第9話




 レオの腕を引いたアリアはイドラが消えた路地裏をひょいと覗くが、そこにはもう誰もいなかった。

 見失ってしまっただろうかと眉を下げたアリアの耳に怒号が飛び込んできた。喧嘩というには一人の声しか聞こえない。

 反射的に考えた。

 イドラは対面した相手が喧嘩腰になったとき、同じように声を張るだろうか? いや、張らない。


 一発で確信し、レオのほうを振り返る。


「あなたに責任は負わせないわ、これは私の我儘よ。イドラの所へ連れて行ってちょうだい。この辺りはあなたの庭なのでしょう?」

「……うーん、まあ、引いては、くれないよね」


 諦めたように呟き、こっちだよ、と彼は迷いなくアリアの手を引いていく。


「多分声の反響具合からしてこっちの道に……」


 レオは入り組んだ道をすいすいと進み、あっという間にとある路地裏にたどり着いた。


 そこにはイドラともう一人、対峙するように若い男が立っていた。

 イドラはいち早くこちらに気づいて視線の温度を一気に下げた。レオがひっと小さく震える。

 アリアはレオを庇うように立ち、毅然とイドラを見据えた。

 声は出さない。いくら彼を探しに来たとはいえ、巻き込まれては元も子もない。

 イドラは興味を失ったようにアリアから視線を逸らし、目の前の男を見た。男はアリアが来る前からずっと喚いている。


「てめ、てめえは、なんなんだよ! そこを、どけ、っつってんだろ!」

「お前、よそ者だな。その薬はここいらでは使われていない」

「は、あ? だから、なんだってんだよ。て、てめえにはやらねえぞ!」


 男の目は落ちくぼみ、焦点もあっていない。腕にはおびただしい量の注射器の痕がついている。

 ふらふらと歩く様はとてもではないが正気には見えなかった。


 イドラは少しだけ沈黙して、すらりと腰に刺していた細身の剣を引き抜いた。

 男は気圧されたように少し後ずさったが、すぐさま懐から武器を取り出した。それは最近武器として輸入され始めた、「拳銃」とかいう代物だった。素人でも扱えてしまう武器で、殺傷力も高い。

