第2話 報告義務とギャップ萌え
ラノベの神様を名乗る幼女が話し始める。
「とりあえず、あなたが『紅蓮のエンジェルマスター』のとうみなりさんよね?」
「はい、私が外海成です。」
なんか尋問されてる気分だ。
「『ぐエマ』のじゅっかんでたのも、まちがいないわね?」
「お陰さまで。」
ちなみに、『ぐエマ』というのは『紅蓮のエンジェルマスター』の略称です。
「どうしてわたしにほうこくしなかったのよ?」
「は?」
「だから、わたしに『ぐエマ』のじゅっかんでるって、ほうこくしなかったのは、どういうりょうけんなのよ!」
どうやら10巻目を出すときには神さまに報告しなければならないらしい。
そんな話聞いてないんだけども。
「す、すみません。ですが、私そんな話全く知らなかったもので……」
「しらなかった?」
彼女が睨んでくるが、今度はなぜか全然怖くない。
むしろ可愛さが誇張される感じだ。
ってか今思ったけどなんで僕は敬語を使っているんだろう?
相手の方が年下っぽいんだけど。
「はぁ?しらなかったですむとおもってんの?わたし、やろうとおもえばあんたのほんのうりあげへらせるんだからね。」
「本当、ですか?」
目線に疑問を込めて見つめる。
「ええ、『俺の人生ほどタイミング悪いもんもないでしょ 』のうりあげのばしたのも、『あんたの姉じゃなくってよ!』のうりあげへらしたのもわたしのやったことよ。」
どやっ、という効果音が聞こえるぐらいに胸を張っている。
張る胸もないのに。
ただ、確かに不自然なほどにその2冊の売り上げが急に変動したのは事実。
まぁ、ここは信じてやった方が面白そう。
「へぇ、それはすごいですね。」
「でしょ?でしょ?」
少し誉めただけですっごく嬉しそうに「でしょ?」を連発する。
意外とおだてに弱いかもしれない。
「あなたのしょうせつは、よんでておもしろかったから、ほうこくめんじょしてあげたのに……」
「あ、高評価ありがとうございます。」
面と向かって誉められると恥ずかしい。
「じゃあ、サインちょうだい。くれたら、こんかいのけんは、みのがしてあげるわ。」
……サインごときで許してくれるのか。
優しいというべきかチョロいというべきか。
ご丁寧に色紙まで持ってきていて、渡してきたので、
「名前は?」と聞くと「結乃よ」とのこと。
神さまなのに普通の名前なんだね。
色紙に慣れないサインを書き、端に『結乃さんへ』と書いて渡したらすっごく喜ばれた。
飛び跳ねそうなくらいに。
書いてあげた価値があったのかな、とこちらも嬉しくなった。
ついでに言うとめっちゃ可愛かった。
「つぎはじゅうごかんをだすときにほうこくよ。」
「報告ってどうやってやるんですか?」
「そらにむかって『じゅうごかん、だします!』ってさけべはいいのよ。」
「恥ずかしいなおい!」
「じょうだんよ、じょうだん。ほんとはこころのなかで、わたしのことかんがえながら、ぶつぶついえばいいのよ。」
「それはそれで見られたら怪しい人じゃないか?」
少しリビングに沈黙が流れる。
僕はその沈黙を打破しようと、新しい話題(そんなに新しくないけど)を出す。
「今度の報告はこっちに来られるんですか?」
「きてほしい?」
来てほしいかどうか?
そりゃもう、
「まあ、楽しいですしね。幼女とはいえ異性としゃべるのは。」
「でもざんねん。わたしだっていそがしいし……」
「そうですか……」
さっきより重苦しい沈黙が場を支配する。
沈黙につぶされそうだ。
「わ、わたし、そろそろかえるわ。」
「そ、そうですか。っていうかどこに帰るんです?」
「神さまがかえるのは、てんかいにきまってるでしょ。」
「そうですか。お気を付けて。」
返事もせずに結乃はドアを開け、その3秒後に戻ってきた。
「な、何があったんです?」
「そとが……くらいから……かえれない……」
若干涙目の上目遣い。
心臓を撃ち抜かれた音がした気がする。
「で、神さまどうするんです?」
「とめて……ください………」
「と言われましても、ウチも財政的に余裕ないんですよね。」
一人暮らしだから家族にばれる!
みたいな心配はいらないが、財政的に余裕がない。
「とめて……もうけいごじゃなくていいから……結乃ってよんでいいから……とめてぇ……」
さっきドアを開けるまで上から目線だった分ギャップ萌えが……
そして何より敬語じゃなくていいと!
「わかった、泊めてやるから泣くな結乃。」
早速名前で呼んでみると、満面の笑みで、
「おれいはいっといてあげるわ。」
と言われた。
そこは「ありがとう!」じゃないの?
急に上からになったし。
「は、はぁ……」
そして、結乃が上から目線になると無意識に下手に出てしまう自分が嫌になる。
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