第3話 勇者たちの真剣勝負
戦いは続いている。
ゴギィン!
鎖を絡ませた2m四方の岩を大剣で打ち上げた。
同時に地面を蹴り、空中へ。
剣と鎖は繋がっており、鎖が延びきったところで自身と大剣を空中で加速させた。
同時に岩は加速を弱めて落ちてゆく。
岩から鎖はゆるりと外れて、彼と一緒の早さで上昇していった。
空中から攻撃をしていた魔法勇者の正面にたどり着いた。
お互いの顔が10cmにも満たない距離での挨拶が始まった。
「いよう!来てやったぞ!」
「へへっ、筋肉ダルマのくせに!空を、飛んでくるんじゃねぇよ!」
「悔しかったら飛んでみな?とか言ってなかったか?」
「うるせぇ!魔法の無い世界の勇者が飛んでくるんじゃねぇよ!」
「ふん!」
大剣を空中に置いて、握りこぶしで殴った。
魔法勇者の顔左側にあった防御魔法が皿の割れるような音とともに砕け散った。
ごすぅっ!
見事に右ストレートがクリーンヒットした。
詠唱中に受けたダメージにより、魔法勇者は気を失ってしまった。
「そこまで!」
ゼルドは地上から叫んだ。
が、筋肉勇者は気づかない。
空中に置いていた大剣を右手に持ち、たたみかけるようにこれををふり下ろした。
ぶにゅん。
振り下ろした先には魔法勇者ではなく、キストがいた。
キストと筋肉勇者の間にはゲル状のモノがさえぎっている。
少し青みがかった透明なモノだ。
「キスト!きさまっ…」
「まてまてまて。お前、ゼルドの声が聞こえてなかっただろ!」
焦りつつも苦虫を潰したような、少し右の口角が上がった感じの表情を浮かべるキスト。
「お前の勝ちだよ。その剣を引っ込めな」
「ふん」
筋肉勇者が大剣をゲル状のモノから引き上げたのを右肩に置いたのを確認してから落下中の魔法勇者へ振り返り、手を伸ばした。
と同時に正面から爆炎が広がってきた。
「まじか!?」
魔法勇者の意識が戻ったのである。
勝負は決していたのだが、本人は気づいていない。
目はかすみ、耳は耳鳴りしか聞こえず、鼻からは鉄の香りがした。
落下しつつ、勝負は終わってない!と考え、続きの詠唱をしていたのだ。
キストが魔法勇者に手を伸ばした行為が、筋肉勇者からの物理攻撃2発目を予感させたのだ。
一瞬、菊の花が開花するような動きをしてから、ユリの花のようにシャープな火炎がキストと筋肉勇者に向けて放たれた。
「うそー!?」
ジジジ ジュッ
焦げるような臭いとオレンジや紅色と白色の混合色。
それを見ることが出来るのは、キストの1m手前に防御の盾が存在しているからだ。
ゼルドが装備していた盾が目の前にあって、火炎魔法を食い止めている。
焦げ臭いのは盾が来る前に少しばかり、焼かれたからだ。
「あっちもこっちも炎だらけかよ!」
キストは意味不明な台詞を残し、空中から姿を消した。
成り行きを冷静に判断していたゼルドが右手を挙げた。
左手の人差し指と親指で輪っかを作り、口に含んで口笛を鳴らした。
その口笛に乗った言葉が魔法勇者の脳へ直接語りかける。
「勝負は決しました。終了です。降りてきてください」
それは筋肉勇者の脳内へも届いた。
筋肉勇者はゼルドを見下ろした。
彼へは手のひらを向けて、制止し威圧をかけた。
これ以上続けるなら、私が参戦するという意味を含んでいる。
逆さまに落下しながら、筋肉勇者はつまらなそうな顔をした。
「ふん!」
筋肉勇者は地上すれすれのところから地面に向けて大剣を振り下ろし、落下速度を相殺してからフワリと地面に立った。
魔法勇者は十字架に張り付けられたようにうなだれながらゆるゆると降りてきて、地上に足が着いたと同時に地面に両腕をついた。
「勝者、筋肉勇者!」
ゼルドは宣言した。
筋肉勇者は魔法勇者の肩を担いだ。
「私は負けたのか…この筋肉ダルマに…」
「そうだ」
「私の魔法は効かなかったのか…」
「いんや、けっこう効いたぞ」
「そうか…」
「魔法と魔法の隙間が空きすぎんだよ、そこを突いただけだ」
「となると、私は穴だらけだな」
「そこら辺の対策は戻ってからにしようぜ。もう腹減ってんだ、オレは」
「私もだ」
二人の後ろを歩いているゼルドは少し口を緩ませた。
目前にドアが現れ、その中に3人は入っていった。
「メシのうまいマスターが来てるとありがたいな!」
ドアが消え、コロシアムも消えた。
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