天才プログラマー魔術をマスターして美少女AIと共に世界を救う~フィルディアーナ・プログラミング

譜田 明人

プロローグ

プロローグ

 黒雲に覆われた強風が吹きすさぶ広大な森の上空、三人の男女がしょうしている。彼らは、地上にあふれる魔獣まじゆう――魔力を持つ凶悪な生き物――の大群と戦っているのだ。

 

マルチ複数同時メルテッドアイアン溶融鉄・ランス! マルチ・ライトニング・レイン! ゆうどう制御プログラム実行!」

 

 ろうが魔術を複数同時詠唱えいしょうすると、数百の複雑な模様の魔法陣が光り輝き、それらの間をさらに複雑な光の線がつながる。赤熱した鉄のやり電撃でんげきがあらわれ、地上の魔獣を追尾して飛んでいった。

 天才プログラマーである史郎は、多種多様な魔術をプログラムで制御し使いこなすことができる。彼はサラッとした黒髪が似合う、意志の強い目を持つ痩身そうしんの19歳の青年だ。

 

「私も負けない! マルチ・アイス・ブレット!」

 

 近くを飛んでいたシェスティアも魔術をえいしょうした。史郎の放った魔術の数倍、数千の魔法陣が輝き、氷の銃弾が地上に向かって高速で放たれた。

 金色のショートボブで、透き通るような翡翠ひすいの目を持ち、少し幼さが残るが負けん気の強い表情をした小柄な美少女である。彼女は桁違いの魔術の同時発動が可能だ。

 

「シェスティア、数があればいいというわけではないですよ! マルチ・ライトニング・ニードル!」

 

 さらに、少し離れたところを飛んでいたミトカも同じように詠唱した。何百という魔法陣が輝いた途端、レーザー光線のような電撃の針が魔獣たちに突き刺さり、せんこうを放ちながら爆発した。

 彼女もシェスティアに負けず劣らずの魔術の能力を持つ。明るい茶髪でロングポニーテールのすらっとして背の高い、美女になりつつある美少女である。

 

 彼らの攻撃魔術が雨あられのように地上に向かって降り注ぐ。それらは地上でうごめく魔獣まじゅうたちを撃ち抜き、つぎつぎと無効化していった。

 

「……あぁ、しかし、これはきりがないな……」と史郎はつぶやいた。

 

 大地を埋め尽くすほどの魔獣。たとえ無数ともいえる攻撃魔術を撃っても、数がいっこうに減らないのだ。

 

 突然、ミトカが叫ぶ。

「史郎! シェスティア! あれを見てください!」

 

 ミトカが指さした方向を見ると、何かが放った直径1メートルほどの高速に回転する黒い球状の物体が飛んでいくのが見えた。そしてそれは、世界樹の近くの岩山に着弾したとたん膨張ぼうちょうし始めた。

 

「いかん! 結界であれを閉じ込めるぞ! 補助をたのむ!」と史郎が叫んだ。

 

 彼らは、黒いボールのすぐそばの地面まで転移する。

 

 史郎たちは、それを囲むような三角形の頂点の位置に移動した。の魔力を合わせて、それを閉じ込めるための半透明な正四面体の結界を展開する史郎。

 彼らは光の帯でつながり、光り輝いた。



 

 しばらく結界を維持した史郎たちであったが、その光が弱くなりつつあるのを感じ、焦燥感しょうそうかんられた。

 

「くそ! だめだ、魔力が持たない!」史郎が焦りながら言った。

「私も、もう無理です……」ミトカは冷静だ。

「だめ、もう限界」シェスティアは苦しそうに言った。

 

 もう魔力がきそうなのだ。

 

 黒球は結界と接触し、激しい衝撃と雷光を周りに振りまいていた。

 その影響なのか、周辺は嵐のように風が吹きすさび、木々や岩が吹き飛ばされている。

 さらに、まわりからは魔獣まじゅうの群れが攻め込んできており、ありとあらゆる属性の魔術の攻撃が彼らに向かって飛んできていた。

 

 一瞬、シェスティアを包み込む光が弱くなった。

 その瞬間、一本の氷の矢が一人のシェスティアの背中に当たり、その体を貫いた。魔力が尽き、魔術しょうへきが解けたのだ。彼らの周りには、守ってくれる者はのだ。

 

「うっ」シェスティアは崩れ落ちた。

「シェスティア!」史郎は叫んだ。

 

 シェスティアが倒れたため、魔力の供給の維持が困難になり、結界は消滅する。

 そのとたん、黒い球が急速に拡大を始めた。

 

 史郎は崩れ落ちたシェスティアのそばまで駆けよると、彼女を抱きあげ、ミトカとともに少し離れた場所まで最後の力を振りしぼって転移した。


「あぁ……、シロウ、ごめん。でも、ありがとう。ここまで来れたのはあなたのおかげ。いつかもし生まれ変わったらきっと再び会えるよね?」

 シェスティアは涙を流し、シロウを力なく見つめながらつぶやいた。

 

「シェスティア、しっかりしろ!」と史郎は叫んだ。その顔が悲痛にゆがんでいる。

「シェスティアちゃん!」ミトカも叫ぶ。彼女も体中に傷が見え、つらそうな顔をしていた。

 

 二人とも満身創痍まんしんそういだ。史郎は治癒ちゆ魔法を使おうと試みるも発動しない。もはや魔力は残っていないのだ。

 

 そして、シェスティアは史郎に抱きかかえられながら息を引き取った。

 

「くっ!」と史郎は悲しみの衝動しょうどうで顔をふせ、シェスティアを抱きしめた。

 

 その瞬間、大地に衝撃しょうげきが走る。

 残された二人は黒い球のほうを振り返った。

 

 黒い球は今や巨大なドーム状になり、あたりを破壊し全てを飲み込みながら急速に拡大しはじめたのだ。

 

「……もはや、打つ手はないな。フィルミア様には申し訳なかった……」

「史郎、私たちはできることはすべてやりました。これでだめなら、もはや誰にも止めることはできません」

 ミトカはこの状況でも冷静に言った。

 

 原因不明の瘴気しょうきの増加、魔獣まじゅうの凶悪化、そして正体不明の存在による世界の破壊。

 

 その解決に立ち向かった三人であったが、ついに力尽き、すべてを破壊し尽くす黒いドームに飲み込まれていったのであった。


     ◇


 白い空間。メッセージが流れる。

 ――『フィルディアーナ世界が停止しました。管理神が現在時間ポインターの移動を発動しました。リストアポイントまで復元、再稼働処理を始めます……』

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