【お兄ちゃん日誌②】次男・伏見朋
3月8日
愛用しているボールペンの最後の1本がとうとうインク切れになってしまったので、休日を利用して買いに来た。
仙台はとても住みやすいところだ。
東北とはいえ、太平洋側だからか気候も穏やかで暖かい。
車を出しても良いのだが、天気も良いことだし、歩いて色々回るとしよう。
やって来たのは
昔ながらの文房具屋というのも良いが、何でもそろっているホームセンターもなかなか侮れないのだ。ついつい余計なものまで買ってしまったりするので、自分を強く律する必要があるけど。
しかし問題は、そのペンの名前を忘れてしまっただけではなく、出掛ける直前に鞄の中に入れたはずのそのペン自体も見つからない、という点である。
はて何だったか。困った。
妹の潤によく指摘されたものである。
「朋兄って案外抜けてるよね」と。いやお恥ずかしい。
その上、愛用していた眼鏡を落としてしまい、つるが曲がってしまった。とりあえず鞄の中に入っていた度付きのサングラスで当座をしのぎ、眼鏡も修理に出すことにした。確かここの隣に眼鏡屋があったはずだ。
さて、肝心のボールペンであるが、残念なことに俺が愛用している万年筆型ゲルインクボールペンは廃番になってしまったらしい。やけに目付きの鋭い営業マンがそう教えてくれた。
けれども、運良く後継商品があるとのこと。試し書きもせずにあるだけ買ってしまったが、うん、書き味もまぁ悪くない。
ペンというのは消耗品だからな、高いやつはここぞという時にジャケットの胸ポケットに入れとくだけで良いんだ。アクセサリーのようなもの、というか。
だからとにかく書きやすければ良い。
おお、インクの乾きも良いじゃないか。これは当たりだな。……と思ったら、これは潤のところの製品じゃないか。別に妹の勤めてる会社だからって手放しで褒めるわけじゃないけど。
何せ『あけぼの』はどちらかといえば紙ファイルの豊富さがウリで、筆記具は当たり外れがあるからだ。俺はそうだな、筆記具なら『金魚鉛筆』だ。あそこは筆記具一本でやって来た企業だから、どれも安定して使いやすい。けれど、ウチの若い女性社員達に言わせれば、『
しかし、眼光の鋭い男だった。
営業なのに、あれで務まるのだろうか。
他人事ながらちょっと心配になる。
というのも、俺なんて別に目付きが悪いわけでもないのに「笑顔でさらっと2、3人殺してそう」とか言われてしまうからだ。ヤクザの弁護士なんてよく言われたものだけれども、ヤクザの弁護士は人なんか殺さないはずだが。
だからきっと、あの営業の彼も見た目でかなり苦労しているに違いない。
ただ、見た目は少々アレだし、声も小さかったが、接客態度そのものは悪くなかった。自社商品ばかりをごり押しせず、
だから、どうか彼が、そういう部分をきちんと評価してくれるような上司なり同僚に恵まれているようにと願うばかりである。
けれど、あけぼのならば、潤が働いている職場なのだ。だからきっと彼は大丈夫だろう。
まぁ、まかり間違って可愛い妹に手を出さなければ、だが。
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