 思わずアリアは息を呑むが、イドラはにやりと笑うのみだった。


「そんなもので俺を殺すつもりか? 面白くないな」

「は、ははっ! ほざいて、ろよ!」


 男は簡単に引き金を引いた。鋭い音が空まで貫く。

 しかし、イドラは引き金が引かれる前にさっと身を屈めて剣を構えていた。銃は玉が打ち出される瞬間から、既に彼を狙えてはいなかったのだ。


 男は驚いて後ずさるが、薬の影響か、ふらついてずるりと足を滑らす。


「んなっ……」

「死ね」


 ずぐ、と彼の剣が男の腹を指し貫いた。

 アリアは一瞬も目をそらさずその光景を見た。だから、彼の瞳に隠しきれない憎悪が浮かんでいるのも分かっていた。それを、多分彼が自覚していないだろうということも。


「……」


 ぐっと唇を噛み締めて静かに彼を見る。アリアに口を出す権利はない。男は薬を使用していて、イドラはそれを昔から許してはいなかった。

 それは、彼のルールであると同時に街のルールである。


 彼は獰猛な笑みを浮かべて男から剣を引き抜いた。よく見ればその剣は刀身がぐねぐねと波打つような形をしている。

 男が絶命しているのを見て、彼の瞳からすうっと激情が消えていく。


「……面白くないな」


 ぽつり、と呟いたのと、アリアが足を踏み出したのは同時だった。


 返り血まみれで立ち尽くす彼に迷いなく近寄り、地に伏した男の姿は視界に入れないようにしながら懐から手巾を取り出す。


「顔まで汚れているわよ、イドラ」


 イドラは少し目を見張ったが、アリアはお構い無しに端麗な顔を拭き始める。手が震えるのは気合で抑えた。


「アリア、お前……」

「動かないで。下手な化粧みたいになるでしょう」


 ぴしゃりと言いおく。イドラは素直に口を閉じた。一通り拭い終わるまで、彼は何も言わずにアリアを見ていた。


「よし、こんなものね」


 満足げに頷いたアリアの手をイドラがぱしりと掴む。


「……お前、今の見ていただろう?」

「ええ、見ていたわ」

「怖くなかったのか」


 彼の表情は不可思議なほどに透明だった。アリアは一瞬動きを止め、静かに答える。


「怖いわ。人が死ぬところなんて……初めて、見たもの。けれど、あなたが間違っているとも思えない」


 あの様子ではきっと戻れなかっただろう。そのうち身を滅ぼすほどに薬を使っては、他人に迷惑をかけていたかもしれない。


「常識は結局常識でしかないのよ」


 絶対的な善も悪もこの世には存在しない。全ては相対的なものだ。それに囚われて、本質を見失うようなことをアリアはしたくなかった。


「あなたが正しいと思っておこなっていることを、怖いの一言で切り捨てるのはあまりに傲慢だわ」


 正直、笑いながら人を殺すイドラの姿はひどく恐ろしかった。けれど、その瞳の奥には楽しむ感情だけではない何かがあったし、今の無表情の彼からは悲しいほどの虚無しか感じない。

