11.クラス定義と攻撃魔術
さて、問題はプロテインだな。と、突然肉を食べたくなった史郎は思った。
まずは探査で獲物を探してみようと考え、結界のすぐ外を含めるために半径1キロ圏内の食用動物というフィルターで探査スキルを発動した。
〔南東400メートル、川内にサモナ〕
〔北東700メートル、ブラック・ホーン・ラビット20体〕
〔南900メートル、ジャイアントフォレストボア1体〕
「ミトカ、こいつらを狩るには攻撃魔法がいるよな?」
「そうですね、サモナは鮭ですね。単なる魚です。ブラック・ホーン・ラビットは
「あぁ、それもそうか」
史郎は、今度は魔獣でフィルターするようにして探査を再発動した。
すると、全部で数百体の魔獣がリストされる。しかも、ご丁寧にも結界の周りに万遍なくだ。
「……おい、これ無理ゲーじゃん」と史郎は絶望の表情をした。
「まあ、まともに対応すると今の史郎じゃ無理ですね」とミトカは少し笑いながら言った。
「別に無理に肉を食べなくてもいいんだけど……」と史郎はいじけてつぶやく。
しかし、いつかはここから出ないといけない。何か手があるはず! と、史郎は切実に考えた。
考えにふけること数分。
「ちなみにこの世界でのエンティティ・オブジェクトのクラス定義って、どうなってるんだ?」とミトカに疑問を投げかけた。
「基本、史郎の設計どおりです」ミトカはすました顔で、しかし少しいたずらっ子の笑顔で答える。
それを聞いた途端、史郎はピンときた……な・ん・だ・と⁉
驚愕した史郎は、すかさず、
「じゃあ、感覚出力係数と気配係数も?」と聞いた。
「はい。しかも、史郎はその値を変更できますよ!」にやりと答えるミトカ。
おー、最強第二弾キター、といきなりテンションマックスになった史郎。
感覚出力係数とは、存在オブジェクトが、ほかの存在オブジェクトからの、通常の感覚――いわゆる五感――で認知される際の程度をコントロールするパラメーターである。ゼロにすると、他者からは五感では認識されなくなる。もちろん、見えないだけでなく匂いも音もしない。
ただし、魔術による探査には引っかかる。そこで、気配係数。この値をゼロにすると、もはや何物にも認知できなくなるのである。
さっそく変更してみよう。と史郎は考え、
「えーっと、どうやって変えるんだ?」と尋ねた。
「イデアスキルで、自身をインスペクションし、パラメーター変更でそれぞれの値を変更します」
なるほど、と、史郎はさっそくパラメーターを変えてみた。
――『【透明化】レベルMAX を取得しました』
――『【隠密】レベルMAX を取得しました』
「あれ、スキルとして登録された? しかも、いきなり値をゼロにしたせいで、スキルレベルマックスになったぞ」
「……本当はかなりの訓練が必要なんですが」
「これで、結界外に出ても
「理論上はそうです」
まあ、試してみるしかないな、と呆気ない変更に拍子抜けした史郎。
「それで、俺の今の魔力量で、どれだけの攻撃魔法を打てるんだ?」
「ストーン・ボールの生成射出で魔力4ですね。なので、全部で20発くらいでしょうか? 魔力は残り20%は残すようにしてください」
「ああ、オッケー。物質化ではなくて、地面からの材料を使って生成と射出だったら?」
「残念ながら、それはまた別の魔術になりますね。今は属性付与の攻撃魔法になります。ブラック・ホーン・ラビットを討伐するための威力を出すには、運動量4くらいの魔力が必要です」
なるほど。とりあえず試してみるか、と史郎は考え、試せる場所はあるかなと周りを見渡すのであった。
史郎は、結界の淵ぎりぎりあたりまで歩いていったところにある広場のような場所に行き、百メートルほど離れた場所にある大きい石に向かって試し打ちすることにした。
「魔力操作で直径5センチほどのボールをイメージ、土属性付与で、石のボール作成、初期運動量を設定、百メートル先まで時速百キロ程度の威力をイメージ。発動起点は、伸ばした手の先。射出方向はターゲットの石だな」
ここまでイメージすると、直径50センチくらいの赤い魔法陣が現れて輝いて、史郎の手の先に石のボールが生成された、と同時に、赤いレーザー光線のようなものがターゲットまで伸びる。このポインターは史郎にしか見えない。
【ストーン・ボール】と史郎が唱えると、魔法陣は消え、石のボールがヒューンと飛んで行き、ターゲットにあたり、すごい音を立てて粉砕され、石の粉が飛び散った。
――『【魔力制御】レベル1 を取得しました』
「おー、意外と威力あるな?」とびっくりする史郎。
が、よく見ると、ターゲットの石は特に変化していないことに史郎は気づいた。
