リストアポイントとリストア

「あー、やっぱりだめか……」


 フィルミアは、茫然ぼうぜんと管理ディプレイを見つめていた。


 原因不明の魔獣まじゅうの大暴走と、大規模破壊スキルの発動で世界が崩れていく混沌こんとんとした状況が表示されている。


 彼女は、その世界、『フィルディアーナ』の管理をしている女神だ。


「ティアちゃんはだけですごく頑張ってくれたんだけど……、さすがに無理ね」

 フィルミアは困惑した表情でつぶやいた。そして、

「しかも、世界樹のふもとで最終完全破壊スキルを発動させるなんてあり得ないわよ」

 そう叫んで頭を抱えた。


 彼女がいる場所は、神界にある、フィルディアーナ世界の管理ルーム。いわゆる神の白い空間。


 ティアというのは、フィルディアーナに存在する、フィルミアが加護を与えて問題の原因を探ってもらっている少女だ。


「うーん、仕方ないわね。とりあえず世界を復元リストアして、もう一度やり直しね。史郎さんを見習って、リストアポイントの設定をしておいてよかったわ」


 フィルミアは、世界システムの進行ポイント――現在の時間――を、こんな時のためにと作っておいたリストアポイント――過去のある時点――まで戻すことを決意した。


 世界システムというのは、『世界の理』。つまり、世界そのものの仕組み・機構である。

 そして、リストアポイントとは、その世界の時間軸上のある一点の時間で世界の状態を保存する仕組みである。世界のバックアップコピーみたいなものだ。


 フィルミアが思案していると、突然管理ルームに人影が現れた。誰かが転移してきたのだ。


「ははは、結局ダメだったか、フィルミア」

「ええ、サティアス。残念だけど持ちこたえられなかったわ……」フィルミアは悲しそうに答えた。


 サティアスは、第一世代世界システムと呼ばれる主にDNAベースの世界システムの権威けんいである神で、その開発グループのトップ。

 対して、フィルミアはエンティティベースと呼ばれる第三世代世界システムの専門家。

 両グループは、考え方からシステム構築方法まで、ことごとく対抗している。


「だから第三世代はだめだと言っているだろう。DNAによる自然に任せる方がいいのだよ、というのは。我らが創造神そうぞうしんユニティア様が作られたシステムが第一世代であり、完成形なのだからな。お主のように世界に余計な手出しをするから、崩壊する」


 彼は世界への完全不干渉ふかんしょうを推進しており、ある程度の干渉を許可するフィルミアのグループとは、その点においても考え方が根本的に異なる。


「いいえ、そんなことはないはずよ。途中までは順調にいっていたわ。でも何かがおかしくなるのよ!」

 フィルミアは苛立いらだちを抑えながら反論した。


「ふむ。まあ、しっかり原因を究明して、学会で発表し、みんなの役に立ってくれたまえ」

 それだけ言うと、サティアスは転移で去っていった。


「……まあいいわ。とにかく再試行よ。ティアちゃんは【超記憶 レベル1】持っていたわよね……ということは、次はレベル2になるから、次の再起動と周回には少しは役に立つはず。それに、次回は史郎さんが助けになってくれるはず」

 フィルミアはつぶやいた。


 超記憶のスキルとは、世界の時間が巻き戻った時に記憶を継承できるスキルだ。ただ、レベル1での継承だと予感程度にしか記憶を引き出せない。


 彼女は、次は何とかなってくれと願いながら、フィルディアーナの世界のリストアと再稼働、つまり、巻き戻しを実行した。


 しかし、いくら神といえども予測できないことが起こりえるのが、最新鋭の世界システムの宿命だと言うことを彼女は知ることになる……。

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