 それが、何故だかとても寂しかった。


 静かに目を伏せたアリアを数拍見つめたかと思うと、イドラは不意に顎を掴んで上向かせてくる。

 ぱちりと瞬くと、ふっとイドラの顔に笑みが浮かんだ。


「顔は真っ青なくせに、気丈なことだな」


 にやにやと笑われてかちんときた。


「誰のせいだと思っているのよ」

「ああ、俺のせいだ」


 まるでそれが嬉しいとでも言わんばかりだ。アリアは意味も分からず困惑する。


「……帰るぞ。疲れた」

「ええ、そうね」


 イドラはアリアの手を掴むと無言で歩き出す。レオがびくつきながら近寄ってきたが、イドラは怒らなかった。どころか、大きな手で少年の頭をわしゃりと撫でる。

 レオは状況が掴めずぽかんとした。しかしアリアの顔を見て気を取り直したのか後を追いかけてくる。

 アリアもそこはかとなく驚いたが、イドラはふっと微笑むと何も言いはしなかった。







 帰るときは流石に三人乗っているのを気遣ったのか、行きよりはよほど安全な運転だった。それでもレオは吐きかけたが。


「イ、イドラ様とアリア様、どういう体してんの……つーかなにこれ、馬酔いなの……?」


 馬から降りるなりふらふらと歩きだしたレオをイドラは面白そうに眺めていた。アリアはため息をついてレオの背をさする。


 不意にそのとき、イドラが足を止めた。


「?」


 少し顔を傾けて彼の向こう側を見る。

 そこには。


「やっと帰ってきたか、戦闘狂いが」


 吐き捨てるように言い放ったのは、家の前に堂々と立つフェルナンドだった。


「珍しいな、兄上。御自ら出迎えとはな」


 イドラは挑発するように口角をあげる。その服や肌に所々血が飛んでいるのを見て、彼は凄まじい勢いで顔をしかめた。


「ふざけるな。誰が好き好んでお前の出迎えなどするか。その服はなんなんだ。まさかまた無駄に人を殺したんじゃないだろうな」

「あのままだと街に被害が出ていただろうからな。安心していい、あれはよそ者だ……で? 何故兄上がここに?」


 低く穏やかな声が響くが、その目は笑っていない。フェルナンドはぐっと一瞬押し黙ると低く告げた。


「父上からの言伝だ。離れに向かえと」

「……なんだ、異民族か。それなら早く言ってくれ」


 いきなり目に光が灯り、イドラはばさりと上着を脱ぎ捨てるようにしてアリアに渡した。


「部屋にでも投げておけ」

「え、ちょっと!」


 唐突すぎる。

 抗議しようと彼の顔を見上げて、爛々とした輝きに何も言えなくなった。

 先程の、闇の底のような瞳とは違う、刃を閃かすような輝きが混ざっている。

 アリアが固まった瞬間、イドラは離れの方へと凄まじい勢いでかけていく。レオがぽかんと口を開けた。


「え、何、どうしたんだよ、あれ……」

「で、その餓鬼はなんだ」


 フェルナンドの鋭い声が飛ぶ。レオはハッと肩をこわばらせた。


「レオです。私が拾いました」

「……貴女が?」


 汚れ物を見るような目からレオを守るようにアリアは立つ。


「ええ。離れのほうに住んでいる方々の手伝いなどをしてもらおうと思いまして。あの方たちだけでは、どうにも心配でしょう?」


 自分たちの生命維持より戦いを選びそうで怖い────という意味だったのだが、フェルナンドはどうも違う意味で捉えたようだった。

 嘲りと愉悦の混ざった視線が離れに向く。


「確かにな。曲がりなりにも貴族の家の私兵だというのに、あまりにも汚らわしい野蛮人ばかりだ。分かっているじゃないか」


 アリアはぱちりと瞬く。フェルナンドは「しかし」と呟いて顔色を疑問に染めた。


「その餓鬼も、随分と小汚いようだが?」

「そんなことはありません。きちんと洗って身なりを整えれば綺麗になりますよ。平民はこれが普通なのです」


 当たり前のようににっこりと笑う。周囲に花が咲いたような笑顔にレオも唖然とした顔で瞬いた。

 フェルナンドは少し言葉を詰まらせてアリアを見た。


「大丈夫です。私がきちんと責任を持ちますから」

「あ、ああ……まあ、それならいいが……」

「良かったわね、レオ。いいらしいわよ。ほら、お礼を言って」

「あ、あの、雇っていただいて……あり、がとうござい、ます」


 ぎこちなく頭を下げるレオに、フェルナンドは曖昧に頷いた。


「ああ……」

「ところで、フェルナンド様はどうしてこちらにいらっしゃったのですか? イドラも……どうしていきなり離れに行ったのでしょう? あの人は大概説明が足りないと思うのですが……」


 アリアはするりと話題を変えた。困った顔で首を傾ける。

 フェルナンドは少し動きを止め、余裕のある表情を取り戻した。


「ああ……また異民族が出たんだよ。父上が、離れの私兵を連れてイドラに行かせろと言うから俺はそれを伝えにきたわけだ。この辺りは特に野蛮な奴らが多くてな……イドラも首領の頭を取ることしかしないからな。そうすると残党が面白いように逃げていくからだとか言っていたが……根絶やしにすればいいのに、馬鹿はやはり馬鹿だな」


 鼻を鳴らしてフェルナンドはそう言い放つ。レオがアリアの後ろで顔をこわばらせた。


「お前も大変だろう? あんな野蛮な男の隣に無理やり立たされて。聞けば、王都では婚約者がいたらしいじゃないか」


 えっとレオが小さく声を上げた。アリアは少し驚いてフェルナンドを見たが、不意に思案顔になる。

 彼はそんなことには気付かず、爽やかに笑う。


「初対面であんな雑な対応をして悪かったな。お前も被害者だというのに。そうだ、父上に離縁するかどうかについて相談してやろうか? あの男と一緒にいるのは苦痛だろう? お前が望むなら俺の妻にでもなればいい。次期当主の妻だ、いい椅子だろう? 俺も思慮深い女は嫌いじゃないからな」