「史郎、石の密度が足りません。さらに、時速百キロだと、秒速30メートルほどなので、この距離だと3~4秒かかります。それだと、ビッグ・ホーンラ・ビットだと避けられますね。30メートル以内に近づけば大丈夫だと思いますが」
史郎はステータス画面で魔力を確認し、確かに4減ったことをチェックする。
「史郎、イデア内で試すと、魔力を消費しないので、試行錯誤するならイデアを起動することをお勧めします」
「確かにそうだな。実際の試し打ちもできたし、しばらくはイデア内で工夫してみよう」
ということで、史郎は小一時間いろいろと試してみることにした。
なお、イデア内だと、攻撃魔法は使えない。正確に言うと、使えるが、ターゲットにあたってもターゲットは破壊されない。しかし、【トレース】機能に含まれる【エグゼク・プラン】という機能で、魔力消費やインパクトの影響が分析でき、効果のほどが数値で表示されるので、試すには都合が良いのだ。
いろいろと試したのち、史郎は2種類の大きさで属性違いの魔術を登録しておくことにした。
ボールの大きさの違いで【ボール】または【バレット】、材質の違いで【ストーン】、【ウォーター】、【ライトニング】、【ファイア】、【エアー】。つまり、【ストーン・ボール】とか【ファイア・バレット】とかで魔術の発動が可能になった。
――『【土魔法】レベル1 を取得しました』
――『【水魔法】レベル1 を取得しました』
――『【氷魔法】レベル1 を取得しました』
――『【風魔法】レベル1 を取得しました』
――『【火魔法】レベル1 を取得しました』
――『【雷魔法】レベル1 を取得しました』
と、史郎の脳内にアナウンスが流れた。
「今さらながら何だが、この脳内アナウンスはミトカか?」
「いいえ、【イデア】の付属機能とこの世界システムの混合と思われます。たぶん【イデア】の【スキル自動登録】機能ですね。この世界の住人にはアナウンスは流れません。スキルの確認は鑑定スキル、または、ステータス魔術で可能です」
そして、とミトカは続ける。
「史郎の場合、スキルの実際に使用による習得のほかに、イデアでの魔術登録でそれに相当するスキルが自動で判別されて習得・登録されるようです。今回の場合、ボール系、バレット系は、それぞれの属性魔法のレベル1に相当すると判断されたようです。なお、これらの属性はこの世界での精霊定型魔術での分類です」
「なるほど……。よし、とりあえず攻撃魔法はこれでいいか」
と、とりあえず満足げな史郎、続けて、
「次は念のために障壁スキルだな。ストーン・シールドあたりでいいか?」と史郎は聞いた。
「そうですね」
「よし、ストーン・ボールと同じ要領で、直径1メートルくらいの石の円盤、いや、防弾ガラスのようなクリスタルの円盤か?」
と、史郎はイメージした。さらに重要なのは、物を弾くイメージを明確にする必要があることだ。でないと、単なる石の円盤になってしまうのだ。
しばらくすると、緑の魔法陣が現れたかと思うと、それが消え、代わりに、目の前にかすかに輝く光の円盤が現れ、史郎は、それをそのまま持続させた。
物質化と違い、魔術発現属性がついているので、魔力を止めると、円盤も消えることになるからだ。
――『【障壁】レベル1 を取得しました』
「史郎、その強度と大きさだと、その状態で毎分魔力1消費されます」
「なるほど。今の俺だとあまり長くは持たないな。シールドが必要な状況になったら逃げるが勝ちだな」
史郎はとりあえず障壁ができることを確認すると、少し安心したような、不安なような気持ちになるのであった。
==ステータス確認==
神川 史郎 人族(?) 男性 17歳
レベル:1
職業:エスエー
生命力:100/100
魔力:100/100
気力:100/100
物理攻撃力:100
物理防御力:100
魔法攻撃力:100
魔法防御力:100
器用:100
敏捷性:100
運:100
状態:超健康
属性:無
称号:【女神フィルミアの使徒】
プラグイン:【初級魔術精霊】
ユニークスキル:【イデア】レベル1、【即死耐性】レベルMAX、【ミトカ】レベル1
スキル:【魔術】レベル3、【魔力感知】レベル3、【魔力操作】レベル3、【超記憶】レベル3、【概念言語】、【物質化】レベル2、【探査】レベル1、【鑑定】レベル1、【インベントリ】レベル1、【透明化】レベルMAX、【隠密】レベルMAX、【魔力制御】レベル1、【土魔法】レベル1、【水魔法】レベル1、【氷魔法】レベル1、【風魔法】レベル1、【火魔法】レベル1、【雷魔法】レベル1、【障壁】レベル1
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