第5話 やっぱりあんたが『鍵』なのね
何が起きたのかかいつまんで説明しよう。
まず目の前に魔獣が現れた。このままでは殺されてしまう。
そこでユウは魔法少女に変身すべく、何やら青色のクリスタルを取り出した。これをどうするのかと思ったら、あろうことかクリスタルを躊躇なく胸に突き刺したのである。
しかし出血はせずユウも笑ったまま。そのまま呪文のような言葉をつぶやくと同時に今度はユウの体が青い炎に包まれてしまった。しかし、この炎に熱はなくユウの体が焼かれている様子もない。そして炎が一瞬にして引いた時にはユウの衣服は漆黒のゴシックドレスに変化しており、見事変身してみせたのである。
「やっぱり意味が分からない────!?」
目の前で起こった目まぐるしい展開にセナは混乱していた。
胸に刺すのと体が燃えるというどう見ても死は免れない行為を二度も行って傷一つなく立っているのだから無理もないだろう。
「っていうか何ですかそのクリスタル! どっから出てきたんですか!? なんで燃えたんですか!? 原理は!!!???」
「うるせぇな、質問が多い。黙って守られてろ」
「ぐっ、正論で返された……! いえ、でも超常現象とは言え流石に気になるのですが!」
と、そこでセナのスマホから着信音が鳴った。
「こんな時に誰から!?」と更にパニックに陥るセナだったが、とりあえずスマホを取り出してみる。画面に表示されていた相手の名前は『咲良ちゃん✩』と書かれていていよいよ意識を投げ出しそうになってしまった。
「も、もしもし」
『はぁい、皆の咲良ちゃんだよー✩ その疑問、私がお答えしましょう!』
「その前にいつから連絡先交換したんですか!? 怖いんですけど!!」
『さっき、スマホの連絡先を見せたでしょう。あの時に一瞬映ったあなたの電話番号を記憶したの』
「へぇーすごいですねーでもその才能を他のことに活かしてください! 犯罪です!!」
『まぁまぁ、今ユウちゃんが魔法少女に変身したでしょ? たぶん何が起こっているか分からないんじゃないの?』
「何とも都合が良すぎて不気味なんですが、よろしければ説明お願いします」
『はーい』と機嫌よく咲良が答える。
咲良によればこういうことなのだそうだ。
まず、魔法を行使するにはエネルギーとなる『魔力』が必要となり、これは体中の血管に巡っている。通常、魔法を使用するぐらいならわずかに魔力を消費するぐらいで済むのだが、魔法少女として戦うには全身を強化させないといけないので、莫大な魔力を消費するという。更に全身強化をかけるために、血管の隅々にまで巡っている魔力を全て使わないといけないそうだ。
そのために、魔力が詰まった鉱物・『魔石』を自分の心臓に注入し魔力を解放。その際に心臓が大きな収縮をするため、隅々にまで魔力が素早く供給されるため、満足に魔法少女として戦えるそうだ。
そして変身した際に体が燃え上がったのは、彼女が炎の魔法を得意とするためである。いわば、変身する際に自身の属性を付与し
「文字通り心臓に悪そうな変身ですね……」
『これも魔獣たちを狩る使命のためよ。それに魔獣と適合しているから体は丈夫になっているわ。医師の見解でも問題はないそうね』
「……とりあえず、今はあなたの言葉を信じます。ご親切にありがとうございました」
そう言ってセナは通話を切り、正面を向く。
目の前には庇うように立ち塞がり、刀を構えるゴシックドレスの魔法少女・ユウ。その前方に対峙しているのは一度彼女に襲いかかった黒い獅子のような魔獣だ。
「ヒメコ、十秒で片付けるぞ」
『もちろん!』
ユウの言葉にヒメコが明るく答え、ユウは一度だけ息を吸う。
十秒とは彼女の揶揄なのだろう、そうセナは考えていた。
だが、直後にセナは目を疑うことになる。
ユウの持っていた刀が青い炎に包まれる。どうやらこれが彼女の扱う主な魔法らしい。
そしてくるぶしの下からも炎に包まれ、ユウは右足を一歩後ろに下げた。
直後、魔獣の首が落ちていた。
「…………ん?」
何が起きたのか理解できず、腑抜けた声を出すセナ。
元あったはずの首があったところを何度も見つめ返し、気配を感じて視線を上に向ける。
ユウの足元から火が噴き出していて空中で回転していた。
「何ですか、それぇ!?」
驚きの声を上げるセナ。
無理もない。まるでSF世界のサイボーグのように足から火を噴き出させロケットのように飛び上がったのだから。
着地したユウは顔色を変えることなく平然と答える。
「とまあ、こんな具合にあたしは炎を自在に操れてな。ブースターのように勢いよく出して飛び上がれるし、火炎放射機のように前方に放出して燃やすこともできる。ちなみに色が青いのは温度が高いのではなく、退魔効果があるらしいからだぞ。周りのお偉いさんからは『青焔の魔法少女』とかって恐れられてる」
「いや絶対自慢していますよねそれ! ちょっと顔がドヤってますよね!!」
「フッ」
「フッ、じゃないですよ!!」
一度襲われた相手をああも簡単に葬り去ってしまわれてセナは何ともいえない気持ちになってしまっていた。
しかし、護衛として考えるならばこれ以上ないほどの戦力だろう。持ち前の精神も相まって頼もしさが増している。
「と、とりあえず助かりました……。イマイチ釈然としませんけど」
「何、喰われたかったの?」
「違いますよ。しかし、もう少し雰囲気というかこう、見栄えというか……」
「いちいちテレビのように戦ってたら死ぬ」
「正論……」
やはり現実は非情なのであろう。頭の中でイメージしていた魔法少女の像が崩れていくが致し方なしと諦める。