「……っ、あんた、なに勝手に……」

「あの人は戦うことしか見えていないだけなのです」


 激昂しかけたレオを遮って、アリアは凛とする声で告げた。

 フェルナンドがぴたりと硬直する。


「……なんだって?」

「ですから、イドラの話です。彼が、異民族の首領だけを倒して終わりにする行動の意味のことです」


 いきなり三歩ほど戻った会話に戸惑うフェルナンドだったが、アリアは気付かず思案顔のまま言葉を繋げた。


「根絶やしにしてしまったら、もう戦えないでしょう? それが嫌なのだと思います。あの人の頭の中には『面白いかどうか』の判断基準しかございませんから」


 むしろ強い人ほど残しておくような気がする。彼は異民族を討伐したいのではなくて、戦い続けたいだけだ。


「ですから、あの人は別に馬鹿ではないですよ。少し思考回路が意味不明なだけで、嘘もつきませんし隠し事もしませんし、今まで会ったどんな人より誠実だと思います」

「は……?」

「あ、それから」


 アリアはやわく微笑んだ。


「ヴェルディ伯爵家は実力主義だとお聞きしました。ということは、イドラよりフェルナンド様のほうがお強いということなのでしょうか? 随分と自信がおありのようですが……」

「なっ……」

「ああ、勘違いなさらないでくださいね。どちらであろうと私はあの人と離縁する気はありません。私はあの人が死ぬまであの人の妻です」


 鮮やかな微笑みを残して、アリアはレオの手を引いて屋敷へ向かった。

 呆然と佇むフェルナンドの横を通り過ぎようとしたとき、唐突にぱしりと腕を掴まれる。アリアは咄嗟に笑みを貼り付けて振り向いた。


「なんでしょうか?」

「……お前は、あいつのことを知らないからそんなことが言えるんだ」

「はい?」

「あの汚らわしい血に汚される必要などない。俺にしておけ」


 意味が分からなかった。汚らわしい血……? 全く同じ血が自分にも流れているだろうに、一体何を言っているのだろう。


「……よく分かりませんが、私、まだやることが色々と残っているのです。一旦部屋に戻らせてくださいませ」


 笑みを崩さずそう言うと、フェルナンドは硬い顔のまま無言で手を離した。

 屋敷の中に入るまで、痛いくらいの視線が自分を刺しているのをアリアは感じていた。








 アリアとイドラの部屋に入ったとき、レオは大きく息をついた。


「……なんなんだよ、あの人、おかしいよ」

「あら、やっぱりそう思う? 良かったわ、仲間がいて。ここの人たち、イドラを対等に扱ってくれないから困っていたの」

「いや、イドラ様を対等に扱うことが出来るのはアリア様だけだと思うけど……」


 レオは困った顔でそう告げるが、すぐに顔を険しくした。


「……イドラ様は確かにちょっと、いやかなり………………物凄く、怖いけど」


 逡巡した末にそう評し、レオは息を吐いた。


「あの人より、よっぽど街の人には好かれてると思うよ」

「あら、やっぱりそうなの? オルガラン様もそう仰っていたわ」

「そりゃそうだよ! だって、ヴェルディ伯爵家の人たちはきっと、イドラ様とか紅花ホンファ様以外は街のことなんて、どうでもいいんだ。紅花ホンファ様が気にかけてくれなかったら、俺みたいな子供はもっと多いだろうし……」

紅花ホンファ様って……イドラのお母様の?」


 そういえば彼女には会っていないな、とアリアはぼんやり思った。異国から嫁いできたらしい彼女は、流石ヴェルディ家の女家長というべきか、女の身でありながらまるで騎士のように戦うのだという。

 彼女は生活リズムがアリアと正反対なので、顔を合わせたこともない。昼は大体寝ているのだ。


「そうだよ。紅花ホンファ様は、子供にすごく優しいんだ。たまに夜とか会ったことあるんだけど、いっつもお菓子くれる」


 にぱっと笑うさまはまだ年端も行かない子供のものだった。アリアはふっと微笑む。


「そう。イドラのお母様がそういう方で良かったわ」


 逆になぜ、そんな人格者からあの破天荒な人物が生まれるのかは謎だったが、そこは飲み込む。


「そうだわ、レオ。あなた、掃除や洗濯は出来るかしら?」

「え? うん、できるよ。俺、そういうの得意!」

「それは良かったわ。じゃあ、離れに行きましょう。仕事を説明するから」

「うん! ……って、離れって、私兵って人たちがいるんでしょ? イドラ様も……戦いの準備してるんじゃないの?」

「あら、だから行くんじゃない」

「え?」


 目を丸くしたレオに当然のように微笑む。


「私は、あの人を見極めなくてはいけないの」


 街の中で言ったのと同じ言葉に、レオはかくんと顎を下げる。


「アリア様、まさか……」

「ええ、そのまさかよ。あなた、夜目はきく?」

「え……うん、そりゃ、俺は夜に色んなとこ漁りに行ってたし……」


 急に横道にそれた話にも律儀に頷くレオだった。そんな彼に向かってアリアは破顔する。


「ならとても都合がいいわ。給金は弾むからついてらっしゃい」

「え、え、ちょっと待ってよアリア様、本当にまさか、前線について行くつもり?」

「前線にまでは行かないわ。イドラが安全だと判断した場所から眺めるのよ」


 レオは絶句する。アリアはにっこりと微笑んだ。花は花でも、徒花のようだった。


「私は、あの人のことを知りたいのよ」










「と、いうことで、私も連れて行ってほしいのよ、イドラ」


 顔を突き合わせて前線での行動を計画していた中に乱入したアリアは、どう見ても異彩を放っていた。紅一点のアリアには場違い感しかない。

 私兵である彼らは意味を飲み込むのに一拍を要し、途端に火がついたように騒ぎ立てる。


「何言ってんすか、駄目です!」

かしらの奥さん危険に晒してみてくださいよ、俺らが死にますって!」

「大体どうして一緒に!? まさか戦いたいんですか!?」

「あら、そんなことないわ。私はイドラではないもの」


 男たちはたちまちに言葉を失う。イドラより物騒な発言をしているということに気づくアリアではなかった。


 奥の席に深く腰掛け、様子を眺めていたイドラがぽつりと告げる。


「おい、アリア」

「何かしら、イドラ」

「お前、戦場に行きたいのか?」

「ええ、そう言っているのよ」


 アリアはどこまでも毅然と答えた。レオはその背に隠れて縮こまっている。

 イドラの目はいつもと違ってなんの色も示していない。しかし、闇の中にほの暗い興奮が混じっているのがアリアには分かった。


「私に『調教』してもらいたいのなら、隠し事は許さないわ。すべて見せなさい。代わりに私も私の全てをあなたにあげるわ」


 愛を囁くような言葉を平然と発し、彼女は凛と立つ。イドラは無言で目を見張った。

 そうしていくらか時間が経ち、ふっと、彼は歪んだ笑みを浮かべる。


「分かった、お前を連れていく。エドガー。予定していた戦力の半分をアリアの護衛につける」

「は!?」


 エドガーと呼ばれた神経質そうな男が目を剥いた。アリアも何度か瞬く。明らかに過剰だ。


「そんなにいらないわ、イドラ」

「いや、駄目だ。お前が殺されたりでもしたら、俺は何をするか分からん」


 予想外の言葉に呆気にとられた。イドラはアリアを無視して隣の男に話しかけた。


「今日は高みの見物でもしようかと思っていたが、気が変わった。俺が最初から戦いに混ざる。それならいいだろう」

「っ、それは……!」


 ざわっと空気が揺らいだ。


かしら、そ、そりゃ本当ですか!?」

「俺は戦いに関して嘘はつかん」


 きっぱりとした答えに男たちが湧いた。割れんばかりの歓声に思わず顔をしかめる。

 意味が飲み込めない。


「……えっと、つまり、私は結局ついて行っていいのね?」


 アリアは考えることを諦めた。イドラがにやりと笑う。


「俺以外を見るなよ、アリア」


 薄い唇が動く。ぞわりと背中が震えた。


「────もし俺以外を見たら、殺すぞ」

「……上等だわ」


 まるで夫婦とは思えない言葉を残して、アリアは戦場に赴くこととなったのだった。

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