6. 小話1

6-1. 息抜きはトランプで

 ガチャ、という音とともに開いたドアに、二人して手を止め、振り返る。

「あ、カナちゃん」

 入ってきたカナちゃんに声をかけつつ、手の動きを再開させる。

「あ、やった。俺次で上がっちゃうかも」

「そうはさせるか!ババ引きやがれ!」

「口悪いなぁ」

 そう、俺たちは今、絶賛ババ抜きバトル中。きゃいきゃい言いながら盛り上がっていると、カナちゃんからのツッコミが来た。

「で、なんでそいつがいんだ」

「俺が来たときすでに部室の前で待ってたから、招待してあげただけだよ?」

「そういうこと聞いてんじゃねぇよ。何か用あるんじゃないかって聞いてんだよ」

「えー?そんなの決まってるじゃ……なんで?椎名ちゃん」

「知らねぇのかよ」

 あ、よかった。ババじゃない。上がりだ。カードを捨て、手をパチパチとはたく。それを悔しそうに見て、椎名ちゃんが口を開いた。

「もっと仲良くなりたいなって思っただけなんだけど、だめかな」

 ちら、とカナちゃんを伺う椎名ちゃん。これはもしかして、依頼の時の慰めに完全に絆されちゃった感じかな。

 こちらをガン見してくるカナちゃんに、首をゆらゆらと揺らしてみせる。

「そんなに俺を見ないでよー」

「おまえが作った部活だろ」

「俺は構わないよ?椎名ちゃん可愛いし、面白いもん」

 部室に来る目的が、怖くて頭赤くていつも顰め面で愛想なくて怖いカナちゃんなのは解せないけれど。俺の方がフレンドリーで優しくて愛想良いと思うんだけどな。でもまあ、カナちゃん顔はいいからね。それに部室に女の子いるとそれだけで華やぐし。俺はむしろ大歓迎。

「なら、勝手にしろ」

「だって。やったね、椎名ちゃん」

 椎名ちゃんと二人でハイタッチ。ついでに、とカナちゃんに書類の束を渡す。

「なんだこれ」

「んー、提出しとけって町田センセが。明日までらしいよ」

 夏休みの教室使用申請に活動記録などなど。本当は随分前に渡されていたんだけれど、忘れていた。でもきっとカナちゃんなら明日に間に合うはず。

「てことで、あとはよろしくね?カナちゃん」

「あ?今さっきババ抜き終わって暇なんだろうが。手伝え」

「やだなあカナちゃん。俺はこれから隣のクラスの女の子にCD貸さないといけないの」

「知らねぇよ。休み時間にしろよ」

「休み時間は後輩の女の子からお弁当受け取らなきゃ」

「……今すぐ廃部にしろ」

「え、それは椎名ちゃんが悲しむよ」

 言って椎名ちゃんに目配せ。すぐに意図を読みっとって椎名ちゃんが泣き真似をする。グッと詰まるカナちゃん。というか、椎名ちゃんのためにも廃部にはできないし、俺はここから退散した方がいいだろう。

「じゃあね、カナちゃん、椎名ちゃん」

 にっこり笑って手を振って、カナちゃんに捕まらないうちにドアをすり抜けた。

 しばらく歩いて、携帯が着信を告げる。

「もしもーし?堺ミツくんだよー。……あ、久しぶり」

 懐かしい声に思わず笑顔になる。去年一年間、散々お世話になった人。

「うん?……うん、元気だよ。……部活?うん、作った。さすが、もう知ってるんだ」

 この人は本当に、抜かりがない。

 楽しめそう?そう聞かれて、今の状況を思い返す。カナちゃんがいて、好き勝手できる部室があって、椎名ちゃんがいる。きっとこれからもたくさんの人たちが相談しに来てくれる。だから、まあ、楽しめるかな。

 心の中で笑って、通話を切った。

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