覚を覚えた。が、緊張のせいだろうと特に気にすることもなく、史郎はブラック・ホーン・ラビットに近づくため移動を開始することにした。




 3匹、いや、あの大きさだと3体か? その内の一体、ほかの二体より少し小さめなのが少し離れた場所にいるので、それを狙うことにしようと史郎は考え、隠密スキルを信じて、そーっと少しずつ近づいた。


 30メートルほどまで来ると、史郎にはそのブラック・ホーン・ラビットの大きさが異常に見えた。


「うわー、なんかシュールだな」

 と、史郎は少しぞくっとしながらも、慎重に近づいた。


 よし、と、そこで史郎は【ストーン・ボール】を発動した。


 ボールが飛んでいくのに気をとられた瞬間、横から「ひゅっ」という音が聞こえ、史郎は体に激痛が走るのを感じた。


「うっ」史郎は呻いた。


『史郎!』とミトカが驚き、史郎の頭の中で叫んだ。


 史郎は、ミトカが叫ぶ声を聞きながら自分の体を見ると、いつの間に来たのか、一体のブラック・ホーン・ラビットが、その角で自分の腹部を貫通しているのが視界に入った。


「え、なんで?」

 と、唖然とする史郎。


 つぶやいた瞬間、ブラック・ホーン・ラビットは頭部を振り、その勢いで史郎の体は振り回されて飛んでいき、20メートルほど離れた木に激突、体が地面にずり落ちた。


「ぐっ、ゴホっ」


 史郎は口から血を流しながら、意識が朦朧とするのを感じた。


 ――嘘だろ、こんなあっさりと死ぬのか?

 と、思いながら史郎は意識を失った。



 ――『即死レベルの負傷を負ったことが確認されました。【即死耐性】を発動します。所有者が【使徒】であると確認しました。【即死耐性】のレベルがマックスであることを確認しました。【巻き戻し】関連のスキルの初期化を行います。【巻き戻し】を実行します』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る