間違い探しゲーム

間違い探しゲーム-1

 何の気なしに寄ってみただけだった。

 押したチャイム。出てきた葉月はどこか慌てていて、その様子をからかおうとして葉月、と呼びかけた。その瞬間、視線が下がり、視界に飛び込んでくるハイヒール。

「ざけんなよっ」

 頭に血が上り、気がついたら手が出ていた。ドゴ、という鈍い音と、呻くようなくぐもった声。目の前には、倒れこんだ葉月。紅くなった頬と、痛みを訴える自分の拳。

「何のつもりだよ。よく飽きねぇな」

 思ったよりもずっと、低い声が出た。頬に手を当てて、葉月が俺を見上げてくる。その顔に、諦めに似た苦笑が浮かぶ。

「容赦ないなぁ、笹本。何回受けても慣れないや」

 葉月の気の抜けたセリフ。

 苛立つ。こいつは、どうしてこんなに平然と。同じ過ちを繰り返すのだろう。

 なぁ、葉月。あんた、自分が何してんのか分かってんのかよ。あんたのせいで真弥がどれだけ苦しんでるか。本気で分かっていないのかよ。

「当たり前だろ」

 強い口調で言い捨てる。それでも頭に上った熱は全く冷めなくて。イライラと視線を彷徨わせた。その視線の中で、見覚えのない影が動く。長い髪。派手な顔立ち。知らない、女。思わず大きく目を見開く。

 その横を、女が無言で通り過ぎた。ハイヒールを履いて、扉を押す。外に踏み出して振り返り、何か唇を動かす。背後で、息を呑む声。振り返れば、葉月の瞳が泣きそうに揺らめいていた。

「今、のは……」

 掠れた声に、扉の閉まる音が重なる。

 今のは、誰だ?どういうことだよ。葉月。あんたは何をしている?

 未だに呆然と座り込んでいる葉月の腕を掴んで無理やり立ち上がらせる。そのまま引き摺るようにリビングの椅子に座らせた。

「説明しろよ」

「笹、本」

「どういうことだ?今の女は誰だよ」

「それは」

 困ったように視線を揺らす。まるで、誤魔化し方を探すかのように。

「あんた今、自分の立場分かってんの?」

「笹本」

 なぁ、答えろよ、葉月。

「人の妹に手ぇ出して、彼女とも別れずにさらに女作んのかよ」

「……」

「あんた、すげぇクズだな」

 葉月を殴った拳が、未だに痛む。

 確かにあんたは、昔からどっか欠けてたよ。好きが分からなくて、周りを見下して。だけど、いつからそんなにクズになっちまったんだよ。

 拳の痛み。葉月を殴ったのは、これが二回目だ。

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