ユウは魔獣討伐の報告をヒメコに伝えようとインカムへの通信を始める。
「おいヒメコ、とりあえず終わったぞ。あと何体いる?」
『────』
「ヒメコ?」
しかし返答はなくユウは疑問に思った声を出す。
次第にその表情は焦りへと変わっていく。
「おいヒメコ! 聞こえているなら返事しろ!! 冗談はよせ、あと何体いるか聞いてるんだよ!!」
「ユウさん、待ってください!」
「ああ!?」
苛立ちながらこちらへ振り返るユウにセナはびくりと体を震わせるが、セナは堪えてスマホの画面をかざしてみせる。
「さきほど、わたしも咲良さんと通話できたんですが……。今は圏外になっています。ひょっとしてこれと関係が……?」
「圏外……。クソ、おかしいな。今まで圏外とはいえこちらでも通信できたはずなんだが。何がどうなってやがる」
「じゃーその疑問は私が答えるねー」
「「!?」」
突如、耳に入ってきた第三者の声。
セナとユウは同時に前方の暗闇に目を向ける。
コツコツ、と足音を響かせながら何者かが近付いて来る。
その正体を見たセナは、
「────ドロシー?」
と、声を漏らしていた。
※※※※
「どうしよう咲良さん、通信が入らなくなっちゃった!」
「落ち着いてヒメコちゃん」
一方その頃。
通信が途絶えたことにヒメコは焦りを感じ、咲良は冷静にその様子を眺めていた。
異界は確かに現実の世界と異なるとはいえ、本来なら通信は普通に届く。異界とは現実とちょっと『ズレた』世界であって、現実世界との違いは大層ないのだ。
故に今回起きた現象はまさしく異常事態である。
(現実と異界への解離性が増しているわね……。しかし、ここまで強く分けるのは魔獣の手では不可能。人為的によるものか?)
「ヒメコちゃん。ひとまずユウちゃんたちの元に向かって頂戴。サポートは私がするから。くれぐれも気を付けるのよ」
「了解っ!」
ヒメコも幼いとはいえ、魔法少女である。更に彼女は他の魔法少女たちと一線を画す。
その特殊すぎる能力を持つが故に普段は戦場へ出されないが今回のようなイレギュラーな案件が起きては出動せざるを得ない。
最も、当の本人はユウの安否を心配しているようなので出動する気は充分にあるのだが。
「ヒメコ、行ってきます!」
「ええ、行ってらっしゃい。危険を感じたらすぐに引いてね」
「わかってます」
一言だけ返し、ヒメコは外へ駆け出す。
見送った咲良はパソコンの画面に目を向け、一言ぽつりと呟いた。
「さあて、誰の仕業なのかしらね……」
※※※※
「ドロシー……?」
(────って誰!?)
独りでに呟いた直後にセナは自分の言葉に疑った。
彼女は記憶喪失である。当然ながら目の前にいるこの人物の名前など知っているはずがない。
なのに何故、名前を口に出していたのだろうか。
「へぇー面白い。やっぱりあんたが『鍵』なのね、お嬢ちゃん」
目の前に立つ人物がセナに指を向けながら言う。
三つ編みで束ねたおさげの金髪に金色の瞳の少女。中世のヨーロッパを思わせる服装を着用しており、異質な雰囲気を纏っていた。
『鍵』、と少女はセナのことを呼んだが当然ながら彼女には知る由もなく、混乱する。
セナの呟きを耳にしていたユウは交互に顔を見合わせながら、セナに問いかける。
「おい、セナ。こいつお前の知り合いか?」
「い、いえ。そうでしょうか。わたし記憶がないから……」
「まぁー私もあんたの姿を見るのは初めてかなー。どうも、魔法少女のドロシーです。よろしくね♪」
「!」
笑顔で彼女はそう告げる。
しかし、セナはともかくユウは内心彼女が魔法少女ではないかと感づいていた。それもそうだ、この現代しかも日本で奇抜で目立った外見を持つモノなど大抵魔法少女に当たる。
何より、彼女が纏っている雰囲気が異様なのだ。ファッションセンスはともかく、そのオーラが彼女を魔法少女たらしめる所以であることを密かに告げている。
「そ、そうか。たぶん外から来たんだよな? この街に派遣されてきたとか?」
「んー、そうとも言えるし個人的な用件もあるしー。というかそこのセナ? って地味子ちゃんに用があるんですけどー」
「……はっきり言え」
セナへの案件、それを耳にした途端にユウの表情が険しくなる。
元々この少女から友好的な態度が感じられない。おまけに外から来たのにも関わらず、記憶喪失のセナに用件があるというのだ。更にセナは無意識にだが彼女の名前を口に出していた。どう考えても怪しすぎる。
ひとまずユウはセナの護衛を優先させることにした。彼女に警戒しながら刀を強く握り締める。
ユウの様子にドロシーは「あら」と呟き、口を開いた。
「これはちょっと……第一印象失敗かな?」
「ああ、察しがよろしいようで。あいにくセナは記憶喪失でな。お前の『用件』とやらも無駄足になりそうだ」
「ゆ、ユウさん。大丈夫ですよ、わたし話聞きますから────」
「セナは覚えていなくても『鍵』の記憶を引っ張り出せばいいから構わないよ」
「え?」
セナの言葉を遮るようにドロシーが呟く。
直後、眼前にドロシーが現れていた。
「えっ、あ、ぇ?」
「ちょっと失礼」
ぐじゅり、と何かを貫く音が響いた。
セナがその方向に視線を向けると。
ドロシーの腕が左胸を貫通していた。
「あんたも酷い奴だよ、■■■■────」
そこから先の音は、ノイズにまみれて聞き取れなかった。
激痛を覚える間もなく、セナは意識が途絶えた。
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