7-2. そんな茶番はさておき

***


 真っ白い部屋の中、丸椅子に座ってクルクルと回転する。調子に乗って思い切り勢いをつけると、椅子の脚をガツンと蹴られた。勢い余って落下。

「何ーカナちゃん」

 蹴ってきた相手を見上げ、頬を膨らます。

「……別に。顔がムカついただけだ」

「酷いなぁ。俺は生まれたときからずっとこの顔だよ」

「そういう意味じゃねぇよ。その、どや顔がうぜぇっつの」

「えー?なんで。なかなかの迫真の演技だったと思うんだけどな」

「おまえの見解聞いただけなのに、どうしてあいつの心情を延々と演技されなきゃいけねぇんだよ」

「谷口ね、谷口」

 着替えるために寄った保健室に着くなり、おまえはどう思うと聞かれたから、言われた通りに谷口のことを彼の心情交えて解説してあげた結果、なぜか怒られてしまった。せっかく一人称使わないで解説し終えたのに。失礼だな。

「あと、椅子で遊ぶな」

「カナちゃん真面目ー」

 話しつつ、さっき振り払われた手を開いたり閉じたりする。ちなみに俺が零したジュースはカナちゃんによって綺麗に拭き取られ、染みにもなっていない。

「もしかしてカナちゃん、おセンチ?」

「はあ?」

「いや、母親に手ェ振り払われたこと思い出したのかと」

「……殴っていいか?」

「ごめんごめん」

 慌てて謝ってみせれば、長いため息。ため息吐くと幸せ逃げるって何回も言っているのに。

「で、あいつはなんなんだ?」

「それはこっちのセリフだよ。カナちゃんには何も見えなかったの」

「ああ。特には。なんであんな奴が気になるんだ」

 話題を戻したカナちゃんに頷いてみせる。

「彼があーなったの、この春からなんだよね」

「ああなった?潔癖か?」

「うん、それそれ」

 元から極度の綺麗好きなら気にはしない。しかしこの春から、つまり俺たちが来てからというのが引っかかる。勘違いだったらいいのだけれど。

 それに、カナちゃんだってわざわざ谷口庇うような真似をして。実はカナちゃんも谷口のこと気にかけてたんじゃないのかな、なんて思ったら睨まれた。相変わらず怖い顔。

「ま、今の段階じゃ、俺たちどうしようもないけど」

 向こうから助けを求めない限り、俺たちは動かないし動く必要もない。そんなものは、ただの独りよがりな偽善だから。

「……だな」

 同意して、カナちゃんがゆらりと立ち上がる。あれ、なんだか不穏な気配。これはもしかして、俺がジュース零したことを根に持っている感じ?

「しつこい男は嫌われるよカナちゃん」

「しつこくねぇよ」

「過ぎたことをいつまでもネチネチと」

「ついさっきだろうが」

 さて、そろそろ休み時間も終わってしまう。カナちゃんに捕まる前に退散しないと。ヒラヒラと手を振って、保健室から抜け出す。

 谷口は同じクラスだ。さっき真田くんにもお願いしたし、相談しに来るきっかけくらいいくらでも作れるだろう。なんなら、谷口の友達から聞き出すという手もある。

 相談なんて、苦しくなる前にしてしまうに越したことはない。

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