第5話 神に関する思索
神はどう定義されよう?すなわち、神と仮称される万物の超越者は、いかように定義され得よう?
神とは何か。私は考える。天使のステーキを喰らいながら。
神とは、万物の始祖であり、無限の力の象徴であり、光そのものであり、超越者である。そして?…。他には?
神とは、破壊者であり、万物の終焉である。ある極大化したエネルギーである。あるときは人にとって善であり、相対的には悪にもなり得る存在である。神とは両極を具有するものである。物質を克服したものであり、肉体の牢獄を持たぬ存在である。無であり、有である。すなわち、神とは両性具有の全てにおける両面性の一元化した概念である。…。
神が両面性の一元化した象徴であるとするならば、神になり得るものは、両極を所有せねばならない。さらに、超越した力を有さねばならない。何ものかを生み出せるものでなければならない。何ものかを破壊せしめるものでなければならない。誕生であり、そして終焉でなければならない。…。
誕生と終焉は、人ならば、いや、万物に共有されている。課題となるのは、始祖たることと物質の克服だ。肉体の牢獄を脱さねば、神にはなり得ない。
「天使を食らうことは、神にしかできぬ御技に他ならない。天使を創ることも神にしかできぬだろう。ならば?私はこれで神足り得るか?」
血の滴る天使のステーキは、食物として私の前に横たわっている。ナイフとフォークを用いて、私はそれを食す。甘美な味わいは、私を恍惚の彼方へと誘う。
「神とは、神とは。私は神にならねばならん。神とは。」
秒針の音が時間を削り取っていく。刻一刻と、私がただの死者になる時が、近づいていることを私は感ずる。それは、断じて許すことができない。私は、何としても神にならなければならない。人は病的と言うだろう。医者は、強迫性障害と診断を下すかもしれない。しかし、私はそれを超えてなお、神にならねばならない。
「…肉体を、魂で超越せねばならぬ。」
神とは霊であり、魂であり、それは精神である。それそのものが極めて精緻な抽象画である。
「支配、超越。それに最も相応しい方法は。」
ステーキを切り崩す。鉄の香りが鼻腔を擽り、食欲が刺激される。脳が興奮を覚えていることを感じる。それは、食欲とも性欲とも区別のつかない、いわばさらに原始的な欲求である。
「超越するものは、超越せしものを内包する。私は人を食った。天使を食った。」
赤ワインを口に含む。ステーキの最後の一欠片を口に運ぶ。時計はちょうど午前0時を指している。
「私は私以外の同種と上位種を食してなお、神には届かない。さらなる高みには。」
私は神にならなければならない。そうでなければならない。何としても、神であらなければならない。今まで食した全ての尊厳において。私の私自身たる所以において。
「私は死と再生、不老不死を超越する。神になるにはまだ一段階足りない。」
「私は、ウロボロスにならねばならない。」
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