この異世界で、地球を知っているのは俺しかいない

テイカー

第1話自称地球出身である男、アオイ

アオイが目覚めた時には、どこかわからないただの山小屋であった。


「ここは・・・・・・」


どこだ、までで口をつぐんだ。その先まで言葉をつむぐことはできなかった。


地面は冷たく、木の繊維が染み出さないが不快になるぐらいの湿り気を持っていた。


ここはどこか?その答えを教えてくれそうな人間は見当たらなかった。


見られたのはたった一匹の猫。では見たことのない種類。そしてその猫はアオイが倒れていた横で、いびきをかいて寝ていた。


「ぐごぉおおおおお」


「猫の出すいびきの音じゃないだろそれ」


鼻ちょうちんまでできていた。アオイはそれをつついて割った。


「ふがっ!・・・・・・にゃんだよぉ〜オイラがすやすや寝ているっていうのに、誰だよ邪魔したのー」


起き上がり、目をこすって立ち上がった。二本の足で。


その猫は二足歩行をした。その光景にアオイはびっくりし、じっくり観察する。


「なに見てんだよ陰キャ」


「あぁん?俺の顔見て言ってんなら食うぞゴラァ?」


悪口を言われてアオイはやっと気づいた。この猫と思われる生物が喋っていることに。


「てかアオイ、やっと起きたの?オイラアオイを待ってるの疲れたよ?だから言ったじゃーん。野宿なんかしないでさっさと宿帰ろうって。山小屋見つかったからってわざわざなけなしの魔力使って結界まで張って。その魔力あればちょっとぐらい魔法使えたしこの山抜けれたよ〜」


「なんで、俺の名前を知っているんだ?」


この猫とアオイは出会った記憶がない。こんな山小屋で寝た記憶もない。


そして魔力とは何か?結界とは何か?魔法とは何か?アオイは結界を張る能力はない。あるのは、黒い羽を作り出すことだ。


アオイの記憶の中で、地球上で魔力なんてものは存在しなかったはず。魔法も然り。あったのはだけである。


「ん?何を言ってるの?」


アオイの一言に、アオイの目の前にいる猫は理解ができなかった。


「それに魔力?結界?魔法?何のことだ?」


「アオイ?」


目の前の猫は心配になってきた。数時間前まで話していたアオイが、雰囲気こそ同じであるが、話の噛み合い方が異常なまでにひどいことに。


少しの間、どちらも声をかけることができなかった。互いが得体の知れないものに触れるのを恐れた。


アオイの記憶の中では、最後は普通に布団の中で眠った記憶しかない。


対して猫の方には、ついさっきまで山小屋で野宿をした思い出がある。小さい頃からアオイとずっと過ごしてきた記憶も。


「アオイは、覚えてないの?」


猫の方から、恐る恐る口に出していいものなのかわからない単語を聞いた。


「俺が最後に覚えているのは、こんな場所ではなく、一人部屋のベッドで寝たことだ。お前を今日まで見たことはない」


その衝撃的な発言に、猫の方は歪みそうになるぐらいの衝撃を受けた。悲しみに、涙がこぼれ落ちる。


「アオイは、この世界、ユートピアで生まれたよね?」


この質問はユートピア出身である人間に聞くのはあまりにアホらしい。地球で、地球で生まれたよね?と聞くのと等しい。


涙がこぼれる猫を見て、アオイは初対面なはずなのに心が傷んだ。自分がそんな男だとは思っていなかった。


「ユートピアとは何かわからないけど、俺はユートピアなんて世界は知らない。地球で生まれたからな」


アオイにはユートピアがわからなかった。世界の固有名称を聞かれていることだけはわかったから、自分が地球にいないことを薄く理解した。


アオイは、目の前の猫と得体の知れないものになった自分が怖くなった。

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