【6月】勝負を仕掛けるのは、誰だ。

【前編】

【お兄ちゃん日誌⑦】 長男・伏見恵

 ここ数日、気付けばスマホを片手にため息をついている。電話帳から探さずとも、完全に指が覚えているその番号を入力し、けれども呼び出しは押さずに、その画面を見つめるだけ。


 最愛の……いや、さすがに妻や子の前では言えないが、それでも可愛いことには変わりない妹の潤に、どうやら恋人がいるらしい。それも結婚間近の。

 いや、恋人それ自体はまぁ良い。あいつももう30になるしな。むしろ恋人の1人や2人いるのが普通だし、いるのなら、年齢的に結婚の話にもなるだろう。いやいやさすがの潤でも2人もいたらまずいか。


 ただ、それがなぜ回って来たのか、という点が気になる。


 読者諸君は、潤と若菜ちゃんは同性なんだからそういう話をしてもおかしくないと思うだろう。いや、違うんだ。確かに潤と若菜ちゃんはそれなりに交流はある。あるけれども、潤はこれまで一度もその手の話を若菜ちゃんにしたことはないのだ。「私はそういう話がしたいのに~」と若菜ちゃんが妻の万智まちに愚痴っているのを聞いたことがある。


 とすると、だ。


 潤はもしかしたら、直にその話をしていたのではないだろうか。


 俺を差し置いて。

 長兄である俺を。


 しかも、俺は兄弟で唯一の既婚者だぞ? いわば結婚のエキスパートだ。

 直は、結婚が決まったっていっても最近じゃないか!


 何で直なんだ、潤!

 

「……けい君、そんなに気になるなら直接聞いたら?」

「う、ううむ。いや、でももしかしたら潤の方からかかってくるかもしれないしだなぁ……」

「全くもう、潤ちゃんが絡むといつもこうなんだから。『東中の鬼国語教師』はどこに行ったのよ」

「ううう……しかし……」

「うじうじしてる恵君なんて、恵君らしくないわよ。どうせ遅かれ早かれそういう話になるんだから」

「そ、そうだな……」


 と、万智に背中を押され、俺は潤の番号が表示されたままになっているスマートフォンの『呼び出し』をタップした。

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