幕間

「────確認したとおり、全員寝静まりました」


 深夜。

 ヒスイが咲良に呼ばれ、リビングに入る。

 灯りはわずかにしか灯されておらず、テーブルの奥に座る咲良の表情はよく伺えなかった。

 そのただならぬ雰囲気にヒスイも息を呑み、意を決して彼女の前に座る。


「……それで話とは」


「そうね。最初に切り出すとすれば……。今回の戦闘、どうだった?」


「はっきり申しますと力不足を痛感しています。魔法少女を殺す、その思想を掲げているからには実力は伊達ではありませんでした」


「……やはりね。魔法少女は魔獣を倒す存在。つまり、化け物を殺す存在と真っ当に相対しようと言ってるのだからね」


「彼女らは、今回の戦闘を手合わせと称しました。私達を脅威とは見なしているものの、どうやら舐められているようです」


「でも実際に私達を下に見るほどの実力は兼ね備えられている。最初に言った通り彼女らを止めるほどの力をまだ持ち合わせていない」


 咲良の厳しい言葉にヒスイは口を噤んでしまう。

 認めたくないが自分より実力のあるユウですらユイハに敵わず、ドロシーも格別な強さを誇っていた。セナが偶然にもパンドラの力を持っていたから彼女らを退かせることができたのだ。

 

「ガンドライドの目的の一つに魔女の復活がある以上、今回の戦闘で彼女らにパンドラを知られたのはまずいわね。そう遠くない内に彼女たち仕掛けてくるわよ」


「……対抗手段はあるのでしょうか?」


「技量、戦法を身に着ける……だけじゃ正直厳しいわね。彼女らを上回る程の力を手に入れなければいけない。一番手っ取り早いのは魔獣化を促進させることなのだけれど、流石にそれは許可できないわよ」


「分かってます。私としてもこれ以上『人間性』は下げたくないです。特にヒメコが危険な状態ですし。でも、他に手はあるんですか」


「ええ。だから、あなたをここに呼んだのよ」


 そう言って咲良は一枚の資料を取り出す。

 それに目を通したヒスイの表情が徐々に険しくなっていった。


「…………?」


「あなた達が使っている魔法とは似て異なるもの。超常現象を無理やり引き起こすのが魔法なら、物理法則そのものを捻じ曲げてしまうのが魔術よ。魔女たちは主にこの力を使っていたわ」


「物理法則そのものを捻じ曲げる……?」


 咲良の言葉にピンと来なく、首を傾げるヒスイ。

 魔法でも十分な力を発揮する代物だ。文面だけならそれを上回るほどの力を行使するらしいがイマイチ想像が浮かばない。


「まあ、そこまでの力を引き起こすには膨大な魔力と手間が掛かるから今回は魔法の強化版と思ってくれればいいわ。魔術の実践はまだ計画中でね。いわばこの魔術は実験なの」


「つまり、私が被験者になって魔術を使えばいいんですね」


「その通り」


『連盟』は名前こそ壮大だが、元々は研究施設である。魔法少女の存在自体は遥か昔からあるが、本格的に兵士として導入し始めたのは最近の出来事であり、彼女らに投資されている技術はまだ実験段階であることが多い。咲良の『魔獣を使って魔法少女を生み出す』という計画についてもだ。故に魔法少女たちのほとんどは実験台にされていると言っても過言ではないし、事実被験者になるだけの事情を持つ子たちも多く集まっている。

 だから、新しい技術の被験者になるという提案をヒスイはあっさりと受け入れた。断る理由も特にない。


「一応他のメンバーには黙っておいて。しばらく魔獣の戦闘で使ってみてその結果しだいで実戦に使えるかどうか判断するから。使い方とかはまた後日説明するわね。じゃあ、今回はここまで。夜遅くにごめんなさいね」


「いいえ、ありがとうございます! 必ずお役に立つよう頑張ります!」


「ふふ、良い返事。でも、無理はしないでね」


 そう言って咲良は微笑みヒスイの頭をそっと撫でる。

 されるがままのヒスイは嬉しそうに目を細めながらも、心の奥底で静かに闘志を燃やしていた。


(咲良さんから頼んでくれた。私にだけ教えてくれた。ユウたちにはない、私にだけ与えてくれた────力)


 今日の戦いでヒスイは力の差を見せつけられた。

 ドロシー、パンドラ。

 そして潜在的な能力ならヒスイを超える力を持つユウに対等に戦ったユイハ。

 みんな、ヒスイより強かった。


(そう、この力は私だけのもの。私が強くなるためのもの。強くならなくちゃ。みんなより、もっと。もっと。必要とされるために)


 何度も、心の中で言葉を噛み締めながらヒスイは静かに部屋を立ち去る。

 その後ろ姿を咲良はじっと見つめていた。



「…………ちょっとだけ、心配ね」



 小さく呟いたその言葉は、ヒスイの耳には届かなかった